第157話:オーズィア

 水源があるオーズィア。それを止めることで干上がる国の筆頭がオイレンブルク。その次にヌーヴェルバスク共和国。次にビンデバルト。という順はあるが、基本的にどの国も困る。


 三つ巴で争うことにより、それらがもめることで利益を得られるのがオーズィア。だが、ヌーヴェルバスクが自らの水源を得たことで目論見が外れたということか。


「これ、私たちも関係あることだったね」


「あぁ、そうだな」


 と言いつつ、俺は転生してからこの世界にいるので直接ではないが、もうここで暮らすしかないと考えているので、無関係ではない。


 エルフリーデの家が大変だったのは前の戦争だし、親子で争うことになってしまったわけだし、親殺しの汚名を今の国王は背負ってしまうことになっているし

もちろんビンデバルトのカミッロもそうだし、クリスティアンやミヒャエルのような傭兵が生まれて、不幸になってしまったものが大半である。


 そのきっかけを作ったのがユングフラウという一人の人物だったということか。


「だけど、女の子たちを連れてこいって言うのはオーズィアの国からってことだったよね?」


 ユングフラウからではなく国からということに引っかかった。


「えぇ、私が聞いているのは、今の国王が好色ということで、それを揃えさせているとか。それと跡継ぎがいないということで、どうしても必要だという話も聞いて……」


 ダニエマは答えてくれている途中、言葉が詰まり、涙ながら「ごめん」と、それ以上悲惨な話を続けて言えなかった。


 ここまで聞いていて思ったのだが、早く助けに行かないと間に合わない可能性もあるのではないかと。


「なぁリリアンヌ――」


 俺はリリアンヌと周りにわかるように思っていたことを伝えた。ダニエマからの話は本当かもしれない。そうだとすると、ユングフラウという者が何をするかわからない気がする。王への捧げものとして相性が悪ければ、最悪は口封じで殺されてしまうのではないか。詳細は道すがら聞けば良いのではないかと。


「タナカの言う通りかもしれない。船に乗って、オーズィアに侵入するのが良いのかもな」


 ダニエマの方を見ると、顔をそらす。俺たちを連れて入国をすると、自分の身も危険にさらすし、娘のことも心配なのだろう。


「護衛を付けるから心配しなくても良いと思うけど」


 リリアンヌは言うが、ダニエマは気が気じゃない。


「今話をしたことさえどうなるかわからないし、部外者のあなたたちを連れて行くなんて、殺されに行くようなものよ」


 思った通りである。でも手段は無くは無い。


「提案なんだけど、ダニエマが連れていく予定だった積み荷……つまり女の子の代わりに、隠れて行くのはどうなんだろう?」


 そもそもが隠れてこの国を出て、川を上りオーズィアへ向かっていた。このヌーヴェルバスクを出るときにバレなかったということは、隠せていたということだろうし。


「それは良いアイデアだな」


 リリアンヌは同意してくれる。ダニエマは危険なのはわかっているが、娘を取り戻せる可能性があるとリリアンヌからの説明もあり、俺のアイデアに乗ってくれた。


「じゃあ、すぐにでも準備に取り掛からないとな」


 リリアンヌは護衛の中から細くて身軽そうなのを選ぶように指示を出した。ミヒャエルも細身なので選ばれている。そして俺を見て頷いている。


 と俺もそれに合わせて頷いてみたのだが、なぜか俺たちも同行することになっているのだけど……エルフリーデとクリスティアンを見ると、すでに行くつもりのようだ。荷造りをしている。


「あ、いや」


 と断れるような状況ではなくなっている。行きたくない理由、それは――


「――クリスティアン、俺は行っても大丈夫なのか?」


 この士気を下げないよう小声で聞いた。そう、俺は、クリスティアンのいた別の未来では、このオーズィアへ行くことで死ぬことになってる。


「俺の知っている未来とは違っているから、わからないとしか言いようがない」


 たしかに、死んでいる時間軸では、川を上るダニエマを追ってオーズィアへ向かったところ、待ち構えていた武装集団、おそらくユングフラウの手の者にアッサリ殺されてしまう、ということだった。


 まだまだ不安そうな俺を見て、クリスティアンは方を叩く。


「護衛が居るし、作戦っぽいので、大丈夫だ。多分。おそらく」


 何が大丈夫なのかわからない。個が国に対抗しようとしているというのに。とても不安であるが、出発の準備が間もなく整うみたいだった。

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