第55話_北東の森

 見える範囲、動くものは無い。どうせすぐまた森から新手は来るだろうけどね。

「ベルク」

「はっ、はい」

 振り返って名前を呼ぶまで、ベルクは呆然と平原を見つめて固まっていたみたい。まあ、まだそんな状態のままの人達が彼の背後にいっぱい居るけど。構っている時間はありませんよー。

「魔法砲は何処? 幾つあるの?」

「ええと、数は十三門のはずです、場所は……」

「私の魔力を籠めるから。誰でもいい、すぐ案内させて」

「か、畏まりました!」

 十三のその特殊な大砲は、幸い二箇所にまとめられていたので移動時間含めて、充填作業は三十分くらいで終わった。魔術師が魔力を籠める手間を考えて場所が限定されているんだろうな。誰でも砲弾を込められる大砲とは違うもんね。

「これでしばらく保つ?」

「ええ。もしかしたら、城からの援軍が到着するまで」

「オッケー。じゃあ私らは森の方に行こうか」

「は……」

 ベルクは目を丸めているけれど、そりゃ魔物を輩出してる森に行かないと原因なんか対応できないでしょ。はいはい行きますよー。

 戸惑う二人を無視して私は歩き始める。もう一回、屋上に戻ります。

 そして揃って空が見える場所まで移動したところで、軽く「飛ぶよ」と言って上昇した。流石に驚いたようで、ベルクは結構大きな声を出していた。

「コルラードは流石、声までは出さないねぇ」

「いえ……声すら出せなかったと思ってもらって結構です」

「あはは」

 私の言葉に団長のコルラードは酷く険しい顔で呟く。かなり正直な気持ちみたいだ。

「改めて、君らの戦力は全く必要ないし、怪我もさせない。毎度驚かせて申し訳ないけど、森に行くよ」

「……はい。どうぞお連れ下さい」

 深呼吸を挟んでから、ベルクが言った。コルラードも頷く。二人共、肝は据わってると思うよ。では出発しましょう。

 森に飛ぶまでの間、ちらほら見える新手は気が向いたら風魔法で斬り捨てて数を減らしておく。

 問題は此処からだな。

 さてタグ。この策は完全にお前が頼みなんだぞ。

 森の脇に着地すると同時に、三人を囲うように結界を張る。

「コルラード、私からそれ以上、離れないでね。あとベルクは私とコルラードの間に常に居ること。当然、邪魔だから私より前に出るような真似はしない」

「しかし、もしアキラ様に危険が迫るようでしたら、我々も」

 邪魔だって言ってんだろって睨みたくなったけど、私を心配している気持ちは本当のようなので、一つ息を吐く。私ちょっと気が立ってるかもな。はぁ。可愛い女の子の顔が見たい。

「気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも今回は計算外のことをされると困るんだ。助けてほしい時はちゃんと言うから、それまで控えていて」

「……承知しました」

 そういうわけで、私を先頭にして縦に並ぶ形で森に入ります。はい、タグ仕事して。魔物急増の原因だ。

 原因、原因、と念じながら、とりあえず真っ直ぐ進む。横から出てきた魔物は風魔法でぶっ飛ばしてー。あ、木も一緒になぎ倒しちゃった。一応、魔力探知も出来るから、何処からでも魔物が近付けば気付ける。コルラードの後ろから迫った魔物も、彼が気付く前に風魔法で切り裂いた。そうして進むこと、十分くらい。

「よっし来た」

 タグ、仕事してくれてありがとう。かなり遠そうだけど、出ればこっちのもんだ。記載が『大繁殖』で、何て言うかそのまんまなんだが、考えても仕方ない。見たら分かるだろう。

 つい歩調を早めそうになるが、急に動きを変えたらコルラードが離れてしまうかもしれないな。「ちょっと急ぐよ」と声を掛けてから、徐々に足を速めることにした。

 そこからタグの出処に辿り着くまで、急ぎ足で歩いたにも拘らず二十分ほど歩いた。進むほどに魔物がわんさか出現してくるが、特に困るほどではない。いっぱい出たら大きめの魔法でバサッと殺すだけ。霧になって消えてくれるのは便利だなってこの時初めて思った。この量の死骸が残ったら、歩くのは大変そう。

「此処が原因だそうでーす。うんうん、出てきてるねぇ」

 到着したのは、洞窟だった。やけに周りの木々は生い茂り、気持ち悪いくらい洞窟の周りにツタが張り巡らされていて、明るい時間に見ても穴の存在を見落としそうだ。そして夜であることもあって、入口の奥は何も見えない。今ある光源は空に光る二つの衛星と私の照明魔法だけど、森に居るとあんまり空の光は恩恵がないし、実質、私達の足元を照らす用の照明魔法だけ。元の世界で魔法が使えない状態だったら、こんな不気味な洞窟には絶対に近付かないね。

 そして入口からは引っ切り無しに魔物が出てきている。量産の工場かな。

「よく分からないけどいっぱい出てくるから、とりあえず中に雷魔法でも撃とうか」

 言ってすぐに入口から割と全力の雷魔法をぶっ放した。洞窟だから森と違って発火しないし大丈夫だよね~って軽く考えていたものの、向こう側に抜けてたらヤバいな。その場合はまあ、ほら。私の水で消火するよ。

 幸い、何処かから火の手が上がった気配は無かった。そして魔物は、ぴたりと出てこなくなった。

「これで、終わったんでしょうか」

「だと良いけど、一応、中に入って確認するよ」

 丁度いい繁殖場所があって、その中で魔物がどんどん繁殖してるってだけなら、もっと前から今回の大量発生があってもおかしくない。全然違う原因があると私は思う。無かったらどうしようね。それはその時に考えるしかないな。やや躊躇している二人の気持ちは分かるが、良いから付いて来ーい。

 照明魔法をさっきまでよりも少し強めて、かつ、複数出した。各人の周囲を間違いなく照らす為だ。躓いて転んで私にぶつかってはほしくないのでね。女の子なら歓迎するが。

 小さな横穴からは、ちらほら魔物が飛び出してきていた。見付ける度、その奥へも雷魔法をぶっ放す。タグは横穴から出ていない。もっと明確に『原因』があるのかな。どんどん進んでいく。この洞窟、かなり深い。十数分を進んでも、終わりが見えない。

「アキラ様、ご体調に問題はありませんか? 一度、休憩を挟まれては」

「うーん」

 言うことは分かる。魔力や体力はまだ余裕があるものの、集中するのに疲れてきた。だけどちょっとだけ、私、急いでいるんだよねえ。しかし、強行もやっぱり良くないかな。

「コーヒーブレイクくらいしますか」

 一つ息を吐いてそう言うと、少し結界を広げ、前からも後ろからも魔物が来れないようにした上で、三人分の椅子を出した。

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