第328話

「今日はどうするの、アキラちゃん」

 全員が起きてそれぞれ身支度を整えていると、ラターシャが徐にそう尋ねてくる。ふむ。

「中型と大型照明の製作だね。うーん、外の方が気を遣わなくていいか。朝ご飯食べたらサラとロゼの散歩がてら、街の外に行こうかな? みんなも来る?」

「行きたい!」

 全員が来るって。サラとロゼとのお出掛け、みんなも好きだよね。

 あ、でもその前に私はモニカに馬小屋と弓練習場の件を連絡せねば。朝食を終えた後、みんなに弄ばれた小型の照明魔道具に魔力を充填して、メモを付けてスラン村の通信機の傍へと送った。

『小型照明の試作が完成したので使ってみて下さい。あと、時間がある時に通信してほしい。昨日伝え漏れたことがあります』

 すると送り付けて一分足らずで通信が来た。モニカは素早いね。

 朝からごめんねの謝罪の後、サラとロゼの馬小屋、それから弓の練習場を作りたい旨を伝える。馬小屋は村の敷地内。弓の練習場は外でも可。おおよその広さも含めて伝えておく。弓練習場は私達が移り住んでから着手でも構わないし、自分で作ってもいい。ただ念頭に置いててほしいだけだ。

 馬小屋の形も、二頭が快適に過ごせるなら拘りは無い。だけど図面が必要なら連絡してほしいとお願いした。モニカは、ルフィナとヘイディに伝えて確認しておくとのこと。ありがとう! 以上です。

「終わった?」

「うん。朝ご飯にしよっか」

 モニカとの通信が終わるのを待っててくれたみんなに、朝ごはんを振舞う。朝は大体いつもサンドイッチとスープ。中身は私の気分で変わるけどね。今日はレモン風の果物でさっぱりと味付けしたチキンサンドと、玉子サンドと、ハムサンド。スープの方は三種の野菜を使ったポタージュです。

 しかし、馬車旅で朝昼晩の三食を作っていた時は朝のスープやサンドイッチの具には晩御飯の残りが使えて楽だったんだけど。朝の為だけに調理すると色々迷ってしまう。私がその日の内に食べ切れるので、今のところ食材を無駄にする事態には陥っていないものの、献立を決める難易度だけは少しネックだ。

「フリーズドライは魔法で作れるのかな……」

「また何か新しい開発しようとしてない?」

「してます……」

 ちょっとした独り言から、思考が即行でバレた。でも朝ごはんのスープ、フリーズドライにすると楽じゃない? あれってどうやって作るんだろう。

「アキラちゃん」

 呼ばれて振り返ると、ルーイがまた荷物を抱える仕草をしている。ふふ。

「そうだった。今持ってる分だけに集中しよう。ありがとね」

 小さい頭を優しく撫でて、私は思考を振り払う。また暇な時にでも考えよう。献立は難しいけど、日々を圧迫されるほどの問題でもないからね。

 朝食を終えると手早く支度を済ませ、みんなでサラとロゼを迎えに行く。道中、ラターシャは巻藁を出してほしいって訴えてきた。そうだね、室内では矢が射れないから、偶に出る時はやりたいよね。

「ちょっとだけぐるっと走ってから目的地に行くねー」

「はーい」

 サラとロゼのお散歩の為に。と言わなくてもみんな分かってくれた。ちなみにまだ馭者台は改造していません。私の臀部の耐久度チェックがこれから始まる。

「Aller!」

 出発する瞬間の、サラとロゼのご機嫌なお尻と尻尾が大好きだ。

 十五分ほど平原を走り、森沿いを進みながら、小川を見付けたところで停車した。水辺っていいよね。空気が何だか爽やかで好きだ。雨は嫌いだけど水辺は好き。馬車からサラとロゼを外して、テーブルやベンチを適当に出し、みんなが寛げるように整える。サラとロゼも、いつも通り魔法石を付けた上で放してあげた。今日は何故か二頭同時に走り出してびっくりしたけど、見通しのきく平野部なので大丈夫だと思う。「ここ広い! いっぱい走れる!」って思ったのかな。怖いことがあったら逃げて来てね。結界は出来るだけ、広げておきます。

 さて。早速、中型の照明魔道具の製作に取り掛かるか。

 中型は私の身長くらいのスタンドライト型で、光源となる光の玉が小型の三倍くらい大きい。単純に、魔法陣が大きければより強く・明るくできるってこと。魔法陣の強さってまんま大きさとの比例だからね。過度に魔力を籠めたところで強くは出来ない。例外はエルフ族の血の契約くらいかな。あれはちょっと特殊と言うか、血を通して人体を媒体にするので別物。まあ今はそんなこといいか。

 とにかくそう言うわけで、小型にしちゃうと、どれだけ内部にびっしりと魔法陣を敷いても限界がある。便利な光量調整機能も付けてるからね。とは言え、普通のランプより明るく出来ているので充分だとは思う。

 そして中型ならもっと大きくて明るい為、私らの今の五人部屋なら端から端まで光が届く。城でいつもカンナと過ごす客室は流石に広すぎて無理ですが。

 ちなみに大型は屋外用。つまりは街灯だ。四メートルほどの高さを想定している。女性が運ぶには重たいので、流石に送り付けて「後はよろしく!」とは言えない。設置は私がやります。まあ中型も軽くはないけど、五、六キロくらいだから運ぶことは出来るだろう。少なくともケイトラントが運んでくれると思う。

「まずは、木材の、切り出し!」

「頑張れ~」

 気合を入れるべく声を出したら、ちょっと離れたところで座っているリコットが声援をくれた。思わず頬が緩む。嬉しいね。やる気が出てきた。

 エルフ印の魔道具はとにかく多くの木の板が必要になる。何故かというと、魔法陣を描いた板を内部で複雑に組み合わせて、魔法陣を作り上げる為だ。組み合わせがずれたら魔法陣がずれて機能しないという繊細さ。流石はエルフ族が守ってきた貴重な知恵ですね。

 図面通りに正確な大きさで木材を切り出し、魔法陣の模様を表面に転写する。でも、模様を入れる作業はこれで終わりじゃない。細かい模様を彫刻刀などで刻んでは、インクを流し込む。こうして魔法陣を敷く。丸くない魔法陣だから何かの折に消えないようにって手法である。細かい。目が痛い。

 そんなことを黙々とやってるところで突然キーンと耳鳴りがして、自分でお願いしたくせに「うるせえ」って思った。

『――アキラ様』

 男性の声。王様からだ。ふう、と一つ息を吐いて、工具を置く。

『はい。おはよう』

 一瞬でもうるせえって思ってしまった申し訳なさから、いつになく丁寧に挨拶した。昨日の今日だけど、もう資材調達の予定が分かったらしいです。仕事が早いね。

 七日から十日で全て納品できるそう。幅があるのは、少し離れた倉庫から馬車を使って運んでくる予定の為、天候によるんだと。全く問題ない。むしろ思っていたよりずっと早かった。

「じゃあ」

 思わず声が出ちゃった、みんなが振り返ってしまって、私は苦笑いをしてみんなに首を振る。最近ちょっと緩んでいるな。通信の会話を漏らし気味。

『じゃあ、全部揃ったらまた連絡して。取りに行くよ』

『承知いたしました』

 仕入れ総額も教えてくれたけど、普通に工務店で買うより二割近く安かった。城で使う別の資材とまとめて購入した為、割引されたらしい。色々考えてくれて助かるよ。

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