第330話
続きの作業に取り掛かる前に。そろそろ太陽が天辺に行きそうなので、一旦、お昼休憩をしよう。
さて昼食を作るかぁって準備し始めたら、お手伝いの為にちょこちょこ傍まで歩いてきたルーイが、私を見上げて軽く口を尖らせる。
「アキラちゃんが作るの? お昼くらい、私とラターシャだけでも作れるのに」
「天使!!」
愛おしさが爆発してルーイをぎゅっと抱き締めたら、すぐ傍に居たナディアに袖を引かれた。嫌だ! そんなに簡単に放さないぞ! この子は今、私の為に降臨してくれた天使だから……袖だけじゃなくて腕に爪を立てられたので放しました。痛い。
「ありがとう、ルーイ。でもご飯作りは息抜きだから、大丈夫だよ」
「それならいいけど、お手伝いできることは言ってね」
「うん」
なんて良い子なんだろう。もう一回抱き締めたくなった。でもナディアが背後で見張っている気配がするので諦めます。
「折角だからまたバーベキューにするかぁ」
野外には野外の楽しみ方ってものがあるものね。三つの
「野菜やお肉を金網でごろごろ焼いて食べるだけの、お手軽ランチにしよ~」
お供にはパンと葉物野菜かな。ライスがあると私はより幸せだけど、今日は炊く時間が取れなかったので我慢。でも今度からそういう時はルーイとラターシャにお願いしておこう。二人共とてもいい子だからお手伝いしてくれそう。
「これ全部、洗って下さーい。皮があるものは剥いておいて~」
使いたい野菜を全部取り出して並べると、女の子達がわいわいと一斉に動き出す。みんな働き者で可愛い。その間に私はお肉を解凍し、切り分けていく。下味を付けて、いつでも焼きに入れるように並べた。ナイフを洗ってから、次はみんなが洗って皮を剥いてくれた野菜を切っ――ああ、もうナディアが切ってくれていた。ありがとう。じゃあもう、どんどん焼いて、どんどん食べる時間だね。竈の近くへとテーブルを移動させた。
「このお肉もう食べられるよ~」
焼き上がった順に、食べたい人のお皿に乗せる。みんなが食べている隙に私も自分が食べたい分をもりもり焼いて、もりもり食べる。途中からみんなも自分で焼き始めてて可愛い。自由なバーベキューである。油の跳ねには気を付けてねぇ。
「あ~麦酒が欲しいね~」
お肉を頬張りながら私が言うと、リコットがくすくすと笑った。
「今お酒を飲んだら、流石に真っ直ぐ彫れないかも」
「んん。たしかに……」
この後もまだまだ細かい作業が残っているんだもんね。誘惑に負けて酒を飲んでいる場合ではない。そんなこんなでみんなでたっぷりお肉と野菜を食べた後。私は一人、テーブルにぐでっと上体を預けて食休みしていた。お片付けは女の子達が率先してやってくれるのです。火の始末は気を付けてねぇ~。相変わらず細かいことを心配していたら、みんなに呆れた声で「はいはい」って言われた。
それから天使ルーイが淹れてくれたコーヒーを飲んで更にまったりして。ようやく、午後からの作業を再開だ。
「アキラちゃん、手伝える部分になったら呼んでね」
「うん、本当に助かるよ、ありがとう」
まだ新しい板に転写していない。っていうか転写すべき板を用意すら出来ていない。二人も作業してくれるなら、そっちを先に済ませた方が効率が良いな。中型照明の組み立て作業を中断し、大型照明の木材を用意する。組み合わせることで魔法陣にするものだから、板の大きさや形もバラバラで、一括で用意することが出来なくってこれも難しいのだ。
しかし木材カットも手慣れてきました。今の私にはちゃんと工具があって定規があるからね、きちんと計って印を付ければ、後はその通りに魔法で切れる。歪みも全く無く綺麗に切れるから最高ですね、魔法は。まあ私の魔力の高さだからこそ出来るんだけど。
一時間くらいで、大型照明内部に必要な木材の切り出しが完了した。此処からは魔法陣の転写祭りです。
今日だけで何回、私は転写魔法を発動するんだろうか。遠い目をしながら転写を始めた辺りで、リコットとナディアがのんびりと手元を片付けて、トイレに行ったり手を洗ったりと、手伝いに入る準備をしてくれていた。
「お手伝いさ~ん、お願いします~」
「はーい」
数枚の転写が終わったところで二人を呼んだ。軽快な足取りで再び私の傍に来てくれるリコット。ナディアはのんびりお茶を傾けてから、ゆっくりとした動作で立ち上がっている。性格が出るなぁ。
「出来る範囲で良いからね。好きに休んで、飽きたら止めても大丈夫だから」
本当に嫌になるほどあるからね。無理しないでね。そんな気持ちを込めて言うのだけど、二人は「大丈夫だよ」「分かったわよ」って、やはりそれぞれ『らしく』受け止めてくれていた。二人が彫刻をし始める傍ら、私は残りの板にも転写し続ける。
全ての転写が終わると、既に二人が彫り終えているものがあったので、先にインクを入れた。
「うーん、綺麗だね。すごいな」
改めて、インクを入れた板を眺めて感嘆の声を漏らす。二人共、早いけど丁寧で本当に綺麗な作業だ。自分がこういう作業を嫌いなだけあって、彼女らの仕事ぶりには素直に感心してしまう。私の言葉にリコットは口元を少し緩めていたが、ナディアは無反応でした。いやきっと集中しているだけで私を無視したわけではないはず。
さて。二人が手伝ってくれている間に、自分にしか出来ない作業を優先しよう。
中型照明の方は全て入れたインクも乾いているようだが、念の為、乾燥魔法できっちりと乾かす。更に上から保護用の塗料を重ね、模様が消えないようにしないといけないのでね。
塗っては魔法での乾燥を繰り返して、本来であれば置くべき時間がある作業をどんどん短縮。それが終わったら、残るは組み立てだ。底面になる丸い木材の縁を金具で補強して、魔法陣を描いた板と、外装を組み上げる。要所要所は金具で固定したり補強したり、溶接したり。最後に、私が魔力を注ぎ込んで魔法陣を発動させたら――。
「ふう! 中型照明も完成!」
「お~、格好いいじゃん」
すぐに反応をくれたリコットを反射的に振り返った時、彼女は手元で彫刻刀をくるりと回していた。
「こらっ、危ないでしょ!」
「え、あ~。アハハ。ごめん、気を付ける」
刃物で遊んじゃダメですよ。可愛いリコットの何処かの肌に傷が付いたらどうするんだ。勿論そんなことがあったら私の魔法で即座に治すけど、そもそも痛いのはリコットだって嫌でしょ。
私に注意された彼女が肩を竦めている横で、ナディアが微かに眉を寄せて「だから笑かさないで」と言った。えっ、今のこそ全く笑かしてなくない? っていうか笑かしたって言うならちゃんと笑ってよ! 眉が寄ってるじゃん!
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