第163話:国の終わりの始まり
親衛隊の右の方からクリスティアンが奇襲をかける。
瞬間的に起きたため、親衛隊は慌てて右に振り向き銃を構え、照準を合わせずに発射してしまう。
画期的な武器とはいえ、それでは命中精度は下がる。
さらにクリスティアンは大鉈を体の前で盾のようにガードして、かすることすらなかった。
その銃は予想通り二発目の装填を考えていない作りだった。親衛隊は銃刀で抵抗を試みるも、その前にクリスティアンが大鉈を振り、5人まとめて壁に叩きつけた。
残り5人。俺たちから見て右側に展開する彼らは、銃を振ったつもりだったが、それは不発に終わった。
なぜなら、彼らが振ったと思った腕と銃は床に落ちていた。
ミヒャエルが素早く行動し、1射目の後に本人たちも築かない間に切り落としていた。その速さは、体を弄られたことがあるからなのか、バーサーカーの能力を出したのか不明だが、クリスティアンと打ち合わせもしていないのに、躊躇ない行動だった。そこは元弟分の阿吽の呼吸なのだろうか。窮地になった時こそ、経験の真価が発揮されるのか。
とにかく、親衛隊はまったく歯が立たなかった。
俺たちにとって、想像以上だった。そして、ユングフラウにすると予想外のことだっただろう。吹き飛ばされた親衛隊と、壁に挟まれて起き上がれない。
「なんで……」
目は虚ろで呼吸が荒い。打ち付けられたことで、肺にダメージを負っているようだ。その姿をみてクリスティアンは「ダメだな」と首を振る。
しかし、何でと言われても、親衛隊よりクリスティアンとミヒャエルが強かったということではあるが、優しいクリスティアンは回答してあげた。
「銃を知っているのが、他にもいると考えなかった時点で、戦略、戦術共にお前は負けてたんだよ」
その言葉に、ユングフラウは愕然とした。
「こんな……簡単に、最後とは……」
血液は肺に貯まって言っているのか、苦しそうに恨めしさが止まらない。
「また…………転……生して、2度、3度……忘れな――」
悪党は最期まで語ろうとする。呼吸など死を確定した。いともあっさりと亡くなってしまったところが気持ちが悪い。本当に再び現れてくるのではないかと恐怖を感じる。
腕を切られた5人は死亡。壁に叩きつけれた中で生き残ったのは1人。ここまで続く通路には屍の山。せめて、女の子たちを無事に生きて連れて帰らないと、割に合わない。
*
俺たちはさらに奥にあった部屋をいくつも開けては確認を繰り返した。
ダニエマの娘も、攫われた女の子たちも全員生きていた。生きていたが、俺たちが入っても、しばらく現実を受け止められなかった、どうやって性的欲求を感じるのか、わからないくらい骨と皮、表情には希望なんてものは無く、辛うじて人として保てているのは、頭、腕、体、足があるというところ。女性と言われてもすぐにわからない状態だった。
「酷いね……」
俺が言ったものの、誰もそれ以上返せなかった。言葉を選んでも正解は導き出せそうになかった。
ただ、淡々と奪った船に連れて行くだけだった。
「エルフリーデ、彼女たちを戻すに、何年かかるかわからないけど、何とかしてあげないとね」
社会復帰させることができるのかどうかわからない。だけど、誰かがやらなければならないし、それは俺がやりたいと思った。
「うん……」
エルフリーデも同じ気持ちかどうかわからないが、今は頷いてくれた。
「私も、許してもらうつもりは無いけど、できれば」
ダニエマは協力すると言ってきた。ただ、できれば彼女たちの見えないところ、資金や商品や薬などということだった。
協力者が一人でもいるならありがたいことなので、断ることは無かった。
もちろんリリアンヌも街のことを考えるので、協力は惜しまないということだった。
*
一番奥の部屋にたどり着いたとき、ベッドの上に王とみられる人物の亡骸があった。それも干からびたような状態で。
薬が散乱していたところを見ると、ユングフラウが王を利用するために何かの中毒にさせていたのだろうか。だけど、俺たちはそんな国のことまでは興味が無い。
この王には、あとは静かに眠ってほしいと願うだけだった。
また倉庫のような部屋の足元にはいくつもの人物画があった。それらはみな女の子の肖像画ではあるが、生気を感じられない、異様でおぞましいものだった。
いかにユングフラウの歪んだ性癖だったのか、それで理解できた気がする。絵を描かせていたから行かせていたのだろうか。これは残しておいても誰も得が無いので、暖炉にまとめて放り投げ、火を放った。
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