第20話
私はタグに記載されている内容をしっかりと読み直す。私の表情を、おじいさんとラターシャが固唾を飲んで見守っていた。
「うーんとね、鑑定は出来た。ちょっと困った内容だね」
「何というスキルなんだ?」
「スキル自体は、すごくシンプル。『攻撃力二倍』と『消費魔力半減』……かなり強力ではあるね、だけど」
おじいさんは私の言葉を聞いた後で一度、杖の方へと目をやった。私の鑑定が正しいかどうかを確認しているようだ。私の場合、正式な『鑑定』スキルではないのでどうだろうと思ったが、何度か頷いたところを見ると、正しいことが確認できたのだと思う。しかし問題は此処からだ。
「呪いみたいなのが掛かってる。低確率で、放った魔法が自らに返る」
私の言葉にラターシャが息を呑む。おじいさんは目を見開いた後で、頭を抱えるようにして机に項垂れた。
「……この杖を扱った者は悉く、魔法の暴発で亡くなったと聞いている。そういうことだったのか」
なるほど。
おじいさんが妙に前のめりに鑑定できる人を求めていた理由がよく分かった。そんな事故のあった杖、どんなにレア物であっても容易に売ることが出来ない。しかもスキルが分からない以上、どうして暴発したのかも何も分からなくて、対処のしようも無かったんだ。
「確率は三パーセント。低確率って言ったけど、発生した場合の惨事を思えば低くはないね」
私の説明に、おじいさんはまるで疲れ果てたような険しい表情で溜息を零し、何度か頷く。私の鑑定が確かであることを確認するほどに、憂いは深まるばかりに違いない。厄介な杖を抱えてしまって可哀相だ。そう思ったけれど、少しして顔を上げたおじいさんは、満足とは言わずとも納得した顔をしていた。
「この杖を持て余してしまうことは変わらんが、スキルが分かったのは本当に助かった。今、報酬を」
「あー、うーん、いや待って」
私に求められた仕事は終わった。杖に付いている情報は以上だし、報酬を受け取って帰るのがあるべき形だと理解している。ただ、ううん、何かちょっと気持ち悪い。
「その報酬、対価として相場なんだろうとは思うけど、私はちょっと心苦しいな。もうひと働きさせてよ」
もしも私が鑑定のスキルを何かしら修行や勉強の末に得ていたとしたら、そんな風には思わない。でも私は何の苦労もなく力を得ていて、今したことはタグを読んだだけ。そんな簡単なことで、大銀貨五枚に合わせてラターシャの練習用の弓とか道具を全部得るのは、ちょっと嫌だった。
「この杖、ついでに解呪するってのはどう?」
「なっ――」
私の言葉におじいさんはちょっとお身体を心配しちゃうくらい驚いて椅子から立ち上がり、一方で、ラターシャは私の袖をぎゅっと引いていた。多分、ラターシャは『悪目立ち』を避けさせようとしてくれている。私は自分が救世主召喚でこの世界に来た人間であると、触れ回る意志がない。だけど此処で特殊な力を披露してしまえば、少なからず騒ぎになる。まだしばらくこの街に滞在するつもりであるだけに、避けるべき行動だという考えは尤もだ。っていうか、ラターシャは賢いね。後で撫でよう。
「ただし。追加報酬は要らないけど、私が解呪したことは内密にしてほしいのと、杖の持つスキルが変わる可能性も了承してほしい」
ゆっくりと告げた条件に、おじいさんはハッとした表情を見せる。この杖、かなりスキルが強力だ。呪いを持っているリスクがあるからこそ、これだけ強いスキルを持たせることが出来たという可能性を考えてしまうほどに。おじいさんは口元を押さえ、長く考え込む。呪いを解いて、ごく平凡な杖になってしまうとすれば、大金を払ってまで鑑定し、解呪した意味が無くなる。しかしおじいさんは目を強く瞑った後、何か考えを振り払うみたいに首を振った。
「それでも構わない、解呪してほしい。この杖に、どれだけ優秀な魔術師らの命が奪われてきたことか。わしの私財を投じて、終わらせられるなら安いもんだ」
立派な人だな。私も一肌脱ぐ甲斐があるってものだ。私はその願いを受け入れた。出来れば店先で目立ちたくないので、解呪する為に何処か場所を貸してほしいと告げると、そのまま奥の部屋に連れて行ってくれる。おじいさんは一人で切り盛りしているのかと思ったら、奥さんであるらしいおばあさんが居て、私達が奥に居る間、しばらく彼女が店番をするらしい。
「此処は、鍛冶場?」
「ああ、もう一から打つことは無いがな、昔は自分でも打っていた。今は小さな修理に使うくらいだ」
「へー」
色んな道具が置かれているが、鍛冶について何の知識もない私はハンマーを見て「アレで叩くのかな」くらいしか分からなかった。石造りの密室。うん、場所としては丁度いい。中央にある台の上に、杖を置く。
「二人はもう少し離れていて。結界を張るよ」
多分、呪いの元になっている力が外に漏れるだろうから。普通の結界は『外からの攻撃や侵入を防ぐ』機能を付けるんだけど、今回は逆。私と杖を閉じ込めるようにして、『外に出られない』結界を作り出す。
さて。じゃあ。やりますか。両手を杖の上に
単純な力比べ。術を付与した奴よりも大きな魔力で、制御権を奪い取る。ただそれだけ。
あっさりと私が制御を奪ったところで、杖からは案の定、黒い
『――人、間』
「へえ、お前喋るの?」
靄から声が漏れる。意識があるらしい。後ろの二人が緊張したのが分かったが、大丈夫。こんな弱い存在に、私の結界を抜ける力は無い。簡単に滅してしまえるけれど、興味があったからちょっとだけ言葉を待った。
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