第257話_遺物
しかし二人が指し示した場所を凝視しても、よく分からない。私とナディアとリコットは、首を傾ける。
「どうしたの?」
「あのね、私の位置に立つと、あそこの水面がきらきらしてるの」
そう告げるラターシャの瞳の方がきらきらしていて可愛くて、思わず見蕩れてしまった。呆ける私の腕をルーイが引っ張る。
「ちょっと移動したら見えないんだよ、今の私からは見えないの」
ふむふむ。それは不思議だねぇ。
「どれどれ――」
「アキラちゃん退いて、私が先に見るー」
ラターシャと立ち位置を替わろうとしたら後ろからリコットが突撃してきた。イテェ。お誕生日様には逆らえない。大人しく交替した。そして次の順番もナディアに奪われ、みんなが盛り上がっているのをしばらく見学させられた後、ようやく私にも見せてくれる。保護者はいつだって最後ですよ。みんなが笑顔なら良いけどね。
「へぇ~、本当だ。一箇所だけ明らかに光るねぇ」
「何かなぁ、タグ出てくる?」
ああ、なるほど。私に対する意地悪じゃなく、この不思議な現象をみんなで共有する前にタグによってネタばらしをされるのが嫌だったんだな。決して、私に対する意地悪じゃなくてね。
「うーん、出てこないな~」
時々ちょっとラグがあるから、そのせいかも。と付け足しつつ、私も見る角度を変えて観察する。タグが伸びたのは、二、三分後だった。
「おー、出た出た~……あぁ?」
私の言葉にみんなから期待の視線が集まりますが、これは……答えになってないな。タグに示されていたのは『遺物』と、ただそれだけ。みんなにもそのまま伝えた。
「遺物って、どういう意味?」
珍しく子供の顔でルーイが首を傾ける。難しい言葉をよく知っている彼女だけど、それは娼館や組織に居た頃に大人を相手にしていたことで覚えてしまった知識だ。周りが日常的に使わないような言葉なら、普通の子供と同じで分からなくって当然だね。
だけど他の三人もちょっと困った顔で首を傾ける。まあ、うん、いざ説明しようとしたらパッと出てこないかも。普段使いする言葉じゃないからな。
「えー、古い、貴重な物?」
「それじゃちょっと、足りないんじゃないかしら……」
リコットが最初に説明を口にしたが、雑で可愛かった。それでもルーイのお姉ちゃんとして教えようって気持ちが先に出ちゃったんだね。間違ってはいないから、ナディアの指摘も柔らかい。
「歴史を紐解くのに役立つような『古い物』よ。遺跡という言葉は分かるでしょう? あれよりもっと規模が小さくて、『物』と呼べるくらいの大きさだって言えば、分かりやすいかしら」
やや困り顔で捻り出したナディアの説明が上手で感心する。比較の言葉として『遺跡』を出すのは最適解だと思った。ラターシャも「遺跡から発掘されたお皿とかも遺物だよね」と付け足して、ルーイが「なるほど~」と頷いていた。例があるから理解しやすいね、女の子達の連携プレーに、私はただニコニコと頷いただけだった。あれ、役立たずかな?
でもそれより私は遺物の観察の方に夢中だったんだよね。改めて私を振り返り、その様子を見た女の子達が少し間を置いてからハッとした顔を見せる。横目でもその様子が分かって、口元が思わず緩んだ。
「え、それって……ものすごく貴重なものが……」
「その可能性が高いねぇ、ラタとルーイはお手柄かもねぇ」
そう答えるとリコットが「一気に酔いが覚めた」と目を瞬くから、更に可笑しい。
しかし、此処から眺めるだけじゃ何も分からないな。光が見える範囲がかなり限定的だ。左右に動くだけじゃなく、離れ過ぎても消えてしまう、近付いても同じだ。こんなに見つめても、新しい情報をタグが出してくれる様子も無い。
「うーん実際に見に行くのが一番かな。ちょっと見てくるよ」
「見てくるって……」
一体、どうやって。そう言おうとしたらしいナディアは、結局、続きを言わずに口を閉ざしていた。私なら魔法でどうにでも出来るって気付いちゃったんだね。ええ。どうにでもしますよ。
みんなも気にしているから一緒に連れて行きたいところだけど、安全かどうかがまだ分からない。その辺りは見てからだね。
「ん~……、いや、ロープ、使うか」
「どうしたの?」
しばらく河べりをうろうろした私が林側へと向かったら、ラターシャが首を傾ける。私は言葉通り、収納空間から長くて太いロープを取り出しているところだった。
「飛行魔法で近付くつもりだけど、あの遺物に魔力を奪うとか無効化する機能があったら即座に死ぬなーって思って、命綱をねー」
「なるほど確かに!?」
説明に全員が一斉に青ざめて、私が出していたロープを持ってどうすれば良いかと指示を仰ぎ始める。まあまあまあ。落ち着いてよ。慌てる必要はないんだから。あの遺物、逃げないと思うから。
宥めつつもみんなに手伝ってもらい、三本の丈夫なロープをそれぞれ林にある太めの三本の樹に結び、一本に編み込んでから、私の腰に巻き付ける。これで一本が切れても二本が残る。完璧でしょ。
「よし、じゃあちょっと見てくるね!」
「気を付けて」
「危なかったら、無理せず戻ってきてよ?」
「うん、分かってるよ」
心配そうな顔で見送ってくれる四人から離れる前に、何があってもロープには触れないようにと言い聞かせる。万が一のことがあっても、私のことはロープが引き止めてくれる。でも誰かが咄嗟にロープを引こうとして河の中へ引き摺り込まれてしまったら、ロープのお世話になっている状況下の私がすぐ助けに入れるとは思えない。ロープは樹に任せること。みんなは触らないこと。
しっかりと言い含めたら四人全員が頷いてくれたから、咄嗟の事態で誰かが思わず動いてしまっても、他の子らが止めてくれるだろう。
多分、こうして入念に警戒していた私は、あの遺物がやや危険なものであることを、直観的に、感じ取っていたんだと思う。
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