第316話

「じゃ、出来た順に、通信機の傍に……いや、大きいのだけは直接持ってくる」

 大型は無理だね、モニカの家には入らないし、そもそも入ったとして移動できない。それだけ大きくて重たい。モニカも「お手数をお掛けします」と言いながら頭を下げていた。

「あとは、そうだ。薪の置き場を見せてもらえるかな。参考にして、図面もさっさと引き直すよ」

 そう言うと、すぐにモニカが指示をして、従者さんが案内してくれた。スラン村の屋敷はほとんどが同じ作りらしいから、モニカの屋敷で見せてもらうのだ。説明の為に、勿論ルフィナ達も付いて来てくれる。

 屋外の薪置き場は大体、予想通りの形。風通しのいい木製棚に雨除けの屋根が付いている。そして室内の方は、屋外の置き場のすぐ横から、中に放り込めるようになっていた。

「この村の者は全員が女なので、出来るだけ力を使わずに過ごせるようにしているんです」

「なるほどね~」

 私の女の子達が扱うなら、この仕組みが良いね。それじゃあこれに倣って、外側の薪の置き場も台所から近い場所にしなくては。風呂は薪を使わないから、気にしなくて良いだろう。

 確認を終えるとまたさっきの大部屋に戻って、私は改めて図面を広げる。

「んー、じゃあ、こうかな……」

 その場で直してしまう。道具も持ってきていて丁度良かった。いや、無くてもルフィナ達が普段使っているものを借りられただろうが、使い慣れたものの方が良い。まだ初心者なので道具が変わったら上手に書けないかもしれないからね。分かんないけど。

「よし、これでどうかな?」

 引き終えて顔を上げたら、ルフィナが両手で顔を覆ってた。何でよ。見てよ。

「転写魔法が羨ましくて、ちょっと、待ってくださいね」

「姉さん……気持ちは分かるけど、集中してよ」

 モニカと従者さんが噴き出すようにして笑ってて、私も声を上げて笑ってしまった。

 私は今、台所の一部を除いたそれ以外を転写してから、必要な場所だけを書き直した。ルフィナ達は試行錯誤する度に図面全体を引き直していて、その苦労が骨身に染みているからこそ、今の光景が衝撃的だったんだろう。

「生活魔法だけど、これはレベル10だからなぁ、使うのは難しいかもね」

 うーん、でもこれが魔道具化、または魔法陣化できたら、便利そうだな。思い付きだが。

 この村に一個置くくらいなら、多少コストが掛かっても構わないし、魔道具化を考えてみても良いかも。だけど実現できるかは分からないので、今はまだ黙っておこう。

「おい、アキラ。一つ質問なんだが」

 改まってケイトラントが問い掛けてくる。話し合いの中でも口数が少なく、モニカや大工姉妹に任せていた様子だったけど、どうかしたのかな。促すように頷いたら、ケイトラントも一つ頷いた。

「照明は、スイッチに触れれば『魔力と熱』に反応して灯るんだよな」

「うん」

 熱だけで反応してしまうと、人が意図して触れる以外でも点灯してしまうし、魔力だけの場合でも、私なら近付くだけで点灯するかもしれない。そういう意味での二段構えなんだと思う。これはエルフの魔道具の多くで採用されているスイッチのシステムだ。私が頷くと、ケイトラントがやや渋い顔をしていた。

「竜人族は、魔法が使えないんだが。私にも反応してくれるのか?」

「え、そうなの?」

 エルフの知恵にもそんな話は無かったんだけど、発言は『本当』と出ている。なるほど、種族の特徴なんだろうな。しかしエルフさん、色々知っているわりに、他の種族の情報はほとんど無いね。マジで他の種族に興味が無いんだな……。

「うーんと……魔力は帯びてるね、うん。大丈夫だよ」

「そういうものか。それなら良かった」

 改めて魔力探知で丁寧に確認した。大丈夫だ。ケイトラントもホッとした顔で頷いている。

 この世界では、生命体である以上、必ず魔力を帯びている。竜人族も例外ではないようだし、人だけじゃなくって獣や植物でも同じ。ただ、『魔法を発動する』という形で魔力を扱えるかどうかは素質に関わる。そして竜人族は種族として、その器官が無い、または著しく弱いんだろう。

 しかし。

 今回、確認の為に初めてケイトラントのステータスを見て、ちょっと引いたんだけど。攻撃力とか防御力とかとんでもねえな。桁が違う。これを見ちゃうと、どれだけ人口が少なくてもセーロア王国って各国の脅威だなって気持ちになる。

「でも魔防はそんなに無い……無いことはないな」

「何だ?」

「アキラちゃん今、ケイトラントさんのステータス見てるでしょ」

「えへ」

 思わず呟いてしまった私の独り言を拾い、ケイトラントが首を傾ける一方で、すぐに察知したラターシャが低い声で私を咎めるようにそう言った。ついでに脇をちょっと突かれた。くすぐったい。

「それはプライバシーなのではない?」

「ごめんなさい」

 ナディアの指摘に即座に頭を下げる。私達が説明しないままで会話をしちゃうので、ケイトラントは再び「何だ?」と言って不思議そうにしていた。

 私の代わりに女の子達が、人の攻撃力とか魔力量の数字が私にはタグで見えていると説明してくれた。ようやく理解したケイトラントは「あぁ」と言ってから、ちょっと笑った。

「別に構わんが。それで、『まぼう』ってのは何だ?」

「魔法防御力の略だよ。物理防御力とは別なんだ」

 極端に魔法防御力だけ高い人とか、結構居るからね。魔術師さんには特に多いけど、一般人でも。物理防御力は大体が筋肉量です。だから多分、ガロはすごい。見てないけどきっとすごい。

「ケイトラントは物理の攻撃力と防御力が高いから、魔防が低く見えたんだけど。それでも一般人から見れば超級だよね。私の弱い雷くらいならフンッて気合いで弾きそう」

「え、こわ。あ、すみません」

 リコットすぐに口に出るねえ。可愛いねぇ。軽く頭を下げて縮こまっていたが、ケイトラントは彼女のその反応もまとめて快活に笑っていた。

「魔法自体は使えないが、そうだな。人族から魔法で攻撃されてもあまり効かなかったかもしれない」

 私以外の、そこら辺の魔法使い程度ならそうだろう。魔法でケイトラントを傷付けられるとしたら、宮廷魔術師の中でも更に攻撃魔法に特化した人くらいじゃないかな。改めて、竜人族ってすごいなぁ。それともケイトラントが竜人族の中でも、強い部類なんだろうか。彼女が平均ですって言われたら正直、魔王軍よりセーロア王国が怖いんだけど?

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