第158話:この時間軸では
ダニエマの船に乗り込めたのは、ダニエマ含めて8人。リリアンヌ、ミヒャエルとあと2人の護衛。俺、エルフリーデ、クリスティアン。
編成的におかしい気がする。船で進みながら、もっと戦える人を揃えたら良いのにと思っているた。
「私は決着したいから。ミヒャエルとたちは私とダニエマの護衛。あなたの護衛はエルフリーデ。その護衛がクリスティアン。だから仕方なくない?」
というのはリリアンヌである。そうなんだけど……俺、いる?
「私は許せないの。だから行くってなると、タナカも付いてくるよね? タナカが行くとなると私は付いて行くし、クリスティアンも来るわけだよね」
というのはエルフリーデ。これは言ってる意味が良くわからない。そもそも行かなければ良いんじゃないかな? そこまで首を突っ込むというのもどうなんだろうか。
「ここまでやらないとお酒について扱えないとなると?」
リリアンヌの問いはズルい。そこまでして……お酒は好きだけど。それで前の世界では失敗したんだけど。
「まぁ、行くよね……ちゃんと帰れたら、取り扱わせてくれるんだよね?」
念のため、改めてみんなの前で確認しておかないと怖い。
「もちろん。ジャネットの件、他の女の子の件、それと、ダニエマの娘さんの件が解決したらね」
なんか条件が増えている……。でも乗り掛かった舟なので今更降りれない。ビビりながら行けば、死ぬことは無いと思いたい。
*
ダニエマの操船も手慣れたものである。上流だから逆らっていくものかと思っていたら、満ち引きみたいなものがあるらしい。日と時間によって、一人でも漕いでいけるとのこと。細身だが筋肉質だったのは、船で鍛えたものだったのかもしれない。
漕ぎながら独り言のようにダニエマは答えていた。連れていかれた女の子たちはどうなっているのか。やはり生死までは把握できていないということだった。しかし、現地で手引きしている夫の話によると、死んではいない、という言い回しだったそうだ。
「死んではいない……嫌な表現だな」
ユングフラウが問題か、王が問題かわからないが、異常な様子は想像できる。
夫とはいえ、元夫になっていなことを考えると、まだダニエマとの間に何かしらあるのだろうか。夫婦というのはよくわからない。
ダニエマが連れて行ったのは20人足らず。彼女たちを見つけ出したとしても、連れ出す船を確保しなくてはならない。1時間もすると上流から下流へ潮目が変わるので、下ろうとする船はいつも通りならいくつかあるらしい。国交をその川沿いに持っていないオーズィアなので、おそらく、その船たちも表立っての取引ではないと思われる。うまく奪取できるのか、そこは出たとこ勝負のようだ。ただ、乗せてしまえば下っていくのは難しくない。
やらなければならないことが山盛りのような気がする。
・ダニエマの夫に女の子たちの場所を聞く。
・連れ出す。
・ダニエマの娘を探す。
・船を奪う。
最低限、このあたりだろう。麻袋越しにみんなで小声で相談して、方針を固めた。
「でも、もし捕まって――」
捕まったらどうしたらよいのか。誰か犠牲にしてまでとにかく逃げるのか。リリアンヌたちに聞かれてはダメなので詳細は言えないが、別の時間軸では武装集団がいたので心配だ。と伝えたかったのだが、ダニエマが船底を蹴る合図があった。関所なので声を出すなということだった。
割符のようなものを提示し、関所は通過できている。ここからは完全にオーズィアの領土に入る。これはダニエマがいなかったらと考えると、恐ろしい。だから俺は別の時間軸では死んでいたのだろう。この時の話をクリスティアンにしてくれていたリナに感謝したい。
……あれ? そういえば、舟には乗っていないけど、エルフリーデの護衛の任務があるはずなんだが、リナはいるのか? 周りを見渡してもそのような様子はない。
コンコンッ
「……」
船底を叩いてみたが、反応は無い。
「どうしたんだい?」
麻袋越しにリリアンヌが不思議そうに俺を見るが、適当に誤魔化した。忍者が付いてきていることは知られてはいけない。たぶんいるはずなので。
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