第255話

 しばらく悔しそうに唸ってたリコットだったけど、がばっと勢いよく顔を上げた時、その眉はもう、下がっていなかった。

「一つ目だけでも充分すごいけど、やっぱり二つ目も使いたい! だってレベル3が使えるようになったら、攻撃も防御も使えるってことじゃない?」

「その通り」

 だから私はこの杖を選んだ。レベル3はどの属性でも初級の攻撃魔法になる。その段階に進んだ時に防御系が同時に扱えるようになれば、その瞬間、あらゆる危険に対応できる魔術師の出来上がりだ。

 まあ勿論そんな危険な場面は私が居る限り許さないけど。でもリコット達はそんな力が持てたら、安心するだろうと思ってね。

「絶対がんばる」

「ふふ。すごいやる気だ。リコが到達できるよう、私も気合を入れて教えるよ」

 とは言え。今の魔法の成長を見る限り、リコットは間違いなくレベル3くらいは扱えるようになるだろうし、あんまり私の指南は必要ないかもしれないが。今はみんなの手前、そう言っておこう。

「じゃ、お手本だけ見せておこうか?」

 そう言いながら手を伸ばしたら、私が伸ばし切るより素早くリコットが杖を渡してきた。よっぽど見たいらしい。

 私は少しみんなから距離を取ると、魔法の杖を上空に掲げる。そして魔力を籠め、風の障壁を出現させた。本来は風なんて目に見えるものじゃないけれど、攻撃を防ぐほどの濃度になると薄っすらと白く輝き、風の流れに従って渦巻いているのが誰の目にも見える。

「かっこいい!」

「魔法使いって感じがする~!」

 良かった。みんな盛り上がってくれた。特にルーイとリコットはきゃっきゃと声を上げていて愛らしい。杖の能力ではあるものの、私が褒められた気分です。

 この障壁の出し方は、杖に埋め込まれている青、赤、緑の鉱石に対してそれらが輝くまで順に魔力を籠めるだけ。しかしどれも必要な魔力濃度や量が繊細に決まっていて、正しく籠められないと輝いてくれないので発動できない。最も大変なのが一番大きい赤の鉱石で、レベル3の魔法を扱う程度の技術を必要とするのだ。

 説明しながら杖をリコットに返すと、私は一歩下がって、その杖を携えているリコットを眺めた。

「これを持ってるリコ、格好いいよ。似合ってる。ねえ?」

 同意を求めたら、みんなが待ち詫びていた様子で頷く。タイミングを計っていただけで、ずっと思っていたらしい。

「うん、リコお姉ちゃん格好いい!」

「髪と同じ色の黒だし、一番大きい鉱石も、守護石と同じ赤なんだね。すごく素敵」

「似合っているわ」

 口々に褒められたリコットが照れ臭そうに笑う。この光景を見ているだけで幸せだなぁ。

「ええっと、ところで、一割増しのスキルは杖を持っていれば付くの?」

 ちょっと照れ臭くなったらしいリコットは少し慌てながら話題を変えた。そんなに照れるとは意外だなぁ。私がベッドで口説いても照れたことなんか一回も無いのに。……相手が私だからか? いや、今は考えるのを止めよう。

「ううん、この杖を通して魔力を出す必要があるね。一旦、杖に魔力を籠めてから、杖の先から出すイメージ。出すのは上でも下でもいいよ」

「なるほど」

 頷くと同時にリコットは立ち上がり、さっき私が実践をした場所まで移動する。早速、試してみたいらしい。彼女は徐に、杖を地面へと向けた。そして数秒後、杖の先端からザバっと砂が出てくる。

「うわ! 一割って言ってもなんかちょっと多いの分かる!」

「あはは、上手だよリコ」

 本人が一番びっくりして仰け反っていた。

 リコットだからこんなに早く扱えているが、杖を使った魔法の利用もそれなりに慣れが必要だ。杖を使う場合と、使わない場合。両方の練習が必要になるよと伝えておいた。リコットだけじゃなくて、みんなも神妙に頷く。そうだね、君達もいつか、使うかもしれないからね。

「あれ、ところでこれ……私、収納空間に入るかな?」

「装備できるベルトも用意してあるけど、やってみたら?」

「うん」

 出していたい時もあるだろうからと、ちゃんと装備用のベルトも今回の誕生日プレゼントに含まれています。出すのが遅いね。ごめんね。それをテーブルに置きつつも、今のリコットならギリギリ入るんじゃないかなーと思って提案してみた。

「斜めなら……あ、ううん、縦でもギリギリ入る!」

「おー、良かった」

 一瞬リコットが変な顔をした。今の『ギリギリ』は嘘だね。思ったより収納空間が広がってるみたいだ。空間の広さはある程度は魔力量によるものの、完全に比例はしないのかな。彼女の現在の最大魔力量を見て、まだギリギリくらいだと思ってたのに。でもみんなもリコットの収納空間の大きさを気にするような顔はしなかったし、そういうものらしい。

 さておき。改めて装備用ベルトを渡したら、入れたばかりの杖を取り出して装備して、みんなにまた似合うと褒められてリコットがニコニコしている。はあ、本当に可愛いなぁ。

 そんなこんなでプレゼントのお渡し会は終了です。パーティーは継続だが、とりあえず午前中はお酒無し。私が用意した五種の飲み物を堪能してもらう。お酒はお昼からねと言ったら、はぁいとご機嫌な声が返った。

 次のイベントは、勿論。気合の入った昼食です。

 張り切り過ぎた朝食のせいでみんなしばらくお腹が減らないだろうからと、いつもより少し遅め、朝食終了後から四時間を空けて、ランチタイムにした。

 朝食ビュッフェが昼にも持ち越されることは想定内であった為、昼食はそれを生かすように。四連のかまどをテーブルの傍に並べ、全部、火の上に金網を置いた。

「色んなお肉をたくさん焼くよ~。そのまま食べてもよし、残ってるパンや具材と合わせてオープンサンドにしてもよし、葉物野菜で包んで食べてもよし!」

 豪華なBBQってところかな。口直しに三種のパスタも、新たにビュッフェのメニューへ追加です。

「ずっとパーティーだね~」

「昨日から聞いてたものの、想像以上だねぇ」

 呆れたみたいな声だったが、嫌な顔はしていなかったし、お肉を見た時のみんなの目がちょっときらきらして可愛かった。ええ勿論、とびきり上質なお肉を取り揃えてあります。

「っていうか、アキラちゃんも食べてる?」

「みんなが気付かない内にたーくさん食べてるよ」

 食いしん坊の私がそんな。食べないわけがないじゃないですか。

 だけど給仕に徹してずっと立っているものだから、優しいラターシャが心配してくれたらしい。でもビュッフェテーブルの解放の為に諸々カバーを取った瞬間、眉を寄せた。

「……ここにあったパンが明らかに減ってるのって、アキラちゃんかな?」

「そうだよ~」

「うわ」

 引かれてしまった。そんな顔しなくてもいいじゃん。隙を見て八枚くらいオープンサンドを食べただけなのに。

 結局、女の子達がどれだけ残しても、私の胃袋に凡そ取り込まれるのだ。それが無理でも翌日以降が残り物アレンジになります。食べ物は無駄にしたら駄目だって、お祖母ちゃんが言ってた。

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