第327話
「それはなに?」
引き続き作業をする私がストローくらい細い筒状のものを覗き込んでいるのを見て、リコットが首を傾ける。
「ただの目安。今から此処を焼いて、くっ付けるんだ」
「魔法を使ってたんだ……」
その通り。私は部品の取り付けすら、魔法でズルをしています。ランプは金属製の部品が少しあるんだけど、接合は、くっ付ける部分を一時的に融解させて付けている。私の高火力の火属性魔法でね。金属が融解するくらい高温の魔法だから、万が一にも狙いを外さないようにこの細い筒を目安に使って、筒から見える位置だけジュッとしたいわけ。
「消臭魔法を使っていたのはそのせい?」
ナディアが口を挟む。ちょっと声が遠いので、彼女は部屋中央のテーブルに居るようだ。それでも嗅覚が鋭い彼女は、私の周辺から匂いがしないことをとっくに気付いていたらしい。
「まあね、みんなの部屋だから、出来るだけね」
周囲の臭いは消臭魔法で抑えつつ、作業の区切りごとに空気の流れを操作して、排気口から出していた。
さておき、接着しなくては。改めて狙い定めて、ジュッとな。付いたかな? うん、付いたな。ガラス製の被せも付けて、留め具を閉じた。
「よし、外装が出来た」
小型の照明魔道具、第一号が組み上がった。あとは私が魔力を注ぎ込み、術を入れたら完成する。
「空っぽのランプみたいな形だね~」
「そう。この中にね、照明魔法がふわっと出てくる感じになるんだ。使ってみる?」
私がそう言うと、リコットはやや興奮気味に三度も頷いた。可愛い。リコットが触りたいなら、早速もう術を入れてしまいましょう。内部に敷いた魔法陣に魔力を籠めて発動させる。――よし、上手く入った。設計と組み立てに失敗していない証拠だ。
「はい、どうぞ。この石に触れるだけで良いよ」
照明魔道具の正面には四つの鉱石が、ひし形を描くように埋め込まれている。リコットがその内の一つ、左側の石へそっと指先を触れさせると、ふわっと内部に光の玉が浮かび上がった。
「わぁ、ロウソクより明るいかも」
「そうだね、光自体の強さと言うよりは、広範囲に明るくなるよ」
加えて光が拳大くらいあり、色も白いってのがより明るくしてくれる理由だろう。
「次は真ん中の二つ、好きに押してみて」
「おお~! 明るさ調整って、こんな感じなんだね」
魔道具の説明はみんなも聞いてくれていたから、機能的なことは伝わっている。でも明るさが調整できるような照明は今まで見たことが無かった為に、上手く想像できなかったらしい。電力を利用した照明ならその程度の仕組みは作っているだろうけれど、この世界じゃ電力って平民には縁遠いものだからね。上を押したら明るくなり、下を押したら暗くなる。上下合わせて五段階しかないが、まあ充分だろう。
「右が消すのかな?」
「うん」
「消えた~! ふふ、楽しい」
リコットのリアクションが大きくて私も嬉しくなっちゃうな。引き続き、点けたり消したりを繰り返して遊んでいる。可愛いねぇ。頭を撫でようとしたんだけど、突然パッと顔を上げて私を見つめてきたので、びっくりして手が止まった。撫で損ねた。
「これにも魔法石が入ってるの?」
「ん、ああ。そうだよ。でも充填も出来るから、偶に魔力を入れておいたら、半永久で使えるよ」
エルフ印の魔道具は充填式。私はそれを少し改造して、魔法石を電池の代わりにした。魔法石の魔力で動きつつ、外から魔力を注入されたらそれを魔法石に再度保持させる。他の魔道具も全部この形に設計済みなので、全てに魔法石を一つ使います。
「そういえば、何か欲しい魔道具あった?」
尋ねてみると、リコットは私じゃなくってナディアを見ていた。ナディアが答えるのかな。私も長女さんに顔を向けた。
「照明は家に付けてくれるのよね」
「うん、各部屋にね。あとこの小さいサイズは追加で幾つか渡そうと思ってるよ」
私の回答に、ナディアは少し考えるように視線を落とした。
「それ以外なら、虫除けと、バルコニーの鳥除けが最優先かしら」
「ああ、確かに必要だねぇ」
鳥や虫は、防獣フェンスでは防げないからね。どちらの魔道具も広範囲に効くものではないが、玄関やバルコニーを守るくらいの力は充分にある。メモしておこう。紙を取り出して彼女らの要望を書き出していると、「でも」とナディアが付け足した。
「どちらも屋敷を持つまでは必要ないわ。照明は、小さいものだけでもあると嬉しいけれど」
「そうだね、小さいものはこの通り、数時間で出来るから。また作るね」
次の馬車旅までには。と思っているけど、レッドオラムの時みたいに『次』が突発的に来る可能性もある。やっぱり少しでも早いほうが良いね。中型と大型の照明魔道具が完成したら、みんな用の小型もまとめて作っちゃおうかな。
そんなことを考えつつも。終わってるならもう寝ろって言われてしまったので、さっさと机の上を片付けて手を洗い、私もベッドに入りました。怖い怖い。
そして翌朝。
「アキラちゃん、私もこれ触りたい。触っても良い?」
「私もー!」
「はいはい。好きなだけどうぞ」
起きたらすぐ、ラターシャとルーイが魔道具の周囲をうろうろし始めた。多分、昨日リコットが触っていた時にはまだ起きていたんだろうな。でも自分達の就寝時間が過ぎてるから出るに出られなかったんだ。偉くて可愛い。
「スラン村に渡すんでしょう。魔力を減らしても良いの?」
「良いよ。向こうに渡す前にちゃんと私が充填するから」
ふーんって顔してたナディアさん、澄ました顔で触りに行ったわ。昨夜は魔力が減ることを心配して触れなかっただけで、魔道具自体は気になっていたんだね。女の子達がみんな可愛くて、今日も私は幸せです。
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