第18話きっと。(王女視点)

 この国の唯一の王女であるメルローズはとても機嫌が良かった。


「今日は本物の聖女に会えるんだわ!」


 今年で13歳になったメルローズだが、王妃である母を亡くし唯一の王家の血を継ぐ者としてとても甘やかされている。特に父王には愛する亡き妻に瓜二つの娘だからと目に入れても痛くない程に溺愛されていた。のだが……。メルローズ本人は違った。







 ***








 わたしはワガママだ。自覚はある。家庭教師には申し訳ないと思っているが……言葉にしたことはないので誰にも伝わってないだろう。


 マナーも教養も最低限しか学ばずひたすらワガママを言うだけのわたしだが、実は迷信や占い……果てはお伽噺や伝説などにかなり興味を持っている。王女の勉強として他国の事も学んだが1番興味が惹かれたのは異国の聖女伝説だった。


 異国は占星術が盛んで、王家の大切な事は占い師が決めると聞いた。王族でもなんでも無い占い師が国の運命を左右するとわかった時は感動と興奮で震え上がったものだ。


 自分のいるこの国はつまらない。わたしは常々そう思っていた。


 頭の堅い宰相たちは「王族の血筋は唯一無二の財産」と口を揃えて同じことばかり言う。王家の血がなんだと言うのか……。娘である自分から見ても父王の無能さはとんでもなかった。なんで王様になれたのか不思議なくらいだ。


 国王たるもの、国を守るために時には身内にすらも厳しくしなくてはいけない。わたしはそう考えていた。だからあの時、父を試したのだ。


 隣国の王子との縁談が持ち上がった時、わたしはわざと反発した。


 隣国はこの国の唯一の友好的な国で、この国よりも力を持っている。だから、国の利益を考えるならば父は自分を説得するだろうと思っていたのだ。王女としての自覚を持てと、諭してくるだろうと期待していたのだ。


 本音を言えば隣国の王子の婚約者になるのはそれほど嫌ではなかった。自分には兄弟はいないので隣国に嫁いだら王家を継ぐ者がいないと言われそうだが、それなら自分がたくさん子供を産んでそのうちの一人に継いでもらえばいいとまで考えていた。


 隣国との縁談がうまく纏まればこの国にも有益になる。まだ子供だと言われる年齢だが、皆が語って聞かせてくれる母ならきっと「王女として国を守るのよ」と言うだろうと思ったからこそ、そこまで考えたのだが……。


 反抗期。と言ってしまえばそれだけだ。だが、ひたすら自分のワガママを聞くだけの父に叱って欲しい。と思ってしまった。


 なぜ父は自分のワガママを全て聞くのか。なぜ諭して叱ってくれないのか。本当は自分を愛してないから、真剣に向き合う気が無いのではないかと不信感もあった。


 だから、隣国の王子との縁談を拒否した。父に「王女の自覚を持て」と叱って欲しい。ただそれだけだった。


 だが、父は何も言わずにその縁談を公爵令嬢に押し付けた。ただひたすらにわたしのワガママを聞き入れたのだ。


「わたしは、愛されてないのだわ……」


 わたしは絶望した。王女として認められてないのではとも思った。


 そしてその公爵令嬢が隣国の王子に断罪され修道院に送られてしまったと知った時、自分のせいだと思った。


 わたしがわざとワガママを言ったせいで、公爵令嬢であるレベッカが犠牲になったのだ。まさか隣国の王子が男爵令嬢と浮気して#あんなこと__断罪__#をするなんて考えもしなかったが、元を辿れば自分のせいだと思うと辛かった。


 父は隣国の王子のいいなりだ。そんな父の姿を見るのも情けなく感じる。だが、いくら王女とは言えまだ子供である自分に出来ることなどわずかなこともわかっていた。


 だか、わたしにも転機が訪れたのだ。


 異国の大使であると言うあの銀髪の男のおかげで希望の光が見えたと言っても過言ではない。


 聖女に会えればなにかが変わるかもしれない。そう思っていたのだ。


 まぁ、あの銀髪男に「聖女に会いたければ、お茶会を開いて現公爵令嬢を招待するのが条件だ」と言われた時は正直言えば嫌だったが。わたしは今の公爵令嬢……あの元男爵令嬢は嫌いだ。あいつは父とは違う意味で関わってはいけないヤバイ臭いがする気がするからだ。


 だが、聖女にはぜひとも会いたい。


 どうやらその聖女はこの国の伯爵令嬢で、桃色の髪をしているらしいが……。


 だからこそ、不気味だと言われる桃色の髪の持ち主が聖女に選ばれた理由を知りたかった。なんといってもわざわざ異国から大使がやって来てまで選んだ聖女だ。きっと特別な人に違いない。


 あの男は「会えばわかる」と言っていたし、とにかく早く会いたかったのだ。異国に行ってしまったらいつ会えるかわからないし、大使の条件を飲んでお茶会を開くことにした。


 公爵令嬢にはちゃんと聖女に失礼な事をしないように釘を刺したが大丈夫だろうか。と心配もあったが、この日きっと何かが変わる。そんな気もしていた。




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