第210話_ウェンカイン王城再訪
みんなでゆったりとお茶をした後は、外出せずにのんびり過ごした。荷物の整理をしたり、もう仕舞って良いって言われたものは私の収納空間に吸い込んだりはしたけど。
長期間を宿で過ごす場合、みんなの私物は結構出しっ放しにしていた。使う度に私に声を掛けるのは面倒だもんね。居ないこともあるし。でも馬車旅中は私がみんなのクローゼットであり引き出しです。決して預けてもらえない下着類を除く。
夜になると揃って夕食を取り、順番に入浴させてあげる。それが終わると私は身支度を整えて、城へと向かう準備だ。
「いってらっしゃい」
「ごゆっくり」
「ナディの言い方に棘があるなぁ~」
若干、揶揄われている気がしないでもない。項垂れる私をみんなが笑っていて、生温かい目に見送られつつ転移した。
飛んだ先はいつも通り王様と従者らが待機している応接間。あ、ようやく見覚えのある部屋だな。この部屋は二回目だ。これだけ何度も城を訪れて同じ応接間に招かれたことが無かったっていうのがまず驚きだが。王様が丁寧に挨拶してくれるのを受け止め、軽く頷く。
「レッドオラムはどう? 落ち着いた?」
「はい。一先ずは問題ないでしょう」
負傷者を含めて動けない兵士が増えてしまった為、しばらくは別の街からの支援兵で補う予定らしい。国からも少し兵士を送るらしくて、現在は準備中だとか。よし、まだレッドオラムに向けて出発した城の兵士は居ないんだね。逃げ切れそう。
「ところでアキラ様、報告内容を改めて確認しまして、二点、疑問があるのですが」
「うん?」
お互いソファに腰を落ち着けたところで、王様はそう言った。「うん?」だけで続きを促したつもりだったんだけど「宜しいでしょうか」と改めて問われたので頷く。許すから早く喋れ。
「アキラ様の御力をお借りして、最初にあの軍団を率いているのが『魔物』であり『人や魔族ではない』という確認をしておりました。つまり、裏で糸を引いていた者も、魔物なのでしょうか?」
「あー、いや」
なるほど、彼が少し改まって問い掛けてきた心情も理解した。私達が取り逃がしてしまったあの馬車に乗っていた者が魔物であるとは考えにくい。その結果を見ると、最初に確認したタグが間違っているかのように思える。私の能力にケチを付けるようで、気が引けたんだね。だけど私は軽く首を振った。タグはね、間違ってない。だけど犯人が魔物ってことでもない。
「あれはタグの落とし穴だね。真偽のタグはかなり額面通りにしか問いを受け止めてくれないみたいだ。裏で糸を引いていた奴がやったことは『デカ狼を操る』こと。デカ狼がやったことは、指示を受けて『魔物達を率いた』こと。こういう場合、タグの判断では『軍団を率いているのはデカ狼』になる」
「……なるほど」
デカ狼に指示を飛ばした者は実際に軍団を率いたわけじゃない――ってことだね。思っているよりも機械的に答えを出してくるらしい。私もちょっと過信していたかもしれない。
「タグに頼りすぎるのも考えものだね。私から提案したことだから、それはちょっと申し訳なかった」
「いいえ、アキラ様のその能力について、まだ分からないことが多いということは事前にお話を頂いておりました。我々も考えを改めておきます」
王様達は頭を下げてくれるけれど、今回は本当に私の反省点でもあるから、あんまりそう畏まられても居心地が悪いよ。空気を変えるように「もう一つの疑問は?」と次の話題を促す。王様はゆっくりと頭を上げた。
「もう一点は、巨大な魔物が如何にして生まれたのか、という疑問です」
「それね、私も疑問だから答えられないわ」
あっはっは。と笑ってそう言ったら部屋の空気が戸惑いに包まれる。
いやいや、冗句を言っているわけじゃない。だって今回デカ狼の中にあった魔法石には、身体を大きくしたと思われる術は入っていなかった。あれはあくまでも指示を受ける為の受信機でしかない。命令が直接、魔力回路に放り込まれるような仕組みだ。知能や意志が弱い生き物――つまり魔物や獣にはよく効いてしまい、指示に従ってしまう。
だけどその指示は『行動』にしか繋げられない。大きくなれーって言ったところでデカくはならないだろうから、やっぱり身体の大きさについて説明が出来ない。
「魔法石とは別の方法で大きくされたか、もともと自然に大きかったか。……穴を見付けたばかりでアレだけど、タグで調べてみる?」
上手く考えて真偽のタグを使わないとまた穴に嵌るかもしれないし、変に混乱するくらいなら使わないのも手だとは思う。でも王様と従者、後ろで静かにしていたベルクも含めてちょっと考えた後で、一応やろうと言うことになった。勿論、問答は慎重に、複数の解釈が生まれにないようにと試行錯誤をして――何とか情報を引き出した。
まず、あのデカ狼は自然に大きくなったわけではなく、『人為的に』巨大化させられた。
そして、その巨大化に『魔法石』は使っていない。使ったのは『魔法陣』。そしてその魔法陣はもう『残っていない』とのことだ。
最後の答えは少々私達にとって複雑なものだ。良く言えば巨大化の脅威は無くなっている。悪く言えば、証拠が隠滅されている。どのような魔法陣であったのかはもう確かめようが無い。
「敵さんが存外、賢いんだよなぁ。全く……何処の誰なんだかねぇ」
大きく息を吐きながら私が零した言葉に、王様と愉快な仲間達がちょっと変な顔を見せた。
「うん?」
何だよ、私が何か変なこと言ったか? そう思いながら首を傾けると、やや慌てた様子で王様が口を開く。
「いえ。……賊については、全く掴めていないという状態ではないのです。しかしまだ確定しているわけでもなく、ご報告を迷ってしまいまして」
「ああ、そういうこと。いいよ、その辺りの判断は任せる」
今の言葉でとりあえず敵さんの解明について、城側には多少なりと進展があるって分かったからね。それに、よく考えれば私にはどうでもいいことだった。協力を仰がれるまで、大人しくしていましょう。
「明確なことが分かり次第、追ってご報告いたします」
少し考えた後で王様がそう告げてくるのを、私は頷くことで了承した。
「じゃあ、今回はこれでいいかな?」
「はい。此度も、ご協力ありがとうございました」
報酬を頂いて、サインを取り交わし、私は立ち上がる。さあお待ちかねの、カンナとの時間だ。うきうきしている気持ちを隠すことなく、いつも通り私は案内役の侍女さんに連れられて客室へと向かった。
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