第12話わかったわ。
「エドガー……突然なんなの?」
「うるさい!この俺がそうしろと言っているんだから言う通りにしろ!」
明らかに興奮して周りが見えていない様子のエドガー。もしかして酔ってるのかしら?
「だから、なぜ私があなたに慰謝料を払って泣いて謝らなければいけないのか聞いているのよ」
ハッキリ言って私がエドガーに謝らなければならないことなんて塵ひと粒分すらもないのだ。
「なんて生意気な……!お前は自分の立場をわかっているのか?!」
エドガーは、バン!と大きな音を立てて壁を叩き威嚇して来たかと思うと今度はニヤニヤと下衆な笑みを浮かべ出した。
「いいか?わからないのなら教えてやる!
お前のような薄気味悪い桃毛の女なんて俺が拾ってやらなきゃ誰にも相手にされないんだ。
それともどこかの大国だったか?よくわからん国から婚約を申し込まれて調子に乗っているんだろう?この、金に目が眩んだ尻軽の阿婆擦れめ!騙されているとなぜ気づかない?不気味な桃毛だからとからかわれてるんだよ!だってそのどこぞの国の大使とやらはこの国の王女に謁見を求めていたらしいからな!
だから今なら俺が拾ってやると言っているんだ!そうだな、慰謝料はこの伯爵家と領地で許してやるぞ!土下座して自分の過ちを認め謝れ、そうすれば愛人にくらいはしてやる!お前は俺を愛しているんだろう?!」
……この人はなにを言っているんだろう?まるで自分の言葉がすべて正論であるかのように振る舞うその姿は滑稽そのものでしかなかった。
それにしても、ジルさんが王女様に謁見ですって?今度は何を企んでいるのかしら。
「さっきから何を言っているのかさっぱりわからないわ」
「まだわからないのか?頭の悪い女だな!
いいか?お前のような勉強だけが取り柄の地味で根暗で気味の悪い桃毛の女を好きになってやったんだから、それだけで俺に感謝するべきだと言っているんだ!お前の良いところなんて、伯爵家のひとり娘であることだけなんだからな!」
「……私の事を好きって言ってくれたわよね?」
「あぁ、言ったさ!お前と結婚すれば伯爵家は俺の物だからな!だからお前がどんなにつまらない女でも気味悪い桃毛でも好きになってやったんだぞ!嬉しかっただろう?!」
偉そうにふんぞり返るエドガーを見ていると頭の奥がすぅっと冷えた気がした。もうわかってはいたけれどエドガーの“好き”は私の望んでいた“好き”とは全然違う。
まぁ、そうよね。確かに私は勉強ばっかりのつまらない女だし、気味が悪いと陰口を叩かれるような桃毛だわ。こんな女を本気で好きになる人なんかいないって、よく考えればわかるのに。
昔の私に言ってやりたいわ。「誰かに愛されるなんて期待してはいけない」って。
「なんだ?!泣けばいいと思っているのか!これだから浅はかな尻軽は嫌なんだ!」
エドガーに唾を吐きながらそう言われて、私の瞳が濡れていることに気づいた。
そうか私ったら、それなりにショックを受けていたのね。
初めて事実に気づいてからずっと冷静を保っていたつもりだったけれど、直接に彼の口からここまで言われてどうやら傷付いていたようだ。
騙されていただけの恋に恋した憐れな気持ちだったけれど、私にとってはある意味初恋だったのかもしれないわね。
「……そう。わかったわ」
「ようやくわかったか!これで今日から伯爵家は俺のも「あぁ、お前の考えはよくわかったぞ。エドガー」なっ……」
部屋の奥から姿を現したのは、エドガーの父親であるエルサーレ子爵と、その兄で次期子爵であるレルーク様だった。ふたりともエドガーを厳しい目で睨み付けている。
「ち、父上?!……兄上も!なぜここに?!」
突然の対面にあわてふためくエドガーを尻目にエルサーレ子爵が私に頭を下げる。
「この度は息子が申し訳ない……!なんと詫びたらよいか……」
「えっ、いえ、そんな……!頭をあげてください……、」
慌てているのは私も同じで、なぜこの場にこのふたりがいるのかわからなかった。
するとどこからともなくジルさんがひょこりと現れ、いつものにんまりとした腹黒い笑顔を見せてこう言ったのだ。
「それじゃ、断罪劇でも始めようか?」と。
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