第13話なんでだ?(エドガー視点)
突然現れた銀髪の男がむかつく笑みを浮かべながら「断罪劇」と口にした。
なんだこいつは?そしてなぜここに父上と兄上がいるんだ?!
ん?よく見たらこいつ灰色の目をしているじゃないか。確か灰眼は不吉な象徴だと言われているはずだ。ふん!こいつもロティーナと同じで劣等生物の仲間というわけか。
するとその灰眼の男はまだ鬱陶しくメソメソと泣いているロティーナの涙を指先で拭い出した。
「うちの大切な聖女様を泣かしたんだ、それなりの覚悟はあるんだろうね?」
はぁ?聖女?……まさかロティーナのことか?一体なんの冗談だ。そんなものお伽噺の中にしか存在しないだろう。だいたいもしいたとしても聖女は神聖な存在だろうに、この馬鹿な女が聖女のはずないじゃないか。
そこまで思考を巡らせて、俺は真実に気付いた。
なるほど、そういうことか。くっくっくっ、やはり俺は天才だ!
「そうか、わかったぞ!ロティーナ、お前は浮気をしていたんだな?!俺と言う婚約者がいながらなんたる不貞だ!
ほら父上、見てください!この女がどれほど愚かかわかったで「こんのクズがぁぁぁぁぁ!!」ぐふぉっ?!」
な、なんだ?!なぜ父上は激昂して俺を殴るんだ?!
「この!「がはっ!」最低の!「げほぉっ!!」ゲスがぁぁぁ!!「ぐぇぇぇぇ!!」お前のような者は、もう息子でも何でもない!勘当だ!いいや、それだけじゃ生温い!死んで詫びろ!!」
「父上、落ち着いてください。本当に死んでしまいますよ「しかしレルーク!」こんな簡単に死なせるよりもっと地獄を味あわせる方がいいのでは?」
い、痛い!痛いぞ?!父上にめちゃくちゃ殴られた!血が出てる!口の中が切れたんだ!しかも俺がこんなに目に遭っているのに兄上はまるで害虫でも見るかのような視線を向けてくるぞ?!
「まったくこの愚弟は……。あの愚かな女にそっくりだ。あれほど母親の差別思考を受け入れてはいけないと言い聞かせたのに……」
「あぁ、どうやら離縁して追い出してからもエドガーとこっそり会っていたようだな。しかしここまでそっくりになるとは……。レルークはまともに育ってくれたからと油断していたようだ」
なんだ、今度は母上の悪口まで言い出したじゃないか!せっかく俺が母上のアドバイス通りに伯爵家を乗っ取って父上たちにも楽をさせてやろうと思っていたのに、酷い裏切りだ!
あぁ、やはり俺の事をわかってくれるのはアミィだけだと改めて思う。アミィは俺の母上のこともちゃんとわかってくれたのに。
「エドガー、お前はロティーナ嬢と婚約するときにアレクサンドルト伯爵たちになんて言ったか覚えているのか?
“ロティーナが誰かに傷つけられても俺が守ります”と宣言したんだぞ!その言葉を信じて格下の子爵家次男との婚約を承諾して下さったんだ!しかもアレクサンドルト伯爵は子爵家に支援までしてくれていたのに……!
それなのにお前は、自分が次期伯爵だと触れ回り、伯爵領での横暴な振る舞いに強奪紛いのことまでして、さらに伯爵夫妻の大切なロティーナ嬢をこんな風に裏切るなんて……!」
「桃色の髪のせいで陰口を言われているロティーナ嬢に婚約を申し込んだと聞いた時は驚いたが、お前が差別等に惑わされずに成長してくれたと、父上はとても喜んでおられたのに……。お前は勉強だってそこそこでなんの取り柄も無い弟だったが、ここまでクズだとはな」
「な、なんで……だって俺は、惨めな女に優しくしてやったんですよ?!慈善事業みたいなもんです!俺は優秀ですごい男なんだから、この俺に好きになってもらえたんだからそれなりの報酬を払うべきでしょう?!」
だって、母上もアミィもそう言っていた!俺はいい男だから、それくらい当然だって!
母上は俺のしたことをいつも誉めてくれるし、アミィは頑張ってる俺にご褒美をくれるんだ!だから俺はアミィに感謝と愛を示して贈り物をする。ならばその贈り物の金はロティーナが出すべきだ。当たり前だろう?
「もうお前の言葉など聞きたくはないが……伯爵領から強奪した金品はどこへやった?まさかどこかで遊ぶ金に換金したのではないだろうな」
「それはアーーーーむぐっ?!」
アミィの事を話せば兄上たちもすぐにアミィの正しさに気づくだろうと思い直し口を開いた。だが次の瞬間、俺の口には丸めた布が押し込められてしまう。
「むぐぐ?!」
「はーい、おしゃべりはそこまでにしようか」
くそぉ!あの灰眼かぁ!おい!いつの間にか俺の体がロープでぐるぐる巻きにされているぞ?!これじゃ口の布が取れない!なんとか吐き出さねば……おぉい!布の上からさらに猿轡だとぉ?!吐き出すどころか喉の奥に入って息がしずらいじゃないか!おぇぇぇっ!
「ロティーナ!」
「お母様……っ」
今度はいつの間にかアレクサンドルト伯爵夫妻が増えていた。なぜだ?今は王城に行っていて不在のはずだったのに!
くそぉっ!アレクサンドルト伯爵が俺をすごく睨んでるじゃないか!?お前らが甘やかして育てた何の役にも立たない女と結婚してやろうと言う希少な俺を睨むなんて、やはりあの女の親と言うことか!碌でもないな!
「……エルサーレ子爵、今さらだがこの婚約はこちらから破棄させてもらう。異論は?」
「もちろんありません!この馬鹿が奪った金品や無銭飲食代も全て弁償致します!慰謝料もそちらの望むままにお支払い致しますので……!」
おい、父上!そんな女の父親に土下座などするなんてみっともない!そんなだから母上に愛想を尽かされるんだぞ!
「いや、婚約破棄さえ同意してくれればいい。弁償もいらん。ただ今後、娘の前にその男が姿を現すことは許さない。この領地にも足を踏み入れさせるな。
……もし、娘が本当に聖女としてお務めすることになれば婚約を白紙に戻してもらい謝罪せねばと思っていたが……申し訳無いがもう子爵家を支援することは出来ない。我が家とは縁を切ってくれ」
「本当に申し訳ございません!!」
おい!だからなぜ謝るんだ?!兄上まで頭を下げるな!
「この愚弟は子爵家と縁を切らせます。だが平民に落とすだけではまた他人に迷惑をかけるでしょうから、奴隷として鉱山で働かせましょう。生と死のギリギリの狭間で生かし続かせます」
「……では、そちらの処遇は任せる。もう二度と会うことは無いだろうが」
「はい。伯爵の御慈悲に感謝致します」
なっ……!奴隷?!俺が奴隷として働くだと?!何を言っているんだ!俺は伯爵になり、アミィを影から支える愛の騎士として母上から誉めていただくんだ……!
「むがぁーっ!むがぁーっ!」
しかし俺がどんなに体をくねらせ訴えても、父上と兄上は黙って俺を引きずり歩くだけだった。
……あれ?またあの灰眼の男が近づいて兄上に何かを渡している?え?「この薬を飲ませれば喉が潰れて一生声が出せなくなるから、口の布を取ったと同時に飲ませて。この男の耳障りな声が消えないなら……異国は聖女を傷つけた男を子爵領ごと消してしまうかもしれない」って……?
青ざめた顔で頷く兄上は、黙ったままその薬を受け取った。
こうして俺の輝かしい人生は終わってしまったのだ。
なんで、こうなってしまったんだ?俺にはまったくわからなかった。
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