第249話_考えごと
一生懸命みんなの晩御飯を作っているのに何故か叱られ気味な私。とりあえず下準備の済んだ食材を持って次の工程に入ります。ナディア達が居る方とは別、私の近くにある
元の世界のガスコンロと違ってすぐに最高過熱になるわけじゃないし、先に使い終わった調理器具を洗ってしまおうかな。まな板とナイフはもう使わないのでね。そう思って竈に背を向けると同時に、リコットが「アキラちゃん終わった~」と言った。
「おー、綺麗だね。ありがとう。じゃあ、洗い物は二人にお願いしよう」
まな板とナイフと、二人に食材を渡した時のお皿ももう使わない。ナイフに気を付けてねって言う私に、二人がちょっと笑ってる。いや、気を付けるに越したことはないからさ、これも念の為ですよ。過保護じゃないよ。
「働き者のナディアさん、そっちのもう片側、温まってる?」
「……ええ」
何か言いたげな顔をされたが、飲み込んだみたいだったので気にしない。リコット達が作ってくれた串と、用意してあったタレの容器をナディアの傍へと運ぶ。
「じゃあ網を置いて、この串を焼いて下さいな」
ようやくの真っ当なお願いに、ナディアは溜息を落とさず頷いてくれた。こういうお願いが必要だったんですね。本当に働き者だなぁ。
串の下味は既に付けてあるし、このまま軽く焼いて油が落ちてきたところでタレに潜らせてもう一回焼く。今度はじっくり火が通るまで。私の説明に、特に戸惑う様子も無い。任せて大丈夫だろう。
さてじゃあ私は自分の竈の方を。まだ火が弱いな。待っていてもいいけど面倒だから自分の魔法で補助するか。足りない火力は炎生成で補いながら、バターを敷いた鍋で野菜を軽く炒める。これはスープにする予定なので簡単にね。
「アキラちゃん、お湯が沸いたよ~」
「お、じゃあパスタ茹でて~」
用意していた適切な分量の塩と、パスタをルーイに手渡す。まあルーイはお料理上手だから塩の分量も本当は任せちゃって大丈夫なんだろうけどね。案の定、慣れた様子でルーイは少しも戸惑わずに受け取って、てきぱきと塩とパスタをお湯に投入していた。
パスタソースも作らなきゃいけないんだけど、もうちょっと後で良いかな、今日はオイル系にするつもりだからあんまり時間は掛からない。
こうしてみんなにお手伝いしてもらいながら夕食を作り終え、みんなで食卓を囲む。一家団欒の時間だ~って呑気な気持ちでいたんだけど、直後ナディアが難しい顔をした。
「もう少し、私達を使うことを覚えて」
一口目を食べるより先に、苦言でした。馬車旅での最初の食事でも「あまり何でもされてしまうと心苦しい」ってこの子は言っていた。忘れているわけじゃないし、普段はそれなりに手伝ってもらっているつもりだが、一度抜けたらこんなに怒られてしまうとは。しょんぼりと眉を下げる。
「ごめん。ちょっと考えごとをしてたら抜けました……」
「考えごと?」
「うん」
軽く応えてパスタを口に放り込んだものの、みんなは手を止めて私の言葉の続きを待っている。うーん、手を止められてしまうと、喋るしかないんだが。みんなにも夕食を食べてほしいので。
「大したことじゃないよ、照明の魔道具もエルフの知恵にあったからさ」
スラン村と私達用に作った方が良いかなーとか、さっき色々考えていたことを話す。
「でも、野営であんまり明るいのは、目立つんじゃないかなぁ」
「アキラちゃんが傍に居てくれる時なら安心だけど、私達だけで使うってなるとねー」
ラターシャとリコットが伝えてくれる懸念に、なるほどと唸った。その考えは無かったな。
満足に明かりを扱えないこの世界の人達にとって、日が暮れてから移動するなんて無茶は本当に珍しいことだ。夜逃げしている訳アリさんとか、闇の組織とか? 何にせよそう頻繁に出くわすことじゃない。つまり日暮れ前に人影がなければ、別にそんなに気にしなくてもいいと私は楽観的に思うけれど、女の子達が怖いって言うなら、何か考えた方が良さそうだなぁ。
「よし、じゃあそれも対応を検討しよう。うん、開発前に意見を貰えるのも悪くないね」
うんうんと頷いていると、女の子達が軽く視線を合わせてから私を見つめた。えっ何ですか。目を瞬いたら、ラターシャが眉を下げて笑う。
「アキラちゃん、あんまり無茶しないでね。頭を使うことばっかりでしょう?」
「あー、はは、そうだね」
エルフの知恵では目を回しそうになって、心配させちゃったもんな。気を付けなきゃね。無理をしないこと、そして今夜は夜更かしせずにちゃんと寝ることをみんなに約束した。
食後に片付けを終えたらきちんと竈の火も消して、代わりに焚火を起こす。竈が四連もあるとそれだけで温かいから要らないけど、全部片付けちゃうと他に夜の暖を取れるものが無いのでね。
「あー、ナディ」
湯を張った木風呂を使って、女の子達が順に入浴している時間。今はラターシャが出てきて、入れ替わりにリコットが入ったところだ。呼んだのはナディアだったから当然、彼女が振り返るが、こういう時って必ず他の子らもこっちを見るんだよね。もしかして私、警戒されている……? まあいいか。深く考えたら傷付くかもしれないので。
「今日、一緒に寝よ」
「……ええ」
やや間があったものの了承が返ったから、私はにっこり微笑んで、テント内に出していたベッドの位置を入れ替えた。
ベッドはちゃんと女の子達一人ずつ、専用にしてある。その方が気兼ねなく使えるだろうからね。それに今はレッドオラムでそれぞれに好きなデザインの寝具を選んでもらい、みんなにお気に入りを使ってもらっているのだ。ローランベルを出た時は準備期間が短かったせいで、ほぼ全員同じ寝具だったけど。だからこそ配置を変える時はしっかり間違えないように出さなくてはいけない。
なお、三人用テントのベッドは必ずルーイを真ん中にするように、女の子達に言い含められていた。末っ子は何があっても安全な場所にってことだね。これも間違えてはいけない。今回も完璧です。
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