第9話 くそっ!(エドガー視点)

 その日、こんな話を聞いた。


“伯爵家に見たことのない格好をした他国の貴族らしい集団が入っていった”


“どうやら海を越えた先にある、すごい大国の使者らしい”


“もしかしたら結婚の申し込みでは?”


“伯爵家のロティーナ様には婚約者がいるが、他国の王子が関わればどうとでもなるんじゃないか?”


“……あぁ、隣国だってそうだったもんな。あの事件だって、酷い結末だった”


“どうせこの国の王は他国の王族と争わないためなら、するのだろうさ”


“つまり、ロティーナ様の今の婚約者は捨てられて終わりだな”








 ……どういうことだ?まさか、俺が捨てられる?


 伯爵家に謎の集団が出入りしてたった1日で、街中にそんな噂が飛び交っていたのだ。


 今までこの伯爵領で俺が何をしようと誰も咎めたりはしなかったのに、今は俺が通るたびにヒソヒソと何かを囁かれている。


 だいたい隣国との事件って、アミィを虐めた元公爵令嬢が修道院に送られたことだろう?あの素晴らしいアミィを虐めたのだから当然の報いだろうに。令嬢同士の虐めで、婚約破棄や修道院はやりすぎだって?馬鹿言うな!あの女のせいでアミィの心は深く傷ついたんだから、それくらい当たり前じゃないか!

 それにあの女は隣国の王子の婚約者でありながら、複数の男に声をかけていたと言うじゃないか。そんな阿婆擦れなど修道院でも生ぬるいくらいだ。何も知らずに好き勝手言いやがって本当に腹が立つ!


 やはり平民どもにはアミィの素晴らしさはわからないのか。


 彼女はまさに天使……いや、女神だ。


 しかし、真相を確かめねばなるまい。もし噂が本当だったら一大事だ。ロティーナは俺にぞっこんに惚れ込んでいるはずだが、なんせ花1輪すらもすぐに捨てないケチ女だからな。どこぞの王子なんかに結婚を申し込まれたら金に目が眩んでしまうかもしれない。

 まったく、こんな噂が出回る事自体由々しき問題だろう!あいつはこの俺と婚約している自覚はあるのか?!これだから気味悪い桃毛は信用出来ないんだ!


 このまま伯爵になり伯爵領を手に入れ、これからもアミィに俺の永遠の愛を示すための贈り物をし続ける計画が駄目になってしまうじゃないか!


 こうなったら、人の婚約者に横恋慕しようとしている奴に抗議して慰謝料をふんだくってやろう。婚約者のいる人間にそんな噂を立たすだけでもとんだ不名誉だと言うことを教えてやるぞ!!そしてロティーナにも制裁を加えてやるんだ!俺と言う婚約者がいながら他の男につけ入れられるなどとんだ尻軽だとな!


「あ。見て、また来てるよあの人……」


「今まで大きい顔をしてたけど、噂が本当なら……」


「くそっ……!」


 また俺の姿を見て領民がヒソヒソと話を始める。いつもならどこかの店でアミィにプレゼントする物を物色するのだが、あまりの居心地の悪さに俺はその場を逃げ出すように立ち去るしかなかった。

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