第146話_弱点
今日も私は、本屋に来ている。今回の目当ては魔法関連と、薬関連。
物件? あれはもう大丈夫。建てたい家のイメージの大枠が固まったので。そっち方面で次に必要なのは建設だけど、流石に、付け焼き刃で得た建築知識と技術で建てるのは不安がある。私だけなら良いが、ラターシャ達も住まわせたいんだから、安全面は大事だ。設計や製図まではプロの手を借りたいなぁ、と思う次第。
でもまあ、急いでいないのでちょっと置いておこうってことで、保留。
薬関連は掘れば掘るほど興味深くて楽しくなってきたところ。引き続き色々読み漁ろうと思っている。
そして、魔法。これはずっと集め続けている知識ではあるものの、如何せん、欲しい情報がドンピシャで載っていないことが多い。むしろ空振りに近いようなことが、ほとんどだ。
特殊魔法、中でも回復魔法に関しては現在使える人が居ないせいか、『……と考えられている』くらいの書き方。研究を続けている人は、沢山いるみたいなんだけどねぇ。実験できないと深掘りが出来ないんだろうなぁ。
書かれている仮説を私の魔法で実践してみて、一つずつ正否を確かめて遊んでいる。勿論これも楽しいが、私が欲しい情報とは違っていた。レッドオラムも大きな街だから本屋は沢山あって、毎回、色んな本屋を巡っている。大きな本屋なら何度も通うこともある。今日訪れている場所は新しく足を運んだところだけど。……手応えを感じる本は、見付からないなぁ。薬に関しては良い本が幾つも見付かったので六冊購入した。魔法の本は、買わなかった。
「浮かない顔ね」
「んー」
宿に戻ってから本を開くも、ちょっと気が乗らなくて横に避けてごろごろしていたら、ナディアが覗き込んでくる。私はそれに力無く返事をして、そして、溜息を零す。
「誰も回復魔法について教えてくれない……」
「はは、そりゃね~」
私の愚痴を、リコットが笑った。ルーイとラターシャはまた一緒に出掛けているので、今部屋に居るのは私と彼女らの三人だけ。
さておき、私だって仕方が無いってのは分かっているんだよ。頭ではね。だけど魔法も何も無い異世界からやってきた私に、この情報の少なさは酷い試練だと思う。……いや、タグの便利さを思えば色々配慮されている気がするものの、私の好奇心が満たされない。
「うーん。この国で一番、魔法について詳しい街は何処かなぁ?」
可愛い女の子に多く出会う、ということを目的にして、とりあえず『人口の多い街』を渡り歩いてきたけれど。もし魔法学の知識を求める方向へ目的をシフトしたとしたら、もっと知識の詰まった本屋とも出会えるのかもしれない。私が目的をシフト出来るかは一回ちょっと横に置いておいてね。
しかし、そんな期待を込めてナディアとリコットを見つめると、二人は軽く目を合わせてから、同時に肩を竦めた。仕草が似てて本当に姉妹みたいで可愛いねぇ。
「街って言うか、それなら城でしょ」
「私もそう思うわ。優秀な魔法学者や魔術師は、ほとんど城に招かれるもの」
「あ~」
そうかぁ。魔法って貴重だから、使える人は城が掻き集めているんだったね。ケイトラントも私の魔法を見て「国は放っておかないだろうな」って言っていたのを思い出した。
「王様、お願いしたら城の書庫とか漁らせてくれないかなー」
城に保管されている本なんて、機密情報も沢山ありそうだから普通はそう簡単に開放してくれないかもしれないが、私なら例外で見せてくれそうな気がする。ただ、此処のところ我儘放題しているからなぁ。報酬を領地にしてもらったり、爵位の義務が全面免除されたり。申し訳ないとは少しも思わないけど、頻繁に振り回すのもちょっとなぁ。
うだうだと悩んでいると、私の寝転がるベッドにナディアが無遠慮に腰を掛ける。尻尾が目線の位置でふわっと揺れて、わーいって手を伸ばしたら逃げられた。慰めに触らせてくれるのかと思ったのに……。
私の傍に座ったまま、呆れた目で見下ろしてくるナディアの目尻が、微かに下がる。笑みに近い変化だったけど、なんだかちょっと意地悪な色に見えた。
「魔法の本くらいなら、見せてくれるのではない? ついでにその恋しい侍女様にも会ってきたら?」
「ど~~~して思い出させるようなことを言うかな~!?」
折角カンナのことを考えないようにって、色々と知識の方へ意識を向けていたっていうのに!
両手で顔を覆ってウォォと唸ったらリコットが大きな声で笑った。笑い事じゃねえのよこっちはさ~~~。
はぁ、全くもう、弱点と見たらすぐに突いて来るんだからこの長女さんは。そんな意地悪なところも大好きですが。
「ナディ、尻尾を触らせて。慰めて」
「嫌よ」
もう一度手を伸ばしたが、今度は軽く叩き落とされた。うう。しかも立ち上がって逃げて行ってしまう。冷たい。機嫌良さそうに上を向いてふわふわ揺れてる尻尾は可愛いけれど、それだけに触れないのは悲しかった。
起きて本を読もう……。仕方なく身体を起こし、薬の本に没頭することで色々な考えを押し出すことにした。
でも、夜になってしまうと、ダメだった。
今は何してるかなー。まだ仕事してんのかな。流石にもう休んでるかな。自分の気持ち一つで自由に会いに行けない相手だから、余計に気になるのかもしれないし、会いたくなるのかもしれない。
「さっさとお風呂入りなさいよ」
「はぁい……」
ナディアが出てきてもベッドに突っ伏してぐったりしていた私に、冷たいものですよ。通常運転。甘やかされたら動けないので丁度いいんだと思うけど。
最近、髪の毛を乾かすのはラターシャとリコットが二人掛かりで頑張っている。私が上がってもまだ乾いてないようだったら仕上げをすることになってるけど、ここ数日はほとんど無い。風生成、上手になってきたねぇ。
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