第24話 まさか。

 公爵家を訪問する約束の日。公爵家の門の前で、なぜか見知らぬ男の人にやたら睨まれてるんですけど。

 うーん、この甲冑の模様からして隣国の騎士ですかね。しかも王家に直属している方だとお見受けします。確か隣国は王族から直々に命令されて動く直属の騎士軍団がいるはずです(本で読んだ事があります)から、もしかしたら隣国の王子がアミィ嬢の護衛にでもつけているのかもしれません。

 なんと言っても隣国の王子にとってアミィ嬢は他の令嬢から虐めを受けていた大切な女性ですから。


「……もしや、あなたが聖女様ですか?本当に桃色の髪をなさっているのですね」


「はい、まぁ……」


 あんまりジロジロ見ないで欲しいです。その、人を値踏みするような視線は苦手なんですよね。やはりこんな桃毛の女では本物の聖女ではないかもと疑われているのでしょうか。それともアミィ嬢を虐めに来たとでも思われてるとか?もしかしなくてもこの人もアミィ嬢の虜になっているのでしょうし、敵視されていてもおかしくありません。申し訳ありませんがエドガーといい隣国の王子といいアミィ嬢信者の男性はヤバイ人たちにしか見えません。


「この方は正真正銘異国に選ばれた聖女様です。本日の訪問はちゃんと手紙を出して返事ももらっていますが、何か問題でも?」


「……いえ、アミィ様より伺っております」


 ジルさんの言葉に渋々頷きますが、そうは言ってもまだ何か納得してない感じです。


「あの、まずは公爵夫妻にご挨拶を……「その必要はございません」えっ」


 そして私の手を取り恭しく頭を下げると「聖女様がいらっしゃったら、直接別宅へとご案内するように承っております」と公爵家の本宅は違う方向へと連れていこうとしてきました。


 ちょっと、手を離して欲しいんですけど。でもここで手を振り払ったら聖女として品がないと思われるかしら?ジルさんに助けを求めようかと思ったんですが……


「その手を離せ」


 なんとジルさんが騎士の人の手を掴み止めてくれたのです。


「聖女様のエスコートをするのはオレの役目なんで、気軽に触らないでくれる?」


「……それは、失礼致しました」


 やっと手を離してもらえました。どうもエドガー事件のせいで男の人は苦手です。……ん?なんで今度はこのふたりが睨み合いしてるんですか?


 その後は重い沈黙のまま歩き出し、別宅の入り口に到着したのですが騎士っぽい人は扉を開けようとはしません。そして私を再びギロリと睨むとようやく口を開きました。


「……どうぞ、お気をつけて」


 そうしてやっと扉を開けてくれたのです。



 その重々しい言葉に……まさかこの別宅、罠屋敷なんでしょうか?と思ってしまいました。








 ***







 そしてメイドに案内された客間でアミィ嬢を待っているのですが、なかなかやってこないので緊張で疲れてきました。


「さっきの彼、隣国の騎士だね」


 ジルさんは余裕の態度で出されたお茶を飲んでいます。こっちは何も説明してもらえないから不安だっていうのに!


「あぁ……さっきの人ですか。そうですね、階級もかなり上位の方ではないですか?あの甲冑の色と模様はたぶん隣国の王子の直属騎士ですよ。……というか、ジルさんは隣国の方に顔を見られても大丈夫なんですか?」


 隣国のスパイなんでしょ?と視線で訴えますが、いつものにんまり顔を向けられました。


「甲冑見ただけでよくわかったね?というか、オレの心配してくれるんだ。お、照れてる?」


「誰がーーーー」


「まあまあ、そんな可愛い聖女様にはこれをあげよう。ほら「むぐっ?!」美味しい?」


 誰が照れるか!と思わず反論しようと開いた口に小さな飴玉を放り込まれそのまま飲み込んでしまいました。味なんかわかりませんよ!


 まったくこの人は、こんな時もふざけてばかりなんだから!箒で追いかけ回してやりたいくらいです!しませんけどね!


「それにしてもアミィ嬢は来ませんね……」


 一応警戒してお茶にも手をつけていなかったのですが、ジルさんは平然と飲んでますし緊張しすぎて喉が渇いてしまいました。さっきの飴玉が途中で引っ掛かってるような気もしますしね。

 少し冷めてしまったお茶をひと口含み。ホッと気が緩んでしまったその瞬間。


「飲んだ!飲んだわね!あはははは!!」


 狂ったように高笑いするアミィ嬢が音を立てて部屋に入ってきたのです。


「あなた、まさかこのお茶に……」


 立ち上がろうとしましたが、酷い立ち眩みに襲われその場に倒れてしまいました。


「……ジ、ル、さ……」


 咄嗟にジルさんに向かって手を伸ばしましたがその指先は何も掴むことはできなかったのです。


「……ロティーナ、ごめんね?」


 耳元に囁くようにジルさんの声が聞こえました。


 まさか。


 そんな想いが駆け巡り、私は動けなくなってしまったのでした。


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