第23話どうなってるの?(アミィ視点)
なにかがおかしい。
そう感じたのはその日の夜からだった。
確か、あの異国の大使を誘惑してやろうと聖女の目の前でかっさらってあたしの為に用意されていた客間に連れ込んだはずだ。
そこまではちゃんと覚えてる。そうよ、あの男はあたしを抱き締めたわ。
……でも、その後は?
どうにも記憶が曖昧で、なんだか体調も悪く感じられた。ほら、自分から香るいつもの香りもなにか違うもの。
気がつくとあたしは部屋のベッドに横たわっていた。もしやあの大使との事後の後で眠ってしまったのだろうか?とも思ったが、さすがに全く覚えてないなんて変だ。ドレスも全然乱れてないし、もしそれなりの事があったなら男があたしをそのままにして放っておくはずないもの。
結局お茶会はいつの間にか終わってたし、あの生意気な王女が嫌味を言ってくることもなかったがどうにも自分の違和感が拭えずにいた。
何かがいつもと違う。
だって、ほら……周りの男たちの視線が全然違う気がする。
「ねぇ、ちょっと頼みがあるんだけど」
部屋を出て、近くを通った使用人の男に声をかけてみた。いつもならそれだけで頬を染め欲にまみれたねっとりとした視線をあたしに絡ませるのに、その男の反応は違ったのだ。
「あぁ、はい。なんですか?」
「え、あの……えっと、お茶が欲しいのだけど」
「はぁ……では、メイドに伝えておきます」
めんどくさそうにため息をつき、そそくさとその場を去ってしまった。
なに?どうなってるの?!いつもなら誰があたしの部屋にお茶を運ぶかで殴り合いが始まるほどなのに。あの男なんなのよ?!
あたしは出来るだけドレスから肌を露出させ次の使用人に声をかける。
「ねぇ、今夜はお酒が欲しい気分なの」
「え……あー、はい。あとでメイドに運ばせます」
……ほんとにどうなってるのよ?!
あたしはその反応に怒りでおかしくなりそうだった。だってあたしがお酒を飲みたいと言っているのよ?!いつもなら向こうから「是非ご一緒に」とか「他の男に酔った姿を見せたくありません」とかって言い寄ってくるのに……!
逃げるように去っていく使用人の後ろ姿を見ながら意味がわからなくて歯をギリギリと食い縛っていると「アミィ様、どうなされました?」とあたしのお気に入りの男の声がした。
隣国から来たあたしの護衛である騎士だ。
そうだ、この男なら。そう思ったら気分が上昇する。さすがに隣国の王子が直々に寄越した騎士だからと慎重に口説いていたがそろそろ靡きそうな頃合いだったはずだ。
あたしは騎士の胸に飛び込み、抱きついた。
「……実は、今日の王女様のお茶会であたしだけのけ者にされてしまったんです!あの異国の聖女とか言う人も元は伯爵令嬢のくせに公爵令嬢であるあたしに嫌がらせをしてくるし……あたし、悲しくて。どうか慰めて欲し「お止めください」……え?」
いつもなら優しい蕩けるような目であたしを見てくる騎士の目が、今日は冷たく厳しいものだった。
「王女殿下のお茶会についてはアミィ様がご自分からご辞退なさったと聞いております。異国の聖女様とも、まともに挨拶すらなされていないとか。
それなのに聖女様を貶めるような言葉を口にし、ましてや嘘をついて護衛に抱きつくなどもってのほかです。あなた様は隣国の王子の婚約者候補なのですよ?もう少しご自分の立場を理解なさって下さい」
「な、何を言って……」
「この事は王子に報告させて頂きます。このままでいるようなら、あなた様は隣国の王子妃には相応しくないと申告せねばなりませんね。
あぁ、それと、今夜は王女様のご好意で城に泊まってよいと知らせが来ております。あなた様をのけ者にした王女様というのは随分お優しい方ですね」
冷たい視線。あたしをはねのける冷たい手。
……どこかで、あたしの世界が壊れる音がした。
翌日、公爵家に帰ると異国の聖女から手紙が来ていることを知らされた。なんと異国の大使もくるというじゃないか。
あたしはすぐに返事を出した。
あの大使にもう一度会わなければ。そして何がなんでも聖女の地位を手にいれる。と誓ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます