第147話_プチ講座
「ところで二人、今日は魔法で何かしてたっけ?」
「え?」
お風呂から上がった頃、私の髪も乾かそうと寄ってきたラターシャとリコットに問い掛ける。二人が同時に首を傾けた。
「一緒に練習はしてたけど……」
「いつもより離れた場所の目標物に風を当てようとしたかな、あんまり上手くいかなかったけどね」
夕飯前にラターシャが帰ってきた後、私が本を読んでいる間にそんなことをしていたのね。ちゃんと見ていなかったが、二人で色々と考えて練習を工夫しているようだ。それは勿論すごく良いことなんだけど。
「魔力残量が割とレッドラインだね、私の分はもう良いよ。体調は平気?」
「え、あれ? 本当?」
「あー、そういう……」
ラターシャは残量が少ない感覚がまだぴんと来てないみたいだけど、リコットには思い当たることがあるようだ。聞けば、やけに生欠伸が出るって言ってた。身体に疲労が出てるのかもね。ラターシャにはそういう症状が出ていないようだが、「言われてみれば風の勢いが衰えてるかも」とのこと。二人共、その感覚を覚えておいてね。その内、自分で気付けるようにね。
「そろそろ第三回魔法講座も考えようかなぁ。生成を越えると、みんな一緒のルートは難しいよねぇ」
タオルでわしわしと髪を拭きながら誰にともなく呟く。
全員、生成魔法がかなり達者になってきてるんだよね。元から一般人よりも素質があるのか、ちゃんと教えたらこの世界の人は本当ならこれくらい使えるのか。気になるところだが、この子ら以外に教える気はあんまり無かった。この子らが生きていく上で『有利』である為には、あまりバラ撒きたい知識ではないね。まあ、結局そういう理由で知識が貴族に留まっているんだろうけどね。
タオルを取り払ってふとみんなを見ると、ちょっと期待の眼差しが此方に向けられていた。思わず笑ってしまう。
「いやいや、まだ考え中だから。今夜じゃないから」
私の言葉に全員がちょっとがっかりしてて可愛いったらない。
「第三回はそれぞれ個別指導ね。ラタとリコも別にしようかなぁ」
「え、風なら一緒でも良いんじゃ」
ラターシャが不思議そうに問い返してくるのに「んー」と軽い相槌をしつつ、横目でリコットを窺う。彼女は私とラターシャを黙って見つめていた。
「そうだねぇ、ざっくりした内容は一緒にやって、後でそれぞれ細かいところを詰めようか」
「細かいところ?」
「うん、何から会得したいかによって、変わってくるんだ」
レベル2になると単純な『生成』ではない。生成したものを変化させたり、生成場所を変えたりする。つまり魔法が一種類では無い為、教える範囲や項目が増えるのだ。
「風はね、多分これがレベル2じゃない?」
言うと同時に、私はラターシャの横に置いてあった空のグラスを自分の方へと移動させた。当然、手は触れずに魔法でだ。
「わあ、すごい!」
ルーイがきらきらの目で手を叩く。グラスの傍に風を生成し、浮かせて、持ってくる魔法。髪を乾かすような風を作るのとは全く違う。もっと濃度の高い風を生成して浮かせ、物体を動かすことが出来る。
勿論、一括りにレベル2と言っても、紙一枚を移動させるのと、ベッドとか重たいものを移動させるのはわけが違うけれど、まあ何処まで出来るようになるかは、魔力量に依存するんだろう。私が本気でやったら王城も持ち上げられます。
「あと、自分が持っている物を遠くに移動させるのと、遠くにあるものを近くに引き寄せるのとで全然違うんだ。二人がどっちをやりたいかによって、練習法も大きく変わるよ」
「そういうことかぁ」
リコットが納得した様子で首を傾ける。個別指導にすると言った理由を理解した、という意味らしい。まあ、それが半分だね。ちょっと違う理由もある。今は、いいか。
つまりそういうことで、レベル2の魔法の種類を各属性でざっくり説明した後、個人の希望や現状のレベルに応じて個人指導になるだろう。
「ねえアキラちゃん、水は?」
「水のレベル2は、これかなー」
桶に水を出した後、それを持ち上げて変形させたり、空中で丸くして留めたりしてみせる。ルーイがきゃっきゃと声を上げて喜ぶのが可愛いねぇ。彼女らの方がこの辺りの魔法とレベルには詳しいのだろうけど、実際に見ることが無いから楽しいみたいだ。
「手から離れた場所に水を生成するのもレベル2だね。今みたいに既にある水を操るのと、どっちを先にやりたいかだねぇ」
「えー、どうしよう」
結局プチ魔法講座になっちゃった。でもまあ、事前にどんな魔法を使いたいか、決めてもらっておく為には悪くないかな。静かにみんなを眺めていたナディアにも視線を向ければ、ちょっとだけ瞳がきらきらしていた。あんまり口にしないだけで、ナディアも魔法、好きだよね。自らは問い掛けてこないだろうし、私から説明してあげよう。
「火属性は、離れた位置の点火と、既にある火を操ることと、少し大きい炎生成をすることがレベル2かな」
離れた位置の点火は他属性と同じようなものだ。あと今は火花しか出てないけど、きちんと炎の形――ライターで灯す程度のものでもいいから、そういう火を生成するのが火属性のレベル2で、同じく、焚火から拝借して火を操るのもレベル2になる。
「どれが一番簡単、というのは無いの?」
「うーん、相性によると思う。一概には言えないよ。どうしても簡単な方からやりたかったら、何が向いているかを真偽のタグで調べる手もあるよ」
向いているのをやりたいか、関係なく自分の使いたい魔法をやりたいか。それもやっぱり本人が決めることだと私は思う。色んな観点で、自分で決めて下さいね。うん、授業選択制の学校みたいで楽しいね!
「まあ、そんな感じですよ。また近い内にやろう」
「明日がいい」
「え」
リコットが即座にそう返してくるのに驚いて振り返ったら、みんなもじっと私の反応を待っていた。魔法に関することは、本当に前のめりだなぁ。
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