第10話えっ……。

さて、胡散臭さ倍増のジルさんが我が家にやって来た理由ですが……。


それは「異国の王家が桃色の髪の少女を探している」と言うことでした。


なんでも異国は国の未来を占星術で決めるならわしがあるとかで、最も信頼ある占星術師が「神聖なる奇跡の桃色の髪の少女を“聖女”として国に迎え入れれば異国はさらに栄える」と宣言したそうなのです。


えー……それ絶対嘘ですよね?この桃色の髪を「気味の悪い」と囁かれても「神聖な」なんて言われた事などありませんもの。そんなデマカセ信じる人などいませんよ。


両親だってそんなの信じるわけな「なんてことだ!ロティーナが聖女だったなんて!」「あぁ!やっぱり、この子が桃色の髪に生まれたのはちゃんと意味があったんだわ!ロティーナを馬鹿にしたやつらざまぁみろね!」……うん、信じちゃってますね。そしてすごい喜んでます。

両親なりに、私の髪色の事を気に病んでいたのでしょうか。それが他国では必要とされてると知って嬉しいようですね。


しかしさすがにふたつ返事で了承することはなく、「国を出るのなら領地のこともあるし、異国のような大国が関わるのならば自国の王家に確認を取らねばならないから」としばらく話し合いをすることになりました。


「もちろんです。ぜひ良いお返事をお待ちしております」


にっこりと笑顔を向けるジルさん。あのにんまり(悪どい)顔を知っているからか、いかにも爽やかなこの微笑みが胡散臭過ぎて寒気がしそうです。絶対この人、腹黒いですよ!


しかし、“聖女”ねぇ。どこでそんな設定拾ってきたのでしょうか?そんなの、いまやお伽噺の中にしか存在しないと思うのですが。


そんなわけで両親が王家に異国からの使者の事を報告に行く間、ジルさん御一行は我が家に滞在することになったのです。こっそりとこの事態の説明を求めたりしましたが「もう少ししたらわかるよ」などと言ってはぐらかすし、ジルさん以外の御一行の片方は私を「聖女様」と拝んでくるし……この人たち本当に本物の異国の方たちなのでしょうか?せめて本物か偽物かだけでも教えてくれないと対応に困ります……!


そして、ジルさんのせいで私に他国から婚約話が出ているという根も葉もない噂があっという間に領地に広がってしまったのです。


いや、“聖女”ですから!嫁じゃないですから!って言うか、自分から「私は聖女です」なんて言うのも変なので弁解も出来ないまま噂は広がっていきました。まぁ、エドガーに誤解されたとしてもどうでもいい気がしてきたのも事実です。


どうやらエドガーの父親……エルサーレ子爵の耳にも噂は届いたらしく、私には内緒で両家の話し合いもしているようなのです。エルサーレ子爵は普通に好い人なのですが、なんでその息子があんなのになってしまったのかはいまだに謎ですね。


そしてジルさんと言えば、どこへ行っているのか時折姿を消してしまいます。戻ってきても「いいから、いいから」と誤魔化すばかりでモヤモヤしながら数日が過ぎたある日……。



奴がやって来ました。



「さぁ、ロティーナ!俺に婚約破棄されたくなかったら慰謝料を払って泣いて謝れ!!今ならまだ許してやるぞ!」


ガハガハと下品な笑いを響かせ、どや顔で堂々と我が家に乗り込んできたエドガーの姿に驚きつつ思わず心の中で呟いてしまいました。


えっ……馬鹿なの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る