第295話

「ただ、魔力量だけじゃ分からないからね、それで気付いたとはちょっと言えないかな」

 魔力量が多いな、もしかしたら素質があるのかもなーと思ったけど。あの時は未だリコットが『みんなと同じである』ように装っていた。だから私も、確信できていなかった。

「次に気付いたのは、リコが自分の実力を意図的に『隠している』ことだった」

 時々リコットは強い魔力の残滓を纏っていた。そして彼女が一人きりで留守番してた部屋に帰ると、部屋のあちこちに彼女の魔力が残っていたこともあった。部屋の中を風で掻き混ぜていたようだ。それだけのことが出来るのに、みんなに告げようとしないし、むしろ出来ないように振舞っている。そこでようやく、彼女が敢えて隠しているのだと気が付いた。

 むしろリコット本人はどの時点で、自分がみんなと『違う』ことに気付いたんだろう。改めて問い質すようなことはしていないけど。もしかしたら同属性を練習するラターシャの存在が、逆に違いを際立たせてしまったのかもしれないな。

「とりあえず、様子を見るつもりで私も黙ってたんだ。レベル2を教える時までね」

 本人から打ち明けてくれるまで待つことも考えたんだけど。やっぱり次の段階を教えるなら、正確な状態を確認していたいし、本人のレベルに合わせて教えてあげたい。だからレベル2を教える時、みんなから少し離して聞き出した。そう伝えると、ナディアが難しい顔をした。

「……そういえば、そうね、離れていたわね」

「あはは。みんな集中してたもんね」

 この話を聞くまで、違和感として捉えていなかったようだ。ちょっとでも自分のことが優先になって気付けなかったことを悔いているらしい。項垂れている。でもナディアが熱心に魔法を練習するのも結局は、みんなの為だよね。指摘しても眉を寄せそうだったから、まあ、今は良いか。

「隠すのはさ、別に良いんじゃないかなと思って。言いたくないことは誰にでもあるでしょ。ただ、練習で手を抜くのは、違うんじゃないかなって」

 だから、私は『正確な状態』を確認して、リコットのレベルに合わせた講座をしたかった。あの時リコットにも伝えたのと同じような考えをナディアに伝える。素質があるんだから、練習自体が辛いわけじゃないなら、そのまま伸ばした方が良い。

「未来の選択肢ってのはあるだけ良いよ。と、私は思うからさ」

「同感ね。特に魔法能力は、必ずあの子自身を守る力になるわ」

 結局、リコットの為にナディアは悩むんだね。リコットが強くなれば、傍に居る自分の負担が減るとかそういうのは、少しも考えていない。

「ナディはみんなと比べると少し不利だよね。練習には場所を選ぶから」

 最近は操作魔法の練習に移っている為、ナディアはランプの火で操作魔法を練習している。だけど失敗した時に火が消えちゃうことがあって、点ける為にマッチを使ってと、マッチの消費量がすごいことになる。結果、本人もちょっと気にしちゃって回数を減らしてしまうのだ。ナディアの火花程度じゃ、流石にロウソクの火は点かない。

「レベル2の炎生成も覚えてみる?」

「でも……同時に色々やると、全て半端にならないかしら?」

「うーん、まあ、そういうこともあるかもしれないけど」

 ただ、レベル2のプレ講座で少し話したが、何が一番本人にとって『向いている』かは相性に依るので全く分からない。特に火属性はレベル2の選択肢が多いからなぁ。

「それにナディの魔力って結構、濃いんだよね。意外と簡単に炎生成ができるかもよ?」

 炎生成が出来たら、ロウソクの火だって自分で点けられるようになる。そうしたら操作の魔法練習も捗るし、操作を目標にするとしても、一旦そっちから入ってもいいかもしれない。うん、やっぱりちょっとやってみたらどうだろう? そう提案してみると、ナディアは悩みながらも小さく頷いた。

「……あなたがそう言うなら」

「ごめんね、もっと早く相談に乗れば良かったかな」

「いいえ。私からも相談するべきだったわ。あなたはいつもすぐ傍に居るのだから」

 当たり前のことを言葉にしてくれただけなんだけど、今の表現はちょっと嬉しかった。ニコニコしてしまう。

「今、少しやる?」

「……いいの?」

「勿論」

 さっきの言葉が嬉しかったからね、君の憂いが晴れるなら何でもやりますよ。うきうきと私は準備する。何の準備かと言うと、今はテーブルに所狭しと私用のご飯が置かれている為、何するのもやりにくい。小さめのテーブルを収納空間から出してちょっとご飯を避け、私達の間の空間に少し余裕を持たせる。

「前にも言ったけど、炎生成は魔力を燃焼させるイメージ」

 自分が溜め込んだ濃い目の魔力をオイルやアルコールと思えば分かりやすいかもしれない。そして点火の時と同じように、それが燃え尽きるまで炎になる。

「魔力濃度が高いほどに長く燃える。薄すぎると燃えない」

「そういう点も、アルコールのようなのね」

「うん。そんな感じで、自分の中で納得しやすい例えがあると上手くいくよ」

 魔法はイメージだからね。多分。

「よし、この小鉢の中でやってみようか。直火もへっちゃらな耐熱皿だよ」

 新たに収納空間から取り出した手の平サイズの小鉢を、ナディアの前に置いた。

「この中へ濃い魔力を溜めて、燃やすイメージを持てばいいのね」

「そう。最初はほんの数滴くらいの大きさで良いよ」

「……やってみるわ」

 ナディアが両手を翳す。手からじわじわとナディアの魔力が注がれ、そして小さく凝縮されていく。やっぱり火花を出す時で慣れてるからか、魔力濃度を高めることに彼女は長けている。その一点だけを取り上げれば、リコットよりもずっと上手だと思うなぁ。あの子はまだそこまで高濃度の魔力が必要なことはやってないし。

「もうちょっと濃く出来る?」

 返事は無かった。厳しそうだが、眉を顰めて頑張っている。

「いいよ、それくらい。燃やしてみて」

「く……」

 辛そう。魔力濃度を保ちつつ、『燃やす』というイメージを加えるのも、またもう一段階、魔力に刺激を与える必要があるのでかなり難しい。

 これ以上は無理だってくらい重たいものを持ってる時にワンフレーズ歌えって言われる感じの難しさです。ん? 余計に分かりにくいかな? とか話し掛けたら絶対に怒られるだろうな。静かに見守ります。

 しばらく見ていたら、ナディアの魔力がチラっと光を帯びた。おっ、良い! 燃えそう!

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