第43話
私はいつも正直なんだけど更に正直になって白状するとさ、溜まってたんだよね。異世界に飛ばされてから全く女の子を抱いていなかったので。その期間を無駄に引き延ばしたのは自分の勝手な判断と都合だったのは、ナディアの言う通りだけども。
「はぁ~満足。ナディア可愛いねぇ」
そういう訳でちょっとやり過ぎた感もありますが、たっぷり堪能した私はナディアを抱き締めて、彼女の背後にくたりと垂れている尻尾の先を手の中で弄ぶ。ナディアはさっきから何も言わない。まだ呼吸が整っていなくて声を出すのは無理そう。ごめんね。
「……し、っぽ」
「あ、ごめん。気持ち悪い?」
震える声での第一声がそれだったので、慌てて放した。私には尻尾が無いので、どう感じるかなど何も分からない。お金を払って抱く時には好きにしていいとは言われたものの、本音では触られるのは不快である可能性もある。慰めるように背を撫でると、一度大きく呼吸をした後で、ナディアは首を振った。猫耳が頬を掠めて、変な声が出そうだった。
「大丈夫……そんなに、触るのが、珍しいから」
「そんなもんなの? これ可愛くて、好きだけどなぁ」
とりあえず大丈夫って言われたので手を伸ばしてまた緩く握る。尻尾の先がふるふると揺れて、その感触が私の手に伝わると同時に口元が緩んだ。この世界では獣人も珍しくないから、耳や尻尾をこよなく愛する私みたいな奴も少ないのかな。勿体ない。要らないなら全部私にくれよ。そういうことじゃないが。
とは言え。楽しいからってこのまま放置しちゃうと風邪を引くよね。ナディアの呼吸が落ち着いているのを確認して、私は少し身体を離した。
「身体、綺麗にするから、ちょっと待ってね」
「そんなの、自分でするわよ」
「えー、するの好きだからさせてよ。してる間、好きに眺められるし」
「……徹底してるわね」
呆れたようなナディアの声を聞きながら、手桶に熱めのお湯を注ぎ、手拭いを浸して固く絞る。腕から首筋、胸にそれを滑らせても、ナディアは大人しい。身体を好きにされるの、慣れてんなぁとちょっと笑う。何にせよ私にとっては眺めが良いだけだ。
「リコットとも、本当に寝るの?」
「勿論、リコが良いって言えばね。何で? やきもち?」
「違うわよ」
ふふ。こんな時にも『本当』のタグが出てこなくていいよ分かってるから。清め終えたら服を着せてあげて、自分の方も簡単に済まると、きちんと服を着て改めてナディアの隣に滑り込む。私が抱き寄せるのにも抵抗せずに付き合ってくれながら、肩口で小さくナディアは息を吐いた。
「アキラみたいな人に、あの子が絆されるかもしれないと思うと、腹立たしいだけ」
「あはは!」
つい大きな声で笑ってしまったが、消音魔法はまだ有効だ。隣に響くことは無い。ただ、ナディアの耳は嫌がってぺたんとした。ごめんね、軽く口付けを落として撫で付けたら、戻ってきた。どんな動きをしていても可愛い。
「私、ナディアのそういうところ好きだな」
額に掛かる前髪を鼻先で掻き分けて、晒した肌に口付ける。ナディアが何か言いたそうにした気がしたけれど、「おやすみ」と囁いたら飲み込んで、「おやすみなさい」と返してくれた。私達の間にそれ以上の会話は無くて、私のせいで多分すっかり疲れていたナディアの方が、先に眠った。彼女が私の腕の中で無防備に目を閉じている様は何だか珍しくて、私は少しだけ夜更かしをした。
「ところでナディは幾つ? 聞きそびれてた。私は二十三」
「二十歳よ」
「へぇ、落ち着いてるから同い年くらいかと――あ、おはようラタ」
「……うん、おはよう」
翌朝、ナディアと一緒に起きて朝ご飯の準備をしていると、ラターシャが最初に起きてきた。何か微妙な顔で挨拶を返してきたが、何だろう。続いて起きてきたリコットは欠伸混じりに「おはよう」と言いながらも、ラターシャの表情を見てちょっと笑っている。何さ。私にも分かるようにしてよ寂しいでしょ。
この日以来、私は時々ナディアを誘う。私が誘った時に、ナディアが拒絶することは無かった。まあ嬉しそうにすることもまず無いんだけど、良いって言うなら良いかと軽く考えている。苦痛かを問い掛けた時に、「いいえ」と答えたのは『本当』だったから。
ちなみにリコットも結局、誘えば抱かせてくれた。最初の夜にナディアがめちゃくちゃ渋い顔をしていたものの、リコットが良いって言ったからか、口を挟むことは無かった。なので私は今、気分でどちらかを誘うという、贅沢な日々を過ごしている。流石に毎日じゃないけどね。
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