第253話_リコットの誕生日
変な時間にベッドに入ったので眠れないかもしれないなーと思っていたが、ぐっすりでした。
夕飯が出来たよってラターシャがわざわざ揺り起こしてくれたので、多分、声を掛けただけで起きなかったんだろう。良く寝たなぁ。これで夜はしっかり頑張れますよ。
そうして夕食も入浴も終えて、女の子達が眠る時間を迎えた頃。
「ラタ、一人で眠るの寂しくない? 眠るまでは付いてようか?」
「要らないから! したことないでしょ!」
怒った顔も可愛い。うふふと楽しく笑ったら、またラターシャに軽くパンチされました。イテ。三姉妹はちょっと呆れ顔で笑い、優しくラターシャを慰めてからテントへ入る。みんなのお陰か、ラターシャも拗ねた顔を引っ込めて「おやすみ」と言ってくれた。
私はこれから明日に向けての準備だが、全く寝ないつもりでもない。可能な限りの下拵えを済ませたところで短く仮眠を取り、そして日が昇る頃に起きて調理に入る。
こうして完璧に朝食準備を終えた頃。三姉妹のテントから、ひそひそ声が聞こえてきた。
「起きて良いのかな……」
「先に私が見てくるわ」
噴き出して笑うところだった。可愛い。そうだね、準備中なら途中で見ちゃったら駄目かなーって思うもんね。ナディアがちらっと顔を出したから、私は彼女に笑みを返す。納得した顔でナディアが中に戻って、二人を連れて改めて出てきた。
「おー、なるほど!」
感心した声に応えてまた笑う。朝食の準備が整ったテーブルの前に衝立を並べ、隠していたのだ。私が立っているのは衝立の前。そこでは紅茶の準備をしていた。
「おはよう、みんな。朝の支度が整ったら、改めてこっちにおいで」
言っている間にラターシャもみんなの声が聞こえたのか、顔を出した。そして「わぁ」と愛らしい声を上げてから、みんなに続いて顔を洗う為にテント脇に行った。
手桶に水を汲めばテントの中でも顔は洗えるけど、間違っても家具が濡れないようにとみんなはいつも外で顔を洗う。
野営時はテント脇に大きな水瓶と手桶を幾つか置いて、いつでも好きに使えるようにしているから、そこで済ませているのだ。顔を洗ったり、手を洗ったり、歯を磨いたりね。野外だと使った水をその辺にぺっと捨てられるから楽だし。
「準備オッケー?」
全員が身支度を終えて衝立の傍に来たので再確認。神妙に頷くのが愛らしい。
では、まず朝食のお披露目です。衝立を収納空間に吸い込んで取り払った。ある程度は覚悟していただろう女の子達がそれでも目を見開く様子に、満足感でいっぱいだ。
「二十歳の誕生日おめでとう、リコット。今日は盛大に祝わせてね」
テーブルは三段にして、ビュッフェ形式になっている。一番上の段は四種のパンが薄く切られて並べられており、パンに何を塗って何を乗せるかは残りの段。挟んでもいいけど、色んな種類を食べる為にオープンサンドをお勧めしておいた。二枚のパンで挟んで食べたらすぐに満腹になっちゃうからね。
私は数までチェックしていなかったんだけど、ルーイが一生懸命に数えてくれたところ、乗せられる具材は三十六種類、ソースは十二種類だそうです。
「こちらには飲み物を五種類ご用意してますよ~」
「アハハ、すごい」
私の突飛さに一番慣れているラターシャがもう笑っている。
フルーツジュースが二種類、ハーブティー、紅茶、コーヒーの合計五種類だ。好きなものを好きなだけ飲んでもらえるように、替えのカップも沢山並べた。
「え~! 自由度が高い、迷っちゃうなぁ」
「それなら一枚だけ、私がリコットに作らせてもらっても良いかな」
「お願いします!」
許しが出たのでリコットが好きそうなオープンサンドを用意する。真っ白でふわっとしたパンの上に、二種類のハム、酸味のあるフルーツ、オニオンのような微かに辛みのある野菜のスライス。最後にクリームチーズのソースと少しの塩を振りかけた。
「はい、どうぞ」
受け取ったリコットがきらきらの目でサンドイッチを眺めた後、頂きますと言ってちょっと慌てた様子でかぶり付く。誰も取らないのに。可愛いなぁ。
「美味しい~!!」
「良かった。みんなも悩むようなら、色々摘まんでみてから決めたら良いよ」
「あ、そっか、味見していけばいいんだ」
きょろきょろしていたラターシャはそう言うと、気になる具を少しずつお皿に乗せ始める。まあサンドにしなくてもパンと一緒に食べても良いわけですから。しかしラターシャとルーイがウロチョロしているのを横目に、お皿を持ったナディアが早速リコットの隣に腰掛け、食事を開始している。もう取ってきたようだ。
「ナディ作るの早いね。決めてたの?」
「元々、あなたの作るスクランブルエッグが好きなのよ」
「それは嬉しい」
ナディアは芳ばしい風味がついたブラウンブレッド、その上にスクランブルエッグと、こんがり焼かれたベーコンを乗せて、ケチャップ風ソースを掛けていた。乗せられている量が控え目とは程遠いのを見る限り、本当にスクランブルエッグが好きらしい。知らなかった。覚えておこう。
ラターシャやルーイも、色んなハム、チーズ、野菜やフルーツを上手に組み合わせてオープンサンドを作っている。みんながこの試みを気に入ってくれたようで良かった。いつの間にか一枚目を平らげたリコットも、二枚目を作る為に忙しなく席を立った。
「今日はずっと此処に居るから、小腹が空いた時に好きに摘まんだら良いよ、このまま置いておこう」
「わーい! 食べ切れないって思ってた!」
「ふふ」
お昼はまた趣向を変えようとは思っているけど、このオープンサンドパーティーも継続する。テーブルには湿度および温度調整の魔法陣を敷いたので、パンや具材が時間で乾いてしまうのも限界まで抑えられるはず。朝からあんまり胃に無理をさせてほしくないので、そういう形にしました。
「ところでチーズは表面を炙っても美味しいよ。誰かやりたい人~?」
「はーい!」
リコットとルーイが勢いよく手を上げ、好きな組み合わせの上にチーズを乗せて持ってきた。可愛いねぇ。私の炎生成でバーナーのようにジュッと炙ると、表面だけが軽く焦げ、芳ばしい香りが漂う。
「最高……」
「おいしい!」
美味しさを噛み締めているリコットが面白すぎるし、座ったままで軽く跳ねてるルーイが愛らしい。この後、結局ラターシャとナディアもやりたがったので炙ってあげた。美味しいよね、焼きチーズ。私も食べようっと。
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