第17話出陣です。

「こ、これはどうなってるんですか……?!」


 王女様のお茶会当日。私は鏡を見て驚愕しました。


 朝からメイドたちにもみくちゃにされ、肌はまるでつるつるゆでたまご。なんだかウエストが細くなっていて胸は大きくなっているじゃないですか。

 桃色の髪は結い上げられて銀細工と白薔薇で飾り付けられてしまいましたし、ジルさんからプレゼントだと渡されたドレスは上等なシルクに銀の糸でふんだんに豪華な刺繍が施されています。ちなみに肌触りは最高級です。


 いつもとは違うお化粧をされて、これまたジルさんから渡されたアクセサリー(大粒の上品な真珠)をつければ……まるで本当に聖女になったかのような私がそこにいました。


「まるで別人です……」


 この鏡の中の人物は本当に私なのでしょうか……?

 未だ信じられず、手を動かしたりくるりと回ってみたりして見ましたが鏡の中でも同じように動くのです。……やはり私でした。


「なかなか似合ってるね」


「ジルさん……これはなんなんですか」


「ん?聖女の正装的な感じ?」


 いや、そんな小首を傾げられても困ります。


「王女や公爵令嬢とのお茶会なんだからそれなりに牽制しとかないとね。異国が選んだ聖女を馬鹿にされちゃオレが困るわけ」


「まぁいいですけど……」


 偽の聖女なのに、こんなものまで用意するなんてすごいなぁ。と思います。


「おぉ!とても美しいぞ、ロティーナ!」


「まさに聖女様ね!あなたは自慢の娘だわ!」


「お嬢様、ご立派になられて……!」


 ほら、両親に加えて伯爵家の老執事まで感激して泣いていますから。ちなみにこの老執事は私が生まれる前から勤めてくれている古株でトーマスと言います。ひとつ語ると十までわかってくれるくらい優秀で、以前「エドガーにはしばらく会いたくないの」と言ったら理由も聞かずに「承知しました。あの男、お嬢様のお気に触る事をやらかしたんですね」とエドガーを門前払いしてくれたこともあるくらいです。両親に次ぐとても信頼できる私の味方でもあります。マナーにはとっても厳しいのですけどね。


 ジルさんが両親にした説明では、王家から出国の許可が貰え次第、私は異国に聖女としてお務めに行くことになっています。しかし一生異国にいるわけではなく数年程のことだそうです。異国の街や村を巡礼して教会で聖女の祈りを捧げて欲しい。とのことなのですが……。お父様なんか「ロティーナがお勤めを果たして帰還するまでこの父に任せておけ!」と私が戻ったら領主を安心して継げるようにしておく。と信じきってますよ。


 私、偽の聖女ですよね?異国に居場所なんかありませんよね?本当に出国することになったら数年もどこへ身を寄せればいいのでしょうか。ジルさん、いざとなったら住むところと仕事くらいはなんとかしてくれるでしょうね?


 少し不安になりジルさんに視線を向けますが、いつものにんまりした顔を見せるだけです。やはりこの人はよくわかりません。


「では聖女様。行きましょうか?」


 どうやらジルさんがエスコートしてくれるらしく、私の前に腕を出されました。


「はい、出陣ですね」


 とにかく今は、王女様とアミィ嬢とのお茶会に集中するしかないようです。


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