第173話_ウェンカイン王城再訪
翌日を迎えても、やっぱり私の身体に反動は出なかった。今回は大掛かりな魔力消費は無かったからね。ちょろちょろ転移したり飛行したりはあったが、それくらいじゃもう日に日に魔力に慣れている私の身体が熱を出すことは無いのだ。
でも女の子達四人がそれぞれ色んな手段で私の様子を窺ってきたのは嬉しくて、可愛かった。
しかし心配な気持ちはさておき諸々を報告しろと言われたので、大人しく今回起こったことなどをつらつら説明する。まあ、モニカ達に頭を下げて謝罪した件は恥ずかしくて内緒にしたんだけど、他のことは概ね正直に話した。王様達に悪党して楽しんだことは控え目な表現に留めたものの、四人が一様に呆れた顔をしたのでこれはバレてしまった気がする。でも怒られなかったから、いいや。
そして迎えた翌日の夜。
「――じゃあそろそろ行こうかな」
夕食はみんなと取って、ちゃんとお湯を出して温かいお風呂にも入れてあげてから、私は身支度をする。移動の準備が整ったところで思わず「よし」と声が漏れてしまったら、ナディアが小さく溜息を吐き、リコットはくすりと笑った。
「うきうきしちゃって……」
「ずっと会いたがってたもんねぇ」
呆れ半分、揶揄い半分の目で見つめているナディアと、ひたすらに楽しそうに笑うリコットに、私は苦笑いで肩を竦める。相手が前回と同じ侍女になった経緯も話してしまったので、まあ脳内が透けているよね。
「ちゃんと朝食に帰ってくるのかしら」
「帰ってくるよ! 信用が無いなぁ~」
いや正直に言うと、私もあんまり自信が無いんだけどね。明日の朝、私はすんなりとカンナを離して戻れるのかな? 結局みんなには「いつもの時間に戻らなかったら先に食べる」と宣言されてしまった。全然、信じてもらえていない。
そんなこんなで微妙な生温かい視線に見送られ、私は城へと転移した。
移動先はちゃんと魔道具の傍にしている為、前回同様、王様達が応接間で出迎えてくれる。
「こんばんは、王様。リガール草の調子はどうかな?」
「今晩もお越し頂き、ありがとうございます。リガール草につきましては、全く問題なく栽培を進めることが出来ております。これも全て、アキラ様のご協力のお陰でございます」
部屋の全員から丁寧に頭を下げられた後、従者さんからの詳しい状況説明を聞いた。
植えた種は、九割以上が問題なく発芽し、発芽しなかった種も、位置がまばらだったことからおそらくは元々状態の良くなかったものだと考えられているようだ。つまり栽培の環境には何も問題が無いみたい。
発芽後の成長も、魔法陣の効果がしっかりと出ていて、本日の正午時点で、ほぼ全てが収穫可能な大きさになったとのこと。また、上手く成長できなかったのが六株あったものの、それもやはり元々弱い個体だった可能性が高いらしい。まあ、普通に栽培していても、それくらいの失敗はあるだろうね。
「半分を収穫し、残り半分は株分けして現在、様子を見ているところです。万が一、株分けが上手く行かなかった場合であっても、収穫済みの分から種も採取できておりますので、そちらから更に栽培を進める方針です」
「そうだね、思っていたより成長が早いから、全てを種から育てたとしても、二千株は悠に超えそうだ」
当初、私が株分けに拘ったのは効率の為だが、無理なら無理で、種からの栽培に徹底させても今回は充分に間に合うだろうし、来年以降も時期を見誤らなければ安定供給になるだろう。
何はともあれ収穫には成功していて、レナが教えてくれた栽培方法が間違いない情報であることは証明されている。既に用意してくれていた一万枚の金貨が、私の前に置かれた。
「うん。確かに受け取りました。責任を持って届けておくね」
契約書を交わしたものなので、いつもの依頼時にもそうだけど、受け取りのサインを取り交わす。私達は存外この辺りをちゃんとする性質だった為、取引では今のところ全く不和が無い。こういうのはどちらか一方がいい加減に考えるタイプだと面倒が起こりやすいので、この点がスムーズであることはビジネスパートナーとして都合が良かった。
なお、お金は一旦、私の収納空間へと放り込む。この場で直接スラン村へ転送も出来るけれど、王様達の前では控えたかったからだ。転送してしまえば、少なくともその『医者』には私が転送魔法を扱えることを知らせているという証明になってしまう。私の向こう側に居る存在――レナ達に、あまり興味を持たせたくない。話もさっさと切り替えてしまおう。
「魔法陣の影響下で、どの程度まで採取する予定? ずっと使うのは危ないと思うから、区切るのをお勧めするけど」
「はい、私共も同じ考えです。今回は緊急の為、まだ解析中であったあの魔法陣を利用したに過ぎませんので」
同意見で良かった。使い始めは気を付けているから大丈夫だろうけれど、弛み始めた頃に「少しくらいなら問題ないだろう」みたいな安易な人が出て、きっと事故を出してしまう。
あの魔法陣は、人間にどのくらいの影響があるかを全く試していない。影響を受けてしまった人がすっかり老いてしまってから元に戻すようなことは、私の魔法を用いても出来ないだろう。可能な限り早めに、あの魔法陣は取っ払った方が良い。もしもいつかあれを本格的に利用する日が来るとしても、それは『影響対象を限定する機能』を付けられるようになってからだ。
彼らの予定では、いつもの倍、つまり四千株を採取できた時点で、私に魔法陣の停止を依頼したいとのことだった。その作業は今回の報酬内の仕事だと思っているので、連絡が来たら魔法陣を解除する。追加料金は要らないと告げておく。そんなことにいちいちお金取るほど、がめつくはない。王様は何か言いたげにしたけれど、今回は食い下がることなく了承を告げてくれた。
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