第7話 どうすれば……。
「このポテト辛すぎない?口がヒリヒリするんだけど」
「そうですか?」
ちなみに辛さ3倍です。私がもし口にしたら確実に火を吹く自信がある辛さなのに、美味しそうにパクパク食べてやがります。なんだか負けた気分です。
「それで?わざわざこんなところまでくるなんて何かご用ですか?」
あくまでもバーテンダーとして仕事をしながら世間話をしている風を装います。こんな時にわざと小声になったりソワソワしたりする人がいますがそれでは人に聞かれては困る。と言っているようなものです。堂々としていればこんな騒がしい酒場では誰も気にしません。
「用事と言えば用事かな。……ねぇ、ロイくんのままでこの後付き合ってくれない?」
「そう言ったサービスはお断りしております」
つんとした態度でそう返すと銀髪男は再びにんまりと笑い「まぁまぁ、そう言わずに。……ロイくんの#大切な友達__・・・・・__#にも関わる事だって言ったらサービスしてくれる?」と灰色の目を光らせました。
私の大切な友達……それは修道院に送られてしまったレベッカ様のことを言っているのでしょう。やはりスパイなだけあって私の事など全て調べあげているようですね。
「……わかりました」
私が渋々頷けば、にんまりした顔をさらに笑顔にし「やったね」と笑います。
なんだか知りませんが、この敗北感はなんなんでしょうか。私……この人苦手です!
***
説明の難しい敗北感を感じながら仕事を終え、帰宅用の馬車を断り外へ出ると銀髪男がひらひらと手を振ってきました。
「こっちだよ」
「お待たせしました」
見た目はロイのままですがさすがにバーテンダーの制服をそのまま着てくるわけにもいかず、従業員の誰かが忘れていった私服を借りることにしました。今の私はどうみても庶民の男の子です。
帰りの馬車を断ったのは初めてなのでかなり心配されましたが、ロイ(男の子)の格好で帰るからとか、たまには夜の領地を歩いてみたいからとか、説得が大変でした。まぁ、ついこの間エドガーの騒動があったからなおさらでしょう。
「あまり遅くなると心配されるので、手短にお願いします。……レベッカ様に関わる事とはなんですか?」
「まぁまぁ、そんなに焦るなよ。まずは自己紹介させてくれ。オレはジルって言うんだ」
「偽名でしょ?」
「よくおわかりで」
いや、だってスパイなんでしょ?さすがに私もスパイなんてやってる人が簡単に本名を明かすなんて思ってませんよ。スパイについても本で勉強しましたからね!
「そうだなぁ、簡単に言うと……君の婚約者との婚約破棄はちょっと待った方がいいよ。って忠告しに来たんだよ」
「……なぜ?」
エドガーの浮気の証拠をつかみ、私は婚約破棄するために書類などの準備を進めていました。さすがに何の理由もなく婚約破棄はできませんからね。あと少しでエドガーがアミィ嬢と今も浮気していると突き止められそうなのになぜ止めるのでしょうか。
「#今__・__#、それをすると公爵家に飛び火が行くぞ?実の娘が罪を犯して修道院に送られたのに、罪滅ぼしに養女にした新しい娘が隣国の王子を裏切って浮気してたなんて公表したらどうなるかわからないのか?」
「……!」
そこまで言われて、私は自分の考えを後悔しました。確かにその通りだからです。
私がエドガーとアミィ嬢の浮気を告発すれば書類上とは言えアミィ嬢の養子先の公爵家が咎められるのはわかりきったことなのに……。
「わ、私……」
私は、今も修道院に送られてしまったレベッカ様を大切に思い王族からの圧力に負けじと戦っている公爵家のおじさまとおばさまに追い討ちを掛けようとしていたのです。
このままでは、さらにレベッカ様を悲しませる結末になるところでした。
「では、どうすればいいのでしょうか……」
私はもうエドガーとは婚約破棄したいと思っています。このまま結婚するなんて耐えられませんし、領地にとっても良いことは無いでしょう。
ですが、わたしが婚約破棄を実行するとレベッカ様を悲しませるかもしれない……。それも耐えられません。レベッカ様もレベッカ様のご両親も、私にとっては大切な方なのです。
愕然とする私に銀髪男こと、ジルさんはとある提案をしてきました。
「オレと手を組めば、なんとかなるかもしれないよ?」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます