第149話_第三回魔法講座(1)
「じゃあ、ルーイから」
「はい!」
翌朝、朝食を済ませた私達はのんびりと支度を済ませ、泉へと移動した。サラとロゼは前回同様、馬装具を少なくして放しているが、今は遊ばずに泉の脇で草を食べていた。食事はちゃんと与えているはずだが、美味しいやつでも見付けたのかな? 何をしていても可愛いな、あの子らも。
さて、目的は魔法講座。
今回は個別指導だから、ルーイだけで良いんだよと言っても、結局みんな興味津々に傍で見学していた。
「とりあえず今どれくらい出せるかテストしよう。はいレッツゴー」
「え、此処に出したらいいの?」
「うん」
と言いつつ、足元に桶を出してあげた。いや、考えてみれば地面にビシャァってしたらルーイの足元に土が跳ねちゃうかなって。桶を見たルーイもちょっと安堵の顔をして、少し身体を屈めて手から水を流す。やっぱりルーイも土や水が跳ねるのは嫌だったんだね。
「うん、いいね。生成が速いし、消費魔力も抑えてる。やっぱりルーイはセンスがあるよ」
量や質よりも、私が見たかったのはその二点だった。ルーイの魔力量などの表示を確認した後、私は傍で見学している子ら、っていうか、リコットの方をちらっと見る。気付いた彼女が瞬きをするけど、そのまま私はルーイへと視線を戻した。
「まずはレベル2について簡単に話そう。その後で、ルーイがどれからやりたいか聞くね」
そう前置きをしたら、ルーイが真剣な表情で頷く。うーん可愛い! しかし見学中の保護者が怖いので、無闇に表情を緩めてはならない。
「レベル2では自分以外の何処かに魔力を『籠める』必要がある。操るなら、その対象になる水に。自分から離れた場所に水を出すなら、出したい場所――空気中とかね」
これは自分で出した水を操る場合も一緒だ。生成した水には、魔力が宿らない。練った魔力は生成で使用されて消えてしまうから。つまりこの桶にある水はただの水で、ルーイの魔力は残ってない。ところで私の言葉を熱心に聞いている様子が可愛くて堪らないんだよな。飲み込むように、一度、呼吸を挟む。
「逆に言えば『魔力を帯びていない』水しか、操ることは出来ないよ」
例えば誰かが操っている水、または、攻撃魔法としての水が駄目だ。まあ、籠められた魔力よりも大きな魔力で制御を取って潰すことは出来るけどね。組織の男の炎を私が払ったみたいに。私の説明をみんながふんふんと頷きながら聞いていた。この辺り、みんなも一緒に聞いてくれたのは正解だったかもね。
「ルーイは水属性の適性がある。これはつまり、君の魔力は『水』に浸透しやすいってことらしい。他の属性適性も一緒だよ」
そして自分が適性を持たない属性の物には魔力が浸透させられない為、生成や、操作なんかが出来ないようだ。っていうか全属性に適性がある私の魔力ってどういう仕組みなんだろうね。まあいいか。異世界人だからってことで。
「此処からはルーイに授業を選択してもらおうかな? 離れたところに水を出すのと、今ある水を操るの。どっちからやってみたい?」
あまり長い座学をしても、飽きちゃうからね。ルーイは既に決めていたらしく、私の問いに力強く頷いた。
「操る方!」
「よし。じゃあ早速、桶の水を使ってみよう」
私はルーイが水を溜めてくれた桶の前にしゃがみ込む。さっきは少し出してもらっただけだったので、私の水で、かさ増しをした。
「自分のやり易い方法で良いけど、水生成が出来るくらいの濃度で練った魔力を、水に沁み込ませる。手から出すなら、手を翳してみるとイメージしやすいかもね」
私はよくそうして手を翳している。こうすると、今から魔法を扱いますよ! って感じに、気持ちのスイッチが入るんだよね。
お手本を見せる為、桶の上に手を翳し、魔力を籠めて、水を引っこ抜く。直径二十センチくらいの水の玉がぽこんと桶から浮き上がった。
「レベル2の最終目標はこれね。大きさはもっと小さくて良いよ」
私の言葉に頷いているものの、ルーイのきらきらの目は浮かんでいる水に釘付けだ。このまま説明しても大丈夫かな? ま、いっか。伝わらなかったとしても繰り返せばいいし。
「此処に至るまでにはいくつかステップがある、第一段階、魔力を水に沁み込ませて、『自分のもの』にする。自分の魔力で水を掴むんだ。まるで手を伸ばして物を掴むみたいにね」
例えば手で石を掴んだとしたら、その石は自分で自由に動かせる。その手段が魔力なるだけ、というイメージだろうか。今回は対象が水なのでちょっと違うイメージになるかもしれないが、手で掬うはずの水を、魔力で掬うみたいなものだと言えば、ルーイは二回頷いた。良かった。ちゃんと聞いてた。
「それが出来たら、第二段階。掴んだ水を揺さぶってみる。だから最初は水のほんの表面だけを掴めば良いよ。イメージできそう?」
「うーん、やってみる」
桶の前にしゃがんだルーイが、じっと真剣に水の表面を見つめている。カメラがあれば写真を撮ってるね。もうこの様子が可愛いわ。私の場合は片手だけを翳して魔法を扱うが、ルーイは両手を出した。いつも両手で水を生成しているから、その方がイメージしやすいのかな。ルーイの両手から、魔力がじわじわと放出され、それが水面に触れている。浸透させようと動いているのも分かる。
「う、うーん……」
「ふふ。惜しいね。分かった?」
一度ルーイは手を自分の方へと戻して、私を見上げて眉を下げた。その顔も可愛い。カメラが欲しい。魔道具として写真機を開発しちゃおうかな。
「触った傍から外れちゃう感じがする」
「うん、今そんな感じだったね。でも自分でその感覚が分かってるなら、もう少しだよ。しばらく集中してやってみて」
「分かった」
一旦、ルーイは此処までかな。後でまた様子を見よう。とは言え、桶の前にしゃがんだままは辛いよね。低めのテーブルを出して、その上に桶を移動させ、その傍に椅子も出してあげた。これでちょっとましかな。
「次は、風魔法チームにしよっか?」
私が見学者組を振り返ってそう声を掛けると、リコットとラターシャが頷いた。
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