第161話:前進あるのみ
潜入したけど、一国の宰相に見逃してもらった。俺たちは無事に帰国した……って、これでいいわけない。そもそもの目的は、連れていかれた女の子たちと、ダニエマの娘の救出。これが達成されなければ来た意味が無い。
「ここで行かないと……」
護衛の警備兵と距離を取りつつ、小声でリリアンヌは改めて、俺たちがやらなければならない意思を確認する。
「そうだな」
アンシャンヌの女の子が消えたことは、正直言って俺やエルフリーデには関係が無いことだった。原因はわかったので、危険を冒さずあとは無視しておいても良かった。お酒の流通よりも命が大事だ。
ただ、乗り掛かった舟ということで来ることになったものの、オーズィアの宰相・ユングフラウが、過去の戦争の元凶となってるとわかったので、俺たちも無視することができなかった。
「目的の一つに、ユングフラウに問いただす、というのも新たに加えたいんだけど」
上手く行くとは思えないが、提案した。エルフリーデも頷いている。家のことを考えると俺よりも気に入らないのだろう。
「そうね……」
リリアンヌは理解している。彼女の従者であるミヒャエルたちも同意している。彼らも先の戦争の被害者だ。のうのうと生きている元凶に思うところもあるのだろう。
だが、クリスティアンは素直に同意しなかった。
「まずは当初の目的を達成することだ。ただでさえやることが多いのに、気が散ってしまう。それによってユングフラウの行動も見えてくるだろうから、それから考えよう」
「それもそうかもしれないな。俺たちの半分は戦闘慣れしていない。ひとまずは初志貫徹で行こう」
俺は自分の提案を、一旦ひっこめることにした。
「しかしさて、どうしたら良いんだろうか」
細長い通路、ユングフラウが奥に行ったということは、先へ進むのが正解だろう。しかし、警備兵の壁が分厚くなっている。
「俺にアイデアがある」
クリスティアンは突破の考えについて俺たちに耳打ちした。
「行けるのか?」
「行けるいけないじゃなく、行くんだよ」
クリスティアンは力強く言うが、彼の大鉈はこの狭い範囲では振り下ろせないので不利である。心配と伝えると「大丈夫だ」と返ってくる。
「ミヒャエル、エルフリーデ。俺の後ろについてこい」
2人は頷き、クリスティアンの後ろに陣取る。俺とダニエマを挟み、後衛にリリアンヌと2人の護衛が後方からの攻撃に備える陣形になった。
俺たちが構え始めたので、警備兵も準備を整える。完全に真っ向勝負である。クリスティアンの作戦に乗るしか取る道は無かったので、覚悟を決めた。
「突破する!」
クリスティアンは大鉈を前方方向へ向けて、突進した。
無謀のようだが勝ち目があった。狭い通路、相手側は人数が多くても前面に兵を並べるのはせいぜい4人。しかも、4人並べると剣を振ることができず、突くだけである。天井があるので上に隠れて狙うことはできない。そこにクリスティアンの大鉈が向かってくると、リーチの差で大鉈に届かない。
「まだまだ! 前進!」
クリスティアンの檄で士気が上がる。2番手に位置するミヒャエルとエルフリーデが、脇に逸れた警備兵が狙っているのがわかると仕留めている。
警備兵は下手に詰めすぎたため攻撃も退却もできず、ただ、大鉈の犠牲になっていくだけだ。死屍累々とはこのことだ。俺たちは真ん中にできた“道”を突き進んでいく。
警備兵の壁は15ほどで無くなった。時間にして5分にも満たない。クリスティアンの馬鹿力には恐れ入る。まさかこの少人数がパワープレイで押してくると想像してなかったのだろう、通路から先に押し出された者も何人かいて、慌てふためいている。
「ふぅ……先へ行くか?」
大きく深呼吸しただけで、もう息が整っている。クリスティアンのスタミナは化け物なのか……いや、本当に俺とエルフリーデの子供なのか? どういう遺伝子でこうなったのか。
「行きましょう」
エルフリーデもそれほど息が乱れていない。ダニエマも修羅場をくぐってきたのだろう、覚悟を決めたのか落ち着いている。後方のリリアンヌたちも大丈夫。何もしていない俺だけが疲れている。もっと体力を付けないと。
辛うじて逃げ出した警備兵が逃げいてる方向がユングフラウのいる場所だろう。
「……行こう」
何とか息を整えて、俺もみんなに同意した。
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