第317話
ちょっとケイトラントのステータスが衝撃的で、話が脱線してしまったな。とりあえず本日の訪問した用件は終わりだよね。頭の中で軽くおさらいしてから頷いて、モニカに向き直る。
「私の方はこれくらいかな。そっちは特に、困ってること無い?」
折角来たんだから、一応、聞いてから帰ろうね。ちょっと形式的に問い掛けたつもりだったし、モニカも頷こうとしていた。でも何かに気付いた様子で、ぴたりと動きを止める。
「あ、いえ、ルフィナ。金網の話を」
「そうでした!」
金網? 首を傾けながら私もモニカに倣ってルフィナの方へと視線を向ける。
「獣避けの対策なのですが。村を高い柵で覆うと周りが見えませんので、少し目の粗い金網を立てようと思っておりまして」
「おー、なるほど」
防獣フェンスだね。そりゃいい。確かにそれなら周りもよく見えるし、自然光の遮りも少ない。
詳しく聞いてみると獣が飛び越えないように反しも付け、且つ、掘られないようにフェンス下の地面にも一部、金網を張るつもりだそうだ。勉強になるなぁ、確かに下側を掘って入ってくる獣も居るもんね。地中を移動して来るやつまでは面倒見られないだろうけど、充分な対応だと思う。
「ただ、流石に金網の素材は此方では得られませんので、領主様にご相談させて頂く予定でございました」
ふむふむ。そりゃそうだね。改めて、防獣フェンスの図面と、設置の計画書みたいなものを見せてもらう。ぐるっと村を囲う形で金網を立て、今の木製の柵は撤去するそうだ。そして正門部分は閉じずに開けておいて、他の、普段からよく出入りしていたような場所には扉を設置する。
「金網も、黒か茶で着色してある方がいいんじゃないかな。周りから目立たない」
「確かにそれは助かります。懸念しておりましたので」
金色や銀色のフェンスになると、周囲から浮いてしまって、折角の隠れ里が今までよりも目立ってしまう。光に反応して寄ってくる獣や魔物も居るので、光を反射しないような素材が望ましいだろう。
「二軒目のお店、金属線たくさん置いてたよね」
「ああ、そうだね。よく覚えてるね、リコ」
ジオレンで巡った工務店の話だ。手が届いたら撫でるんだけど、リコットの座る位置が私から一番遠い。ぬう。今は我慢するが、後で撫でるからね。
ちなみに二軒目まではナディアも付いて来ていたはずだが、彼女は覚えていないらしい。難しい顔で首を傾けていた。まあ、君は元より視力も悪いから仕方ないよ。
「金属線の他には――あれ、支柱は木製なの?」
「はい、私達では大きな金属を加工できないので……」
私の感覚ではフェンスを支えるのは同じような素材の金属製だからつい疑問に思ったけど、そういう理由で諦めたみたいだ。うーん。でも木製だと、やっぱり獣に破壊される可能性があるんじゃないかなぁ。
「加工なら、私がやってもいいよ? 手間賃だけくれれば」
「アキラちゃん何でも請け負うじゃん」
呆れたような顔でリコットが言う。指摘も理解できるんだけどさ。
「だってさ~、柵に長持ちしてほしいでしょ」
「でもそれだと逆に、アキラ以外には何かあっても直せないということにならない?」
「鋭いご指摘」
そうだね。確かに。ナディアさんはいつも賢いですね。私が出来るからってやっちゃうと、そういう弊害もある。いつでも修繕依頼は受け付けるけど、モニカ達はあまり気安く私にお願いしてこない。そう思うと、彼女らの対応できる範囲の防獣フェンスであるべきなのかも。私は腕を組んで、ううんと唸る。
「……予備も依頼させて頂くことと、どうしても修繕がお願いできない場合はその後で木製に切り替えるという形なら、ルフィナ、どうかしら」
そう言ったのはモニカだった。彼女が『私に』何か依頼する方向へ舵を切るのは珍しいなと思いつつも、モニカはこの村を守ることを最優先に考えているので、やはり支柱は金属製が安全だと思っているのだろう。ルフィナは「そうですね」と言って少し考え込んだ。
「まず、加工が出来ないことでの問題は、微調整の難しさです。金網間を繋ぐ際の角度ですね。真四角にこの村を囲うわけではないので。勿論そのように切り替えるのも手ですが、やはり不自由さが勝ります」
ふむ。なるほどね。確かに木製なら、自分らの好きな角度で固定できるように、幾らでも支柱を削ったり、新たに作ったり出来る。でも外注の場合、微調整するなら発注前に全ての角度を確定して指定しなければならないし、少しでも間違えたら再発注が頻発する。もしくは設置の際に私が付きっきりで微調整をする羽目にもなる。うん、確かにそれはちょっと嫌だ! いや、依頼されたら来るけどね。暇なら。
「ですので、例えばですが」
だがルフィナにはちょっと違う案があるらしい。徐に紙を取り、簡単なイラストを描き始めた。
「このように、支柱は単純な丸棒として。縦および横へと細かく切れ込みを入れる、または突起を作ることで、どの位置や角度でも金属線を固定できるように作れば、この問題は解決できるかと」
なるほど。角棒だと直角か平行にしか合わせられないが、丸なら好きに合わせられる。ただし角度が固定されなかったり上下に簡単にずれてしまったりするなら不安定になるし、ある程度は位置を固定できるよう、つるっとしていない方がいいんだね。
元の世界じゃDIYなんてしたことが無かったので、こういう柔軟な発想がぽんぽん出てくるのは、聞いていて楽しいなぁ。
「しかし此処まで細かい金属加工となると、流石に領主様のご負担が大きいのではないでしょうか」
「大きいね! でも楽しくなっちゃったからやりたいな!」
「理由……」
呆れた声を続けたのはラターシャだった。
「何でもやりたがるのも、病気なんでしょうね」
「ふふ。小さい子みたい」
ナディアが溜息交じりにそう呟けば、続けて一番小さいルーイにそんなことを言われてしまう。そしてリコットはひたすらけらけらと笑い転げている。
心外だなぁ! 好奇心旺盛なんですう!
……それを子供と言われているのか。しょんぼり。
寸劇のような私達のやり取りの横で、モニカ達は楽しそうに笑っていた。
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