第339話_麻薬組織の壊滅
城に到着すると、いつもと違う雰囲気に一瞬だけ戸惑った。巨大な倉庫のような場所だ。見慣れた応接間や会議室のようなところに入れられる資材の量じゃないし、商人が出入りできる場所も限られているんだろうから、考えてみれば当たり前だね。でもこんな場所に立派なマントを着用した王様が立っていることが不自然で、ちょっと可笑しい。
「ありがとう、大変だった?」
「いえ、この程度の規模であれば全く問題ございません」
「そっか。助かったよ」
王様の従者さんが明細表を出してくれる。内容を確認して、支払いと、受け取りのサインなどを取り交わしたら、即座に資材を収納空間へと吸い込んだ。誰かが「おぉ」と小さな声で慄いていた。私の収納空間の巨大さを知らない人が城にもまだ居たのか。
「大きな注文は今後も城を経由するから、宜しく頼むよ」
「はい。いつでもお申し付けください」
即座にそう答えてくれる。助かるね。ああ、そうだ。来たついでにアレも伝えておこう――と別件のことを考えて王様を振り返ったら、私が口を開くより先に王様の方が『別件』を話し始めた。
「アキラ様、少しご相談が」
「うん?」
「以前、ご依頼を頂いていた、麻薬組織の件です」
ナディア達を苦しめていたあいつらね。最後に聞いた報告では確か、残る関係者三名が逃亡中。麻薬の主成分も国外からの輸入品だったことでちょっとややこしかったんだったかな。あれからまだ数か月なので、進みが悪くても怒りはしないが。どちらも長期戦になりそうな内容だし。
王様も状況をおさらいするみたいに、私が思い出していた前回の報告内容を繰り返してくれた。
「その三名の内、一名を今月の中旬に捕らえたのですが、間もなく死亡しました。二日前のことです」
ほう。詳しく聞くと、捕らえた時点で息も絶え絶え。事情を聞くにも少し回復を待たなければならないからと少し治療を施してやったようだけど、甲斐なく死亡したらしい。
「そもそも何で死にかけてたの?」
「魔物が原因と思われる外傷がありました。ある町に怪我人として運ばれたようですが、その過程で騒ぎになり、我が兵が手配中の者と気付いたのです」
つまり、それまでは結界外に居たのか。
街中で過ごしていれば国の兵に見付かって捕まるかもしれないという認識が既にあったのだろう。なら仲間が捕まったことは知っていたはずだ。しかしこの世界で街の外というのは『結界外』であり、魔物に襲われる危険が伴う。今回の一名は、そちらの危険を避け切れなかったんだな。バカな奴だ。無理に逃げず捕まっておけば、生きていられたかもしれないのに。
「このことから、残り二名も存命していない可能性が大いに考えられると思いまして」
「なるほど」
「アキラ様のお力をお借りして確認しても、宜しいでしょうか?」
街中ならまだしも、外で死なれてしまえば身元の確認が難しい。魔物に食われて遺体すら残らない可能性もある。だから生死を確認するには私の真偽のタグが必須、ってわけね。他でもない私の女の子達の為だから、いいよ。了承を示して頷くと、王様は捜索中の二名の名前を上げて、「どちらも既に死亡している」と言った。そっちを言うんかい。まあいいけどね、犯罪者だもんね。
彼から出ている『本当』のタグを見ながら笑うことは不謹慎だったかもしれないが、でもやっぱり犯罪者であり、私の女の子達の敵なので。改めて、笑顔を浮かべた。
「死んでるね」
「……そうですか。ご確認、ありがとうございました。これでもう、我々の手を逃れている関係者はおりません」
その言葉にも『本当』と出てくれて、少しほっとした。ようやく本当に、あの三姉妹が誰かに追われるようなことはもう無くなったわけだ。
「なお、問題の主成分となる植物ですが、これは薬にもなるとのことでして。完全に輸入を止めることは出来ませんでした」
まあ、そうだよねぇ。どんな毒草も使いようだし、麻薬の素になるようなものでも、それ以外に幾らでも用途はあったはずだ。
「しかし野放しにも出来ません。よってこの植物については購入者を厳しく管理し、許可制とする予定です。許可の条件などについて現在、詳細を詰めております」
信用できる薬師や業者だけが扱うなら、まだマシだろうってことだね。完全に制限は出来ないのでリスクは残るけど、初手としてはそれくらいだろう。これを切っ掛けに、薬関連も色々と法が整えばいいよね。
「分かった。充分だと思うよ。ありがとう」
「いえ。全ては我が国の為でもございますので」
今、彼から『本当』のタグが伸びるのは、視界に入れなくても良かったかもなと思った。彼にどのような想いや『思惑』があるのかを、私が知る必要は無いだろう。きっとそれが美しいものであればあるほど。私の心がざらざらになってしまう。
「私の方からも一つ、別件を話しても良いかな?」
「はい」
嫌な気分になる前に、話を変えましょう。王様は従順に頷くと、従者に手振りして速記の準備をさせた。こんな場所ではやりにくいだろうが、助かるよ、ありがとう。
「南部の方で、魔物が減ってるらしいんだ。何処か別の地域へ移動してるんじゃないかって噂があるんだけど、聞いたことある?」
「……私の方は初耳です」
王様は一瞬、驚いた顔を見せて固まった後、別の従者に短く指示を出して、確認に走らせていた。うん、此処が宮殿内じゃないから確認も一苦労だね。重ね重ねすまんね。
「私はウェンカイン王国をうろうろしてるから、変に魔物が集まってる地域があるなら避けたいんだよね。また何か分かったら教えてもらっていい?」
「承知いたしました。情報提供ありがとうございます。ちなみにその話は、どちらで?」
明確にジオレンの名前を出すのはちょっと避けておこうかな。まだしばらくあそこには滞在の予定だしな。
「南側を行き来しているって商人が、酒場で喋ってたのが聞こえただけ」
「なるほど……つまり市中でも既に、不安視している者が居るのですね」
「そうみたい」
場所を明確にしないことは予想済みだったのか、王様は戸惑い無く相槌して、それ以上の追及はしてこなかった。そしてこの情報、商人の間では結構広まっている可能性は高い。ナディアが声を聞き取った彼も、他の商人から同様の話を聞いたって口振りだったみたいだし。
王様は、南部の領を統治している有力貴族らに連絡して話を聞くとか、色んな手段で確認してくれるみたい。
「ありがとう。じゃあ今日はこの辺で。またねー」
軽い口振りで挨拶したら、王様達には恭しく一礼されて見送られる。しかし今回もカンナに会えなかったな。私の愛しい未来の侍女さん、元気にしてるかなー。
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