第254話_魔法の杖
大盛況で恐悦至極ですが。まだ終わりません。みんなのお腹が程よく満たされたところで朝のデザート。六種のフルーツを入れたカラフルな寒天ゼリーだ。見た目重視な感じもするけれどちゃんとフルーツの組み合わせも吟味して、納得の行く味まで仕上げております。
「すごく可愛い~」
「綺麗……」
見た目を頑張り過ぎちゃって中々みんなが手を付けないのは不安になったが、無遠慮に私が横でパクパク食べてたら釣られるように食べてくれてホッとした。味も好評でした。良かった良かった。
「夜はお祝いのケーキだけど、お昼もまた違う感じのデザートがあるから、楽しみにしててね」
「……今日だけで三キロは増えそうよ」
「分かる」
女の子達の愛らしい不安の言葉に声を上げて笑う。良いじゃん。幸せな増量をして下さいな。
食後はのんびりとティータイム。勿論、小腹が空いたらいつでもこのビュッフェテーブルに戻ってもらっても良いけど、まあ私以外はそんなに食べないだろうから、カバーを掛けておく。突風などは吹き付けてこないように結界に設定しているが、緩い自然の空気は入るし、また、私達がうろうろすることで起こる空気の流れも防いでいない。食べていない間くらいは守っておいた方が良いだろう。
「ね~アキラちゃん、リコお姉ちゃんのプレゼントは、いつお披露目?」
「おっ、気になっちゃう?」
「なる!」
いつになくラターシャがルーイと一緒にテンション高く手を上げたので笑っちゃった。可愛いな。みんなの瞳、ワクワクしているのが隠せていなくって堪らなく愛らしい。長くその目で見つめられていたいから、無駄に引き延ばしたい気持ちになっちゃうよ。即行で嫌われそうなのでやりませんが。
「タイミング、リコが選んで良いよ」
「今!」
即答でした。さようですか。可愛い本日の主役様に言われたら逆らえません。
「じゃあ早速」
そう言って私は収納空間から、布に包まれた木箱を引っ張り出した。幅は杖が入る程度だから細いけど、長さは一メートル近くある。まあ中身は七十センチくらいだけどね、クッションに三十センチ近く使われているんだよね。
「はーい」
「普通に渡すじゃん」
そのままリコットの前に持って行ったら苦笑いされちゃった。膝を付いて恭しく差し出すとかも考えたけどさ。こっちの方が面白いかと思ってさ。しかし大きな箱をそのまま受け取っても開けるのが大変だよね。ビュッフェテーブルは隙間が無いので別のテーブルを出してから、その上に置いた。
「開けて良いの?」
「勿論。もうリコットのものだよ、どうぞ」
布を丁寧に取り払ったリコットは、やや緊張した顔で箱を開く。
「うわあ、めちゃくちゃ格好いい」
彼女が持ち上げた瞬間、他三人も控え目に歓声を上げた。いい反応だね、最高。中から出てきたそれは、黒が基調の木製の杖だ。でも形は大きな獣の牙って感じかな。ほんの少し反ってて、先端は刺さるほどじゃないけど尖ってる。
長さはさっきも言ったけど七十センチくらい。太い方が上で、持ち手も上の方にある。持ち手は魔物の骨から作られた白色。そして杖の一番太い部分には三つの鉱石が埋められていた。色は赤、青、緑の三色。赤が一番大きくて真ん中にある。これらは魔法石ではないが、魔力伝導率の高い鉱石だ。そして杖全体には金色の模様が描かれていた。
「持った感じはどうだろう。違和感は無いかな」
「うん、何か気持ちいい」
持ち手の感触が楽しいのか、リコットはそれを右手で持ったり左手で持ったりして弄んでいる。
「良いね。魔力を帯びたものには相性があって、合わないこともあるらしいけど、大丈夫そうだ」
気持ちがいいと言う感想には、おそらく魔力的な相性の良さも入っている。駄目な場合はずっと違和感が付き纏うとか。この杖はそもそも属性が風に寄っているので、大丈夫とは思っていたけどね。
「これにはどんなスキルがあるの?」
しばらく色んな角度で見つめていたリコットが、そう言いながらきらきらの目で私を振り返る。あ~その顔も可愛いです最高です。手を合わせて拝みたくなるのを私はぐっと堪える。
「二つの効力がある。一つ目は単純に、魔法威力の増強。一割増し」
みんながちょっと静止して、それから、全員の視線が杖に集まった。
「……え、結構デカくない?」
「大きいよ、魔力が大きい人ほど効果がとんでもないね」
例えば私とかね――。と言いたいところだが、流石に増強の上限はあって、魔力数値で言うと、五千まで。私以外の魔術師ならまず上限に到達することは無いが、私だけはその影響を受けるので大した増加にはならない。端数の端数って感じだね。
まあでも、他の魔術師にとったら一割増しの影響はとても大きい。
「今の私なら生成が一割増し? いや、それでもかなり便利だね」
「うん。魔力の消費量は一緒だから、逆に言えば少ない魔力で同じ量を生成できるよ」
しばらくみんなの感嘆の声だけで場が持ちそう。でもつい私が笑っちゃったからハッとした様子でみんなが表情を整えた。いや、そういう慌てた様子も愛らしいよ。今日はリコットの誕生日会なんだけど、私が一番楽しんでいる自信がある。
「そんな羨ましいスキルを先に言うのだから怖いわね」
「羨ましいって言った」
「でも羨ましいよね?」
「うん。羨ましい」
傍で見ている三人の可愛い会話にまた声を上げて笑ってしまった。そして流石ナディアさんは察しが良い。その通り、まだ明かしていない二つ目が、メインのスキルだよ。
「もう一つは、風障壁の魔法が発動できる」
「風障壁?」
全員が首を傾けた。誰も知らないようだ。まあレベルを思うと、一般的に聞かれるものではないかもしれないね。
「防御系の魔法だよ。結構上のレベルだ。飛行と同じくらい。うーん、レベル5は超えるだろうねぇ」
驚いた様子でみんなが目を見合わせている。流石にレベル5になると、使えるのは宮廷魔術師くらいになると思う。多分。
「そんな高位魔法が、レベル1くらいの魔力消費で使える。た・だ・し」
勿体ぶって言葉を区切った私は、リコットに向けて少し意地悪に笑った。
「扱いはそんなに簡単じゃないよ。レベル3、風の攻撃魔法が使えるくらいの技術が必要だね」
「やっぱりか~!」
杖を抱き締めて大袈裟に項垂れるリコットが可愛い。魔法の杖の扱いにはほとんどの場合レベル3以上が必要って話は、元からみんなも知っていたと言う。なるほど、だから「やっぱり」なんだね。
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