第289話

 大聖堂に行った翌日、私は魔物狩りをする為に街の外に遊びに行った。ルーイを連れて行くことはナディアが大反対をしたので二人を置いて、リコットとラターシャを連れて行った。いや、私は一人で良かったんだけど。どうしても見張るって言うのでね。

 まあラターシャは二人旅中に一度、魔物狩りに連れて行ってるし、他のみんなも馬車旅中に私の狩りは見てる。魔物狩り自体は、特に珍しいことではない。ただ行き先が森だからルーイを行かせるのは嫌だったみたい。どこから来るか、みんなは分からないから怖いもんね。私が結界で守ってるって言っても、あれは本能的な怯えだろう。

 勿論、連れて行った二人が怪我をするようなことは何も無く。五体ほどの魔物を狩っただけで気が済んで帰った。また機会がある時に、素材を城で換金してもらおっと。

「それで、お昼の後、みんなの予定は?」

 午前中はそんな感じで外で遊んでいて。昼食時には宿に戻り、みんなで揃ってランチを取る。

 私の問いに、それぞれが本屋とかお菓子屋とか、気になる場所へ散歩がてら行く話をしていた。でもどれも時間が決まっているものは無さそうだ。

「そんなに時間は取らせないから、ちょっとだけ見てほしいものがあってさ」

「……また急なことね」

「あー、いやいや、何も改まった話じゃないよ。屋敷のこと。でも急ぎじゃないから、都合が悪かったら別の日でも良いよ」

 スラン村に建てる予定の屋敷のことで、少し話したいだけだ。勿論、図面をそのまま見せてもみんなにはよく分からないだろうし、私が見せたいのは別のもの。間取り図や断面図、外観イメージを書き出したものを見てもらうつもりだった。みんなが住む為の屋敷なんだから、きちんと要望も取り入れたい。だから私が考えたものを見てもらって、色々意見を聞かせてくれたら良いなと思っていた。

 丁寧にそう説明したら、みんなも納得してくれて、昼食後にそれを確認するのを承諾してくれた。

 そして「急だ」言われてしまっているが、丁度、昨日の夜に下書きが完成したから今言い出したのであって、私としては前もって言ったつもりだったりする。日頃の行い。なお、インクを使ってペンで引いちゃっているので下書きと言うにはちょっとアレだが、幸い私は転写魔法が使える。直したい所以外を限定的に転写して書き直すことは幾らでも可能だった。そういうわけでとりあえず、一枚目は下書きのつもり。

 この次は私の屋敷とカンナ用の屋敷の図面だな。まあこれも並行して製図しているので、もうそろそろ仕上がる。私の屋敷内にカンナの部屋を用意する――って案もあったけど、それだとカンナに全く休暇が無くなってしまう。お休みを出した日や休憩時間には、自由に過ごせる自分の家があった方がいいだろう。それでも利便性の観点で、私の構想では彼女の屋敷と私の屋敷は繋げてあって、扉一つ潜れば訪問可能にしてある。ただ彼女側からの施錠を可能とし、しっかりとプライバシーを守る所存です。

 でもまあこれも、カンナ本人の意見が聞きたいな。建設着手となるまでに上手く会う機会があればいいんだけど。

 状況によってはカンナの屋敷の建設着手は最後に回してもらって、ぎりぎりまで要望が聞けるようにしましょう。

 そして私の家には露天風呂を作る予定! 持ち歩きの木風呂は手元に置いておきたいし、木風呂その二をまた作ろう。これは私が自分で作ろうかな。いや木材だけ用意して、任せようかな。まあその辺りも相談か。

 とにかく露天風呂だ。周囲はきちんと塀で覆うけど、天井を付けない。洗い場だけに付けて、浴槽の上は空が見上げられるようにする。野営の時にお風呂で見上げる星空は最高だからね。自宅なら特に、昼間から青空の下で入れるし気持ち良さそう。雨も結界で防げるし天気だって関係ない。あ~~~絶対いいよ早く欲しいねぇ。

 寝室以外に追加の部屋は要らないから1DK。ダイニングがリビング代わりと言うか、大きなテーブルを置いて、女の子達が来てもみんなでごはん食べたりお茶したりできるように広く。テレビも無いのにリビング作っても寂しいんだよね。その辺は元の世界の感覚だろうけど。

 いや、今は私の屋敷の話じゃないんだった。みんなの屋敷の話ね。昼食を終えて部屋に戻ったら早速、間取りなどの資料をテーブルに広げた。すると最初にリコットが驚いて声を上げた。

「えっ、個室があるの?」

「当然でしょ!」

 わざわざ彼女らの為に屋敷を作るんだから、それくらいは当然だ。

 一階はダイニングとキッチンとお風呂とトイレ。それから個室が二つ。二階には更に個室が三つで、合わせて五つの個室がある。余っている一部屋は物置とかクローゼットとか書斎とか、自由に使ってもらおうと思う。そして二階には物干し用の広いバルコニーも完備。みんな恥ずかしがり屋だから、見えない位置に干したいと思ってね。ちなみに私は特に気にならないので、玄関先に干すつもり。家に干し場を作る気は全く無い。

 それはそれとして。個室にはもうひと工夫が考えてあった。

「下の部屋の二つ、それから上の部屋のこの二つは、間仕切りを開けられるようにするつもり」

 三枚の板を合わせた引き戸。固定と施錠も出来るから、完全個室にしてもいいし、開け放って二つを一つの部屋にしても良いという形だ。

「へえ~考えたねえ」

「あなた元の世界で子供でも居たの?」

「居ないよ!」

 ナディアからの思いも寄らぬ感想にびっくりしました。みんな笑ってる。まあ確かに参考にしたのは、子供の成長に応じて部屋を切り替えるって考え方ですけども。なので言われることがまるで分からないとも言えない。

 そう。この発想の中心はルーイとラターシャなのだ。

 娼館でも一人部屋を貰っていたナディアやリコットは必要ないかもしれないが、ルーイとラターシャは、一人部屋で眠ったことがまだ無いって聞いてる。

 ラターシャは私と二人部屋を取った時に少し一人で寝かせたことがあるものの、それは一時的なことだ。ずっと一人で眠るとなると、不安になることもあるんじゃないかと懸念した。

 それに経験の有無はさておき、最近はみんな一緒に寝てることも多い。急に一人になって眠りが浅くなったり眠れなくなったりしたら、折角のみんなの屋敷なのに大問題。せめて慣れるまでは開けておくとか、時と場合によってみんなが工夫できるようにしたかったのだ。

「確かに一人部屋は嬉しいけど、夜はちょっと寂しくなるかも」

 ラターシャがぽつりと言ったら、ルーイもうんうんって強く頷いていた。この反応を見ると、考えておいて良かったと安堵する。不安でも我慢しちゃいそうな子達だからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る