第176話

「お話ありがとう。そろそろ、休もうか」

「はい」

 ちょうどお茶が底を付いたので、カンナをベッドに誘う。二度目のことだけど、カンナがやや緊張の顔を見せた。うーん、やっぱりカンナは可愛い。

 前回同様、私が寝支度をする間にカンナが茶器を片付け、私が戻るとカンナも寝支度をして、それから消灯してくれる。その動きを私はただベッドで待っていた。機械のように乱れることも戸惑うことも無い、完璧な侍女としての動きそのままで、カンナが歩み寄ってくる。

「カンナ、此処に座って」

「は……」

 それを、カンナという個人に変える瞬間が、ちょっと楽しい。

 ベッドに座った状態で、膝の上に彼女を呼ぶ。カンナは今までで一番の動揺を見せた。私の言葉には常に従順な彼女だけど、今回ばかりは固まって動こうとしない。彼女なりの抵抗に、私の口元が緩む。

「あの……いえ、アキラ様の上に乗るようなこと、わ、私には……」

「ふふ」

 視線を揺らし、声も少し揺らしながら彼女が弱々しく拒む。半ば予想通りだったので落胆は無く、先程までのカンナとの変わりようが愛らしくて思わず笑い声が漏れた。

「じゃあ迎えに行こうかな」

 私は一度立ち上がると、目を見張っているカンナに歩み寄る。カンナは反射的に半歩後ろに下がったけれど、ぐっと堪えて立ち止まった。良い子だねぇ。そのまま近付いて、腕の中に閉じ込める。抱いた直後は肩を上げて緊張を見せたカンナが、私が背を優しく撫でるのに応じてゆっくりと力を抜いてくれた。

 可愛いなぁ。このまま安心してくれた彼女をそっと優しくベッドに誘う――べきだとは思うんだけど、私は私なのでそれを選択しない。油断しているカンナを一瞬だけ魔法で浮かせて、お姫様抱っこの状態になるように腕の中に下ろした。彼女はぎょっとして、再びその身を固めた。

「あっ、アキラ様、腕にご負担が、その」

 驚きながらも安定の為にと咄嗟にカンナは私の方に身体を寄せるが、直後にそれを離そうと動く。私に凭れたり、体重を掛けたりすることは無礼と思うのだろう。

「大丈夫だよ。だから暴れないの、じっとして」

 しかし私が止まるように言えば、またぴたりと動きを止める。従順だねぇ。可愛いねぇ。

 カンナの身体は小さくて軽い。腕に乗せてからは魔法も使っていないけど、こうして抱き上げていることはそんなに苦にならない。抱いたままで、ベッドに再び座ってカンナを膝の上に乗せた。「迎えに行く」と言った意味をようやく理解したらしく、カンナが頻りに目を瞬いている。

「アキラ様、あの、重くは、ありませんか」

「ちっとも。君は軽いよ。それに乗せてるところが、柔らかくて温かい」

 太腿をとんとんと叩きながらそう言ったら、耳が真っ赤になっていた。まだベッドサイドの小さいランプを消していないので、そんな色もよく見えてしまう。はー、最高。可愛い。

「本気で嫌なら『嫌』って言ってもいい。嫌がることはしたくない。でもそうじゃないなら、もう抵抗はダメだよカンナ。此処に居る君は、私のものでしょ?」

 片手でカンナのルームシューズを脱がせ、ベッド脇に落とす。そして脛から太腿までを辿るようにして、彼女の洋服の裾をたくし上げた。自らの脚が露わになったことにカンナはびくりと身体を震わせるけれど、私を見つめた目は、恐怖の色じゃなかった。

「……はい、アキラ様の、ものです」

「良い子だね。もっと身体を、私に寄せて」

 命令と思っても気が引けるのか、やや控え目に、カンナが私の方へと身を寄せてくる。その細い身体に腕を回し、服の上から彼女の身体を好きに触りながら、裾をたくし上げた手はそのまま中に差し入れた。

 ベッドにちゃんと上がったのは、私の膝の上でカンナがすっかり柔らかくなってしまってから。私に気遣う余裕も無く身体を預けてくれている彼女の重みに幸せを感じつつ、優しくそれをシーツの上に横たえる。

 それだけで終わってあげられたら良いんだけど。カンナは今夜しか抱けない。彼女の心と体力が許してくれる限りは触れたい。彼女の服を取り払い、自らの服を脱いで、チラッと視界に入った金色のガウンに軽くウンザリしてから覆い被さる。私を見上げる蕩けた瞳は、怯えてはいなかった。

「大丈夫? まだ触れてもいいかな」

「はい、……ご随意に」

 了承を得て、目尻を下げる。私のその表情を見て、少しカンナも目尻を和らげたように見えた。

 前回もちょっと無理させたかなって心配していたのに、今夜はもっと長かった気がする。

 ただ、カンナは私との行為に少し慣れたのだろうか。前回は私が身体を清めている間にはもう半ば眠り就いていたのに、今回は私が身体を清め始めると、はっきりと目を覚ました。

「アキラ様……」

「うん。気持ち悪くない? そのままじっとしてね。最後までさせてね」

 少し顔を寄せ、目を合わせて言い聞かせるようにそう伝えたら、躊躇いは見せたものの、頷いてくれた。何度も言うが、最後にこうして身体を拭いて綺麗にしてあげる時間が私は好きなのだ。恥ずかしそうにしているカンナの身体をゆっくりと清めて、それが終わったら、またゆっくりとした動作で服を着せる。自分の方はさっさと清めて素早く服を着た。ガウンは除く。

「ごめんね、今回も無理をさせた。痛いところは無いかな」

「いいえ」

 この問いには、妙にカンナがはっきりと首を振り、そして真っ直ぐに私を見つめてきた。

「前回も、今回も。アキラ様に無理を求められては、おりません」

 優しい子だな。『本当』のタグに視線を向ける為にこの子から目を離すのが勿体ない。じっと目を見つめてから、まだ上気したままの頬に口付けを落とす。最初に触れた時よりも温かくて、それが堪らなく愛おしい。

「アキラ様」

「うん?」

 疲れ果てているだろうカンナをもう休ませてあげるつもりでシーツを引き上げ、腕に抱いたのに。カンナは目が冴えてしまったのか、腕の中から私を見上げ、私の名前を呼んだ。

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