第12話
「じゃ、続きの工作しますか」
泣いちゃったラターシャが落ち着いた頃、再び脱水症状が出ないようにと水を飲ませ、テントで眠るよう促した。泣いて疲れたこともあるのだろう、ラターシャは大人しくテントに戻ってくれた。
ということで。私は木風呂製作に戻ります。別に薄情だから切り替えが早いわけではない。してあげられることが無くなっただけだ。
さて、手元に釘とかが無いから、木材だけで組まないとね。
魔法があるから、実際にやるよりはずっと簡単だと思っている。組みたいところを同じ幅で抜けば良いわけだから。最初にも言ったが定規が無いので、何かと合わせて「同じ形」「同じ長さ」ってのは楽な作業だった。とは言え、流石にイメージだけで抜くと失敗しそうだから鉛筆できっちり印を付ける。うーん、DIYっぽい。
ただ、私こういう細かい作業は苦手みたい。落ち着かない。ドーン、バーンって勢いある魔法の方がずっと好きだ。今はそんなこと言ってられないけど。浴槽で女の子と楽しい時間を過ごす未来の為なら多少の苦労は厭わないよ。
そうして集中して作業すること、約三時間。時計は無いけど、太陽の傾きから言って多分それくらい。太陽……この世界には何で太陽があるんだろう。一日が二十四時間で太陽は東から昇って西に沈んでいた。まあ、前の世界と違うよりは戸惑いが少なくて良い。実は此処、パラレルワールドの地球なのかもしれないな。それはそれで面白い。
「わーい。出来た。箱が」
何故ここで出来たモノを「木風呂」と言わないかというと、縁が無いとなんかデカい箱にしか見えなかったから。枠から少し大きめの縁も、同じく組み継ぎで取り付ける。よし、段々と浴槽っぽくなってきた。本当なら湯を抜く為の栓も要るんだろうけど、魔法でもお湯は抜けるからそれはいいや。
「縁はちょっと丸めに削って、女の子が引っ掛けないようにしなきゃな」
柔肌に傷が付いてしまうのは大問題だ。自分が使う為だけだったらもう完成にしていたと思うけれど、私の女の子を入れるのだと考えれば色々と凝りたくなってきた。
「そして最後の仕上げは、撥水加工の木材用塗料。いやー持ってて良かったなー」
まさかこんな森深くで木風呂を作ってその仕上げに使うとは思っていなかったけど。これは別の用途で買っておいたものだ。何かと言うと、私が収納空間に入れている他の木製家具。ベッドもそうだが、椅子やテーブル。いずれも私が快適に野営をする為に用意してあるのだけど、野営で使うのだから、出来れば撥水加工はしておきたい。そういうわけで、城下町で買って、今持っている木製家具は塗装済み。また新しく追加した時の為に予備で買っておいたという経緯になる。やはり私は木風呂を作る運命だったんだな。うん。
お風呂だからと他の家具より塗りを重ね、それぞれ乾かす時間も魔法で短縮して、作業を進めること更に二時間。そして遂に。
「完成~!」
言いながら私は早速、服を脱いだ。同時に魔法でお湯を木風呂に注いでいく。水漏れも全く無し、完璧だ!
ちなみにお湯ってちょっと調整が難しいんだけど、火属性と水属性の魔法の合わせ技みたいな感じ。加減を間違えたら火傷する。
いやーしかし、こんな大自然のど真ん中でスッポンポンになるって貴重な経験! 人気が無いからやりたい放題だね! ササッと頭と身体を洗って、ざぶん!
「ぶわぁ~気持ちいい~」
ふにゃふにゃの声が出た。いやでも、これは極楽。縦と横がそれぞれ一メートル半くらいの大きい風呂にゆったりと浸かり、木漏れ日を浴びながら寛ぐ。こんな最高の時間は他に無いでしょう。は~。頑張って良かった。女の子と一緒に入って何やかんやすることで真の目的は完遂するんだけど、今はもうこれで充分。
両腕をうーんと伸ばして丸めに削った優しい縁に背中を預けたところで、ひょこっとテントの影から顔を出したラターシャと目が合った。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「へぁ?」
大きくそう叫んだラターシャが物凄いスピードで回転して私に背を向ける。そんなに素早く動いても大丈夫? 眩暈とかしない?
「もう起きて大丈夫なの、ラタ」
「え、っと、はい、体調は、もう随分……というか、沢山眠りすぎて、そろそろもう、眠れないというか」
「あはは、それもそうか」
倒れていた間のことはともかくとして。きちんと水分と食事を摂った後も今日は一日眠ってたもんね。日が暮れたらまた眠るんだから、夕方くらい少し起きてのんびりしてても良いだろう。若いからきっと回復も早いんだな。
「それより見て~すごいでしょ、お風呂作ったんだよ~」
「いえ、その、見てって言われても、目のやり場が……」
何でそんなに恥ずかしいかな。そもそも出してるの私の方なのに。
「別に見られて困る身体はしてないけど」
「あの、いえ、そういう問題では……」
本当に困っているらしいので、仕方なく、縁の方に身体を寄せて少しだけ隠した。
「ほらもう隠したから、ラタこっちおいで」
「は、はぁ……」
ちらりと様子を窺うように振り返るラターシャだけど、別にこれといった場所が何も見えてなくても肌の色が見えてるだけで気になるのか、結局私を直視しないようにしながら、傍に歩み寄ってくる。
「ラタも一緒に入る? ああ、でも脱水だったから、温かいお湯に浸かるのはまだ危ないかなぁ」
「いえ、その、全快でも、恥ずかしいので……」
「えー」
相手は子供だから誘いは全くいやらしい意味ではないんだけど、折角だから一緒に入って一緒に気持ちいいねーって言えたら楽しいだろうなと思ったのに。残念。それにやっぱりラターシャが入浴するのは体調的に危ない気がする。無理は言うまい。
「でもラタも汗は流したいよね。お湯とタオル用意してあげるから、テントの中で身体拭いたらいいよ」
「それは……嬉しい、です。ありがとうございます」
じゃあ早速。と一旦、湯船から上がって雑にタオルを巻き、テントの方に向かう。ラターシャは私に続いてテントに入りながらも、視線をあちこちに彷徨わせていた。
「あ、アキラ様、恥ずかしくないんですか」
「別にー。だってラタしか居ないし。はい、じゃあこれ好きにしてね。終わったら置きっ放しでいいよ」
手桶にたっぷりとお湯を注いだので、運ぶのは重いだろうから。何かを言いたげにしているのは一旦知らない振りをして、私はさっさと湯船に戻――あ、忘れてた。
「ラタ、着替えある?」
「わっ、あっ、あります」
テントの前から声を掛けると、物凄く慌てた声が返る。多分、脱ごうとしてたんだろうな。覗かないってば。倒れていたラターシャは弓以外、特に荷物が無かったけど、着替えくらいはどうやら収納空間に入れてあるらしい。ラターシャの収納空間はどれくらいの大きさなんだろうな。後でまた聞いてみよう。
そんなことよりも私は早く湯船に戻るのである。ふい~気持ちいい~。
……あ、そうだ。ラターシャが起きたら大事な話をしなきゃいけないと思ってたんだよね。お風呂上がったらしよう。あともう一時間だけ待って。
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