第256話

 そして宣言通り、昼食にも特別なデザートが用意してある。

 沢山のお肉を堪能したみんなが満足そうに一息吐いている目の前で、そのデザートを作った。必要なものは既に準備しておいたので、ほとんど盛り付けだけだ。

「はい、出来た。どうぞ~クリームブリュレのプチパフェです!」

 流石に大きいパフェは可愛い女の子達の胃袋にはキツイだろうから、小さいガラスコップに作ったプチサイズ。フルーツと生クリームと小さく砕いたナッツとチョコムース。一番上はカスタードクリーム。そして仕上げは、薄く広げた砂糖を炎でサッと焦がしてカラメルに。

 元の世界で食べたクリームブリュレのパフェが美味しかったからね、あれに寄せてます。

 こっちの世界では一度も見ていなかったクリームブリュレ。みんなも初めて見るものらしい。幸い全員が気に入ってくれたので、特別な日じゃなくてもまた作ろうかな。

「アキラちゃーん、ちょっと苦酸にがずっぱいのが良い~」

「はいはい」

 デザートを堪能した後、リコットは本格的にカクテルを楽しみ始めた。さっきからずっと「こんなのが飲みたい」と私にリクエストを繰り返している。最初はちょっとした無茶振りだったみたいだけど、私が割と応えるから楽しくなってきたようだ。

 しかし、苦酸っぱいって。

 うーん、グレープフルーツ系か? それともワイン系? コーヒー系カクテルに酸味を足した味わいが求められている可能性も……いや、今までのラインナップを考えるとこれは無いかな。

 既に五種類のカクテルを飲んでいるリコットは、一杯ずつの量が少ないもののチャンポンしているので気持ち良さそうにフワフワしている。ナディアが傍で気にしてくれているので、悪酔いはしないと思うけど。

 何にせよ、ほろ酔いのリコットからのリクエストは段々よく分からないものになっていく。

 甘みを足しておいた方が苦みが引き立つだろうか。少しシロップを加えつつ、結局、グレープフルーツ系にしてみた。

「はいどうぞ。これであってるかな~」

「色が可愛い、ピンクだ、ねえ見て、ナディ姉」

「ええ、可愛いわね」

 私の言葉はあんまり聞いてないな。まあ味が気に入らなかったらまた作り直したらいいか。残したら私が飲めばいいし。

 一方、相槌を打っているナディアは、軽くあしらうような言葉なのに声はすごく優しいし、普段の彼女と比べて表情もずっと柔らかい。酔ったリコットが可愛くて堪らないんだろう。傍を離れる様子も全く無かった。

「美味しい! 甘苦酸あまにがずっぱい!」

 そしてひと口飲むなり、リコットがそう言う。なんか要素が増えているけれど、合格はしたみたい。ご機嫌にしてくれて嬉しい。

 さて。リコットがそれを飲み終えるまでは私も少し休憩かな。ナディアのグラスもまだ六割くらいが残っているし。ちょっと酔ってるとは言え、二人共ぐびぐび飲むような真似はしていない。ゆっくり飲み進めてくれている。

 そんな二人を見守りながら、私はビュッフェテーブルの方へと腰掛ける。グラスにたっぷり赤ワインを注いで、引き続きビュッフェを消化するのだ。流石にお肉系の具材とパスタはもうみんな食べないだろうから、私の胃袋に格納します。

 いつの間にか、ラターシャとルーイは河の近くで遊んでいる。腹ごなしかな?

 河べりまで結界は伸ばしているので特に危険は無い。季節的にもう肌寒い為、河にも入ろうとしていないし、ただ近くで見ているだけだろう。もしくは何か、魚などの生き物が居たのかも。

 サラとロゼも今は繋がずに放してあげている。お利口な二頭は相変わらず私達からあまり離れず、近くをうろうろしては草を食べたり、ぼーっと遠くを見ていたりと、のんびり過ごしていた。可愛いねぇ。

 そして再び隣のテーブルに視線を戻せば、引き続きほろ酔いのリコットが一生懸命にナディアへと喋っている。時々よく分からないけれど、ナディアは呆れた顔一つせずに相槌していた。私だったら三分で嫌な顔されそう。愛の差。

 しかしまあ。みんな、何をしていても可愛いな。眺めているだけで、ワインが美味しいよ。

「アキラちゃん、聞いてるー?」

「えっ」

 びっくりした。唐突に振り返ったリコットが、一人で飲み食いしていた私を見て当然みたいに確認してくる。まさか私にも話していたとは。

「うんうん、聞いてるよー」

 やや嘘だけど。聞こえていたので内容は分かる。直前の内容に応じるような相槌をすれば、満足そうに一つ頷いて、またリコットが話を続ける。私をちらりと振り返ったナディアの目が少し笑っていた気がした。気を抜いてはいけないらしい。気を付けよう。

 そのままリコットの脈絡のない話に耳を傾け、食べ終えたお皿を少し横に避ける。ビュッフェの為に大量のお皿を使ったので、後片付けもちょっとずつ進めておかなきゃね。一気にやると大変だからね。

「アキラちゃーん! ちょっと来てー!」

 ややすると、ルーイとラターシャが大きな声で私の名前を呼んで、手を振っていた。何だろう。何かを見付けたらしくて、共有したがっているみたいだ。次から次へと、私の女の子達は愛らしいねぇ。行きましょう行きましょう。

「あれ、酔っぱらいも来るの?」

「そこまで酔っていないわよ」

「仲間外れは良くないよ~」

 私が立ち上がって二人の元へ行こうとしたら、ナディアとリコットも立ち上がった。揶揄ったら軽く怒られました。その癖、ナディアはリコットが心配らしくって手を繋いでいるんだよね。あーもう、この瞬間を写真に収めたい。

 そういえばこの世界、ちゃんと写真機があるようだ。写真機本体はまだお目に掛ったことは無いんだけど、思い起こせば初めてナディアと出会ったあのカフェはメニューに写真を使っていた。私の世界のものほど綺麗な色でもなければ解像度も低かったけど、白黒ですらなかったのだ。うん、欲しい。

 ただ、膨大なエルフら知識の中にも写真機は無い。彼らは持っていない技術みたい。交流を断絶していたここ千年くらいで人族らが開発したのかな。その技術をくれ。もしくは写真機を売ってくれ。金貨が何百枚なんだ。

 でもカフェ経営者が使えるくらいだから、そこまで貴重じゃないと思うんだけどなぁ。今度、ナディアに聞こうっと。

 そんなことより今は、一生懸命に私を呼んでいる可愛い子供達のお話を聞きましょう。私達三人が到着するなり、ラターシャとルーイは示し合わせていたかのように同時に河の一箇所を指差した。

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