第194話
しかし今回のことは、私個人として、あまり良い状況とは言えない。みんなを守るのは容易いし、そういう意味では心配していないんだけど。
「うーん、規模が大きいんだよな~。城から、要請が来そう」
私の憂いは、此処レッドオラムの防衛をするようにと、城から求められることだ。
要請が無かったとしても、この規模なら国の兵も間違いなく動く。送られてきた兵の中に私を知る者が編成されていないとも限らない。コルラードなんて出張ってきたら一発だよ。こうして籠っている限りはまだ大丈夫だけど、見付かる可能性はゼロではない。困るよなぁ。
「まあ、今から考えても仕方ないな」
外を覗いても、そわそわした住民くらいしか見えない。見張っていても意味は無いな。カーテンを閉ざして振り返ると、他の住民ら同様、そわそわとしている女の子達と目が合う。私には人を安心させる才能が無いらしいけど、とりあえず笑みを向けてみた。
「私が居るから何の心配も無いよ。まだ真夜中だ、みんなベッドに戻っていいよ」
「でも……」
ラターシャが不安げに眉を下げて私を見上げる。その顔も可愛いねぇ。安心させる為っていうか、可愛くてつい頭を撫でた。ナディアが小さく咳払いをしたところで本来の目的を思い出して慌てて口を開く。
「不安だろうけど、眠れる内にね」
「アキラの言う通りにしましょう。アキラが居る内だけよ、私達が安心して眠れるのは」
私の言葉にやや被り気味にナディアがそう言うと、途端、残り三人が不安な顔を見せた。呼ばれてしまえば、私は此処を離れることになる。私が不在となった状態で、みんなはどれくらい安心して眠れるだろうか。そもそも私が戦いに赴くこと自体、みんないつも心配して、中々眠ってくれないのに。
「だけど呼ばれるかもしれないならアキラちゃんだって、今の内に休まないと――」
「分かってるよ、大丈夫、私も休むよ。全員で休もう、部屋には結界を張るから」
そう、ラターシャが言う通り、私も寝ずの番をしてしまうと討伐依頼が来た時に大変だ。開始早々ヘトヘト状態となる可能性がある。だから私も休みます。この部屋さえ守れたら私が居る限りは転移で何処にでも逃げられるので、今の内に結界を張って全員休むのが一番のはず。
ちゃんとそう説明し、結界を張って私が休む準備をしたところで、四人が納得して改めてベッドに入ってくれた。ただ、私も含め全員いつでも避難できるよう、最低限は手荷物をまとめ、服も外出着になっておく。
結局そのまま何事も無く夜が明けて、再び陽が沈むまではずっと平和だった。
緊張感がゼロにはならないものの、私が呑気な顔で過ごしているからみんなも少し気が抜けたみたい。昨夜は変に起きてしまった為、朝は少し遅くまで寝ていたし、ご飯も三食全部ちゃんと食べてくれた。
一番みんなが怖がっていたのはお風呂に入ることだけど、ナディアの耳でも警笛はまだ壁際しか鳴っておらず、私の魔力探知でも街中にまで魔物は入り込んでいない。つまり、もし急に状況が変わっても身体を拭いて服を着る時間くらいは充分にある。そうきちんと説明したらみんな入ってくれた。
しかし就寝時間が近付いた夜遅く。昨夜同様、避難に備えて外出着のままで休もうとしていたところで、城からの通信が来てしまった。
「んー、城かな」
私が徐に呟くと、すぐに意味を理解した四人が一斉に此方を振り返る。
まだ王様は話し始めてないものの、通信が始まる直前のノイズのような耳鳴りが来たので、私も聞く体勢になっていた。
『……アキラ様、夜遅くに申し訳ありません』
『良いよ、何』
今までで一番早く応じてしまった。まあいいか、王様も今言ったけどすっかり夜だし、他に何もしていなかったという設定で行こう。なんて考えている内にもう王様は説明を始めている。案の定、レッドオラムに魔物が強襲している件で、対応を頼みたいと言っていた。三十分以内に転移すると告げて、通信を切る。
「はあ、来たわ。行ってくる」
「お城から?」
「うん」
改めて問うラターシャに軽く頷く。私はいつも着ているお気に入りのジャケットを収納空間へと突っ込むと、王様達に貰った白いローブを羽織った。
「終わったら真っ直ぐ帰って来なさいよ。反動が出ていても」
「あはは、はーい」
そうだったね。これからはみんなの前で、ダウンしなきゃいけないんだった。不安そうなみんなをもう一度振り返る。
「此処には結界を張ってる。サラとロゼにも何かあれば分かるようにしてある。何より、これから『私が』前線に出る。……だからもう全部、大丈夫だからね」
後はどう転んだって問題は悪化しない。収束するだけだ。
呆れた顔でナディアが目を細め、リコットが苦笑いを見せる。言いたいことは分かってるよ。口を開かない二人の代わりに、ラターシャが不安そうな顔を一生懸命に押し隠して、困った顔で笑った。
「後は、アキラちゃんの心配だけだね」
それこそ何の心配も要らないんだけど。でもきっと、そう言ってもこの子達は優しいから、受け止めてくれないだろう。
「ありがとう。気を付けます」
まだこっちの方がマシか。「うん」と返してくれたラターシャと、何も言わず私にぎゅっと抱き付いてきたルーイの頭を何度も撫でてから、私は城へと転移した。
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