第53話_提案
手配が済むまで待つのは全然、問題ない。というか私の話はこれで終わりではないので。のんびり紅茶を傾けてから、また王様へと向き直る。
「お願いはもう一つ。あと聞きたいことが一つ」
私の言葉に、王様は少し背筋を伸ばして緊張を見せる。最初の話が過激すぎたから構えるのは分かるけどね、あれが最大だから気楽にしてくれ。思っても言わないけど。
「殺した奴らから奪った金品と、あと魔物を狩って採取してきた素材、可能なら換金してくれない? 私が町で換金すると、目立つし騒ぎになるから」
「……後者に関しては全く問題ございませんが、盗品の方は……」
「あはは」
そりゃそうだ。犯罪者の片棒を担ぐ為に国の財を切り崩すことになるもんね。
「私も棚ぼたで得たものだから、同価値にしてほしいとまで我儘は言わないよ。少しでも良い。あいつらの金稼ぎの道具にされた女の子達がこれからを生きていく為のお金に換えたいんだよね。何か上手いこと出来ない?」
それでも、丸投げするが。
王様が難しい顔で考え込むと、やや後ろで控えていた男性が、ソファに近付いて、王様へと身を屈めた。淡い茶色の髪をしたイケメンだった。幾つだろう。私とあまり変わらない年齢に見えるけど。
「お話中、失礼致します。金品も書類同様に『回収』の名目で城に保持し、相応の金額をアキラ様へ『報酬』としてお渡しするのは如何でしょうか」
賢そうなイケメンだな。腰に剣を指してるから武官かと思ったが。王様は彼の言葉に難しかった顔を緩め、少し考えた後で頷いた。
「この者の提案の形に致しましょう。事実、麻薬を取り扱う組織をアキラ様が発見、対処し、更に証拠の品まで運んで頂いたことに変わりありません。報酬をお渡しするに値します」
「ありがとう。本当に助かるよ。じゃあ、あー……ごめん、さっき一緒に言うべきだったか。金品を出す場所も必要だね」
「いいえ。合わせて手配させます」
ちょっと二度手間させてしまった。申し訳ない。また彼の周りの者達が指示を受けて慌ただしく動くのを見守って、少し落ち着いてから次の話題に移る。
「で、聞きたいことなんだけど。……『エルフの里』ってのは、ウェンカイン王国の統治下?」
私の問いに、王様は少し眉を寄せた。何でそんな話題になったのか分からない顔だった。
「いいえ。エルフ一族は、どの種族にも国家にも属することなく、この世界では完全なる中立の立場となっています」
「……なるほど。じゃあ、王様も政治的な介入は出来ないってことね」
薄々そうじゃないかとは思っていたけれど。質問の意図を探るように不思議そうな顔で私を見つめる王様に、軽く首を振る。今は未だ、ラターシャについて話すほど彼を信用できない。
「こっちの事情で、ちょっと接触を取りたかったんだけど。里の詳細を知る人が居なくてね、まあ、この件はもういいよ。忘れて」
納得した顔は見せなかったものの、王様は私の求めに応じてそれ以上食い下がることは無い。私はかなり傍若無人だと思うんだけどこの王様、本当に大人しいな。アーモスの言い分の方が私はまだ分かるよ。私も悪党側だからね。
「さて。お願いばっかりで心苦しいから此処で提案を一つ。……何かの討伐を一件、請け負っていいよ。急いでるところある?」
「本当でございますか!?」
王様、今テーブルに膝打たなかった? 大丈夫?
そして最初の「ほ」だけ大音量で、後半の声は、急いた口調ながらも抑えてくれた。私が「大きい声が嫌い」って言ったからだろうな。膝を打つほど興奮してもすぐに気付けるのはすごいな。そんな彼にはっきりと頷いて肯定を返せば、王様は今までに無いくらいの大きな動作で背後を振り返っている。先程、『提案』をしてくれた青年と、その隣に立つ騎士の顔を見比べていた。彼らも顔を見合わせ、何かを小さく話し合う。
「『一件』の選定に時間が掛かるなら、また日を改めてもいいよ」
「いえ、危機が迫っている場所があり、ご迷惑でなければ今すぐ、難しければ明日にでも、向かって頂きたいのです、我が軍も今まさに援軍の準備をしているところで」
なるほど、何かこの様子だと、私が来たのはタイミングが良かったんだな。
もしかしたら私が何も言わなくても、何かの報酬と引き換えにその討伐をお願いしてきた可能性もあると思った。だとすればアーモス……お前の行動、めちゃくちゃ足を引っ張るやつだぞ。あんな部下を持つのは本当に可哀想。
「良いよ、すぐに行こう。詳しく教えてくれる?」
「はい。御前を失礼いたします」
青年は王様と私に深く頭を下げてから、テーブルの上に地図を広げた。侍女さんが逆側でまた小さく「失礼いたします」と言い、並んでいた紅茶類を少し避けてくれている。
「城から少し離れた北東部に、深い森がございます。此方は元よりかなり強力な魔物が多く、人が近付くことはほぼありません。最も近い人里は、更に北にある――こちら、エーゼンという街です。国内において最大の砦を築き、強固な結界と強力な兵器で魔物を凌いできたのですが」
エーゼンはかなり大きな街で、私も行く行くは訪れるつもりで候補に挙げていた一つだった。
街の南側に砦が展開されているのが、地図の記載だけでもよく分かる。此処には普通の大砲だけじゃなく『魔法砲』という、魔力を籠めて放つ強力な大砲も設置されていて、森からの魔物をこれまでは難なく防いできたそうだ。しかし、ここ数日で突然、魔物の数が増えたと言う。
「今まで、魔法砲は大砲で仕留められない敵のみに限って使用してきた特別な武器です。しかし、大砲だけで対応できない魔物もまた増加し、魔力を籠めることが出来る術者の疲労も限界に達しております。最早、この街が落とされるのは時間の問題かと」
今、大至急で住民の避難に当たっているようだけれど、人の足で移動できる距離など魔物は容易に追い付いてくる。しかし馬車にも限りがあり、遅々として進んでいないのが現状。城から援軍を送る準備を進めているものの、間に合うとは思えない。頭を抱えていたところに私が来たという状況であるらしい。
「アキラ様は、空を飛ぶことが出来ると報告を受けております、おそらくは私達の扱うどの移動手段よりも速い」
「ああ、城下町でずっと付いて来てたもんね。彼が報告したんだね」
その指摘に、青年は表情を強張らせる。王様も同じだ。まあ、あれについては後ろ歩いてただけだから別に怒ってないよ。でも、二人はやや怯えた表情で、私に頭を下げる。
「……お気を悪くされたことと存じます。申し訳ございませんでした」
「いいよ」
軽く言ってから、カップの紅茶を飲み干した。
早い馬を使っても援軍は間に合うか分からない。兵器を引いての荷馬車なんて正直、絶望的だろう。だけど私の飛行なら、遥かに早く移動できる。伝書の鳥と同じかそれ以上だ。だから私が向かうことは伝書の鳥を利用してエーゼンの砦に伝え、私は到着次第、向こうの指示に従って防衛に協力する。そして城からの援軍まで持ち堪える――というのが、彼らが望む形であるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます