101~200話
第101話_呼び出し
翌朝、みんながめちゃくちゃ気にしていたので王様達へと話した内容を正直に共有した。麻薬組織の捜査状況は勿論のこと、報酬として求めた『女の子』についても。いや、これは一応話しておかないとね、依頼を終えて戻っても、その為にもう一回、城に行くことになるのでね。
当然のようにみんなが微妙な顔をして、中でもナディアは明らかに眉を顰めて呆れていた。
「どうしてわざわざ城に女性を要求するのよ」
「えー、私に依頼が来る討伐なんて絶対大変なんだしさー。そんな仕事を頑張ったのに、女の子からの労いが無いとかあんまりじゃない? あっちで用意してくれたら私も探す手間が省けるし~」
話せば話すほどナディアが眉を寄せてしまうんだけど、隣のリコットは彼女をちらりと見た後で、眉を下げて笑う。
「アキラちゃんさ~何でわざわざ聞こえの悪い理由から言うの?」
こういう時に必ず見透かしてくるのがリコットだ。でも、私は自ら明かすつもりが全く無かったので、彼女ににっこりと笑うだけに留める。代わりに視線を集めてしまったリコットは、諦めた様子で一つ息を零した。
「仕事を頼む度に、お金じゃなくて『人を差し出さなきゃいけない』んだから、明らかにハードルが上がるよ。それを狙ってるんでしょ」
悪党じゃない人間には、かなり嫌な条件だと思うんだよね。ナディアが眉を顰めたのが良い例だ。
人間性を差し置いたとしても、城が『政治の一環』として女の子を買ってくる、または用意するわけだから、そんな取引の下地が現在無いなら相当ネックになるだろうね。その報酬を用意する『面倒さ』が少しでも躊躇いになってくれたら、私にとって御の字ってわけ。
例えそうならなくても、可愛い子が多く抱けるなら別に良いし、頻繁なのが気に入らなくなったらしばらく応答しないことも出来る。中々楽しい条件だったんじゃないかな?
「性格の悪い……」
「あはは、そうだよ。私は性格が悪いんだ。だから、王様を相手にするからってそんなにみんなが心配することは無いんだよ」
半分宥めるようなつもりでそう続ければ、呆れた顔で項垂れていたナディアも、少し眉を下げる。
「それでも心配には、なるよ」
いつになく強い声でそう言うラターシャだったけど、眉は垂れ下がって、ちょっとだけ目が潤んでいた。昨夜はただ話をするだけだったのに、それでもそんなに心配だったんだね。頭をよしよしと撫でる。何だか不満そうな顔をしていたけど、ラターシャは大人しく撫でられてくれた。
「だからって、みんなが寝不足になるのは私も心配だよ。不安に思うかもしれないけど、交代で寝るとか、工夫は考えてみてね」
私の言うことも分かってはいるようで、みんな強い反論はせずにちゃんと頷いてくれる。
とは言え、今から気を張っていても仕方が無い。昨日の今日ですぐに呼び出しがあるわけじゃないんだから。――なんて気楽に構えていたんだけど、呼び出しは思いのほか、すぐだった。
五日後の昼下がり。小さな耳鳴りに首を傾けた直後、頭の奥に声が響く。
『――アキラ様』
えぇ。今ぁ?
そう思った。たった五日で呼ばれたことよりも、現在、本屋で楽しく本を物色していた最中であることの方が問題だったのだ。手にしたばかりだった本を開くことなく棚へと戻すと、一旦、店の外へ出る。声を出さなくても会話は出来るのでこのまま話していても良かったが、本の方に意識が行って話半分になりそうだったから。
『こんにちは、王様。早速、ご依頼ですか』
店の前にある無人のベンチに腰を掛けながら応答すると、王様と、傍で控えているらしい従者らの安堵の声が漏れた。
『はい、北方にある山間部で、竜種の魔物が活発化いたしました』
「――アキラちゃん、どうし」
王様の話の途中、ラターシャが本屋から出て、声を掛けてきた。実はこの本屋には一人じゃなくて、みんなで来ていたのだ。どうやら私が何も言わず店を出たのを見付けていたらしい。静かにするようにジェスチャーをしたら、すぐに状況に気付いたらしく口に手を当てて黙る。その仕草、可愛いね。
その間も、何も知らない王様は状況説明を続けていた。
飛行系の魔物というのはいつも弓や大砲を用いて討伐することが多いそうだけれど、中でも竜種というのは飛行速度が圧倒的に早く、仕留めにくい。そのせいもあって、竜種を相手にした討伐は必ず兵に甚大な被害を齎している。加えて今回は場所が山間部。城からの支援兵を兵器と共に送ることが困難であり、最悪の場合は一般市民にも被害が及ぶのではないかと懸念しているとか。
だから今回は私に出てもらって、被害を出来るだけ小さく抑えたい、ということのようだ。且つ、以前のように不自然な点が無いかも確認してほしいと。へいへい。
『分かった。三十分以内に魔道具のある部屋に転移するから、私を知る人間以外は人払いしておいて』
『承知いたしました』
通信を遮断して、立ち上がる。此処から宿まで歩いて十数分くらい。充分に間に合うな。ラターシャを振り返って「ごめん」と短く言うと、彼女が小さく首を振る。
「お城?」
「うん、早速の御依頼だ。様子見も兼ねて行ってくるよ」
出来るだけ心配させまいと明るく告げてみるけれど、ラターシャは深刻な顔で頷いて、想像していなかった返しをした。
「すぐにみんなを呼んでくる」
「え、いや、いいよ。宿には一人で戻るから。後でみんなには伝えておいて――」
「駄目だよ!」
大きな声でそう言うと、ラターシャは私の腕にぎゅっとしがみ付いた。振り払ってまで置いて行くつもりは無かったんだけど、彼女が微かに震えているのを見たら、何も言えなくなる。
「お願い、アキラちゃん。行く時はちゃんと、みんなに顔を見せてから行って」
「ラタ」
そんなに怖がらなくても、帰ってくるよ。そう言い掛けたけど、飲み込んだ。どれだけ言葉で大丈夫と伝えても不安になるなら、こういう要求には出来る限りで応じておこう。
「分かったよ」
二人で手分けして店内を回り、各々自由に本を見ていた三姉妹を店の外へと連れ出す。
「ごめん、呼び出し。私は宿に戻ってそのまま向かう」
「……そう。私達も宿に戻るわ」
ナディアまでラターシャと同じことを言うんだなって、少し意外で、ちょっとびっくりしていた。
「心配いらないよ?」
「そうだとしても、見送りくらいさせてよ」
笑みを浮かべながらもそう続けたリコットだって、不安そうな顔だ。結局みんな、同意見なんだな。いつの間にか私の隣に立っていたルーイも、私の手をぎゅっと握った。
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