第10話
木風呂が作りたかった私。よく分からないままで木材加工がんばりました。めっちゃ失敗した。
ちょっと話を戻すが、最初に一本目の木を切り倒して木材を切り出した後で、もう五本、木を切り倒した。六本とも枝葉は木材にならないので、焚き木の時にでも使おうと強めに乾燥しておく。なお、追加で切り倒した五本は丸太のままだ。そうして手に入れた素材を全部まとめて『収納空間』に突っ込むと、一旦テントへと戻った。目が覚めた時に私が居ないとラターシャは不安に思うだろうから。幸い、軽くテントを覗いた時はまだ眠っていた。見ればもう、脱水や飢餓のタグは消えている。これだけ快復が早いなら、やはり、そんなに重症ではなかったようだ。とりあえず安心した。
そして冒頭に戻る。試しに木材を四つ取り出して加工を開始したんだけど、
同環境に置いて自然乾燥させるなら、その環境に応じて水分量が均一になったのだろうけれど、魔法で行う場合はそうじゃない。私の力加減が乾燥の度合いになる。つまり、こっちは魔法を使う弊害だったと言える。
それが分かってなくて、最初の四つは水分量が全部ばらばらになってしまった。内二つは乾燥させ過ぎて割れてしまった。泣く泣く廃材とする。残り二つは慎重に慎重を重ねて乾燥させて、タグが『ここ』と教えてくれる水分量に近付ける。今までで一番疲れる魔法だった。
「よっしゃー出来たー!」
「ひゃっ」
「あ、ラターシャ。ごめん起こした?」
一通り加工できたところで嬉しくなってつい大きな声を出してしまったら、後ろから可愛い声が聞こえた。本人も思わず出た声が恥ずかしかったようで口元を押さえて赤くなっている。どっちにしろ可愛いんだよな。
「いいえ、目が覚めて、起きてきたところです……お水、頂きました」
枕元に置いておいた水を飲んでくれたらしい。良かった良かった。軽く頷いてから、空を見上げる。太陽が真上に近いところに来ていた。
「もうこんな時間か。何か食べるもの作ろうかー」
何が良いかなー。とりあえず今朝から出しっぱなしにしていた
さておき。ラターシャはまだ柔らかいものの方が良いだろうから、小さく切ったソーセージと根菜を鍋で煮込み、トマトっぽい野菜を刻んで香辛料と共に入れてみる。今のラターシャには、野菜も溶けるくらい小さいのが丁度良いだろう。合わせてパンを軽く焼いて適当にお皿に乗っけた。
「はいどうぞ。口に合うかは分からないけど。パン浸したら柔らかくなって食べやすいと思うよ」
スープを入れたお椀を渡しながら言うと、ラターシャは丁寧に礼を述べながら受け取った。そのまま私が置いていた椅子に座る。ふとその足元と空を見て、私は彼女を振り返った。
「あー、ラタ、もうちょっとこっち座って。もうすぐそこ陽が当たるから」
まだ全快じゃないだろうし、暑いと具合悪くなるかもしれないし――と思って声を掛けたんだけど、ラターシャは何故か鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見上げた。首を傾ければ、慌てて頷いて、私が言った通り椅子と共に移動するんだけど、今の反応は何なんだ。ちょっと顔が赤い気がする。褐色の肌なので分かりにくいものの、ちょっとだけ。
熱か? 確認しようと思って手の甲を彼女の額に当てたら、さっきよりびっくりした顔で固まってしまった。何だ何だ。
「具合悪い? ちょっと熱いねぇ」
「いっ、いえ、あの、だ、だい、じょうぶです、ので」
更に赤くなった。座ったままで少し仰け反っている。ああ、そっか、触られるの嫌だったか。「ごめん」と短く謝って手を離す。子供だと思うとつい犬猫感覚で触っちゃうんだけど、本人はお年頃だもんな。まあ、不調を知らせるタグが出てこないので大きな問題は無いんだろう。
「あの、スープ、とても美味しいです、ありがとうございます」
「そりゃ良かった。沢山食べてね」
私の好きな味付けにしちゃうとこっちの世界の人や違う文化の人にはどうかなぁと心配してたんだけど、口に合って良かった。本当に心配はしてたよ。一応ね。何も聞かずに自分の好きな味付けで作ったけどね。
そんなことを考えながら自分で作ったスープをおかわりしていたら、ラターシャはまだ何か言いたい顔をしていた。おかわりかと思ったが、お椀にはまだスープが残ってるから違うようだ。黙って待ってみると、何度か迷った末にようやく口を開く。
「ですが、その、私はお返しできるものが、何も」
「あー」
さっきからやけに申し訳なさそうな顔してるなぁと思ったらそれか。身体が復調してきたら思考にも余裕が出てきて、そういう部分が気になってきちゃったのか。
「流石に子供からご飯代を取る気なんかないよ~」
っていうかそんなの求めるような人間だったら、こんな森深くで行き倒れてる人は助けないと思う。リターンなんかあると思わないでしょ。まあ、美少女なので期待するとしたらその辺りか。確かに子供と知る前の私もそれについては期待しなかったわけでもないしな。
「ま、今は何も気にしないで身体を休めて。ちょっと楽になってるみたいだけど、まだちっとも全快じゃないでしょ?」
「それは」
否定できず、だけど私にお世話されている心苦しさから肯定することも難しいのか、ラターシャは言葉半ばで口を噤んだ。お年頃の女の子に簡単に触っちゃダメだってことをまた忘れて、頭をぽんぽんと撫でる。
「大丈夫だよ。別に、悪いようにはしないからさ」
あ、これ完全に悪党の台詞だな。
気付いたけど、そんな風には少しも思っていない顔でお礼を言って頷いたラターシャが素直過ぎて、訂正の言葉は飲み込んだ。
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