第153話:ダニエマ確保
タイムパラドックスや転生者などの話をしてもややこしくなるだけなので、リリアンヌには「生い立ちを説明してたらこうなった」と、嘘ではないがザックリ説明した。
かなり引っかかってはいたみたいだが、今はそれどころではなかったでの、それ以上聞かれなかった。
「ダニエマを捕まえた」
リリアンヌが発したのは、俺たちが待っていたものだった。が、逆にやはり近くにいたということに恐怖し、緊張が走った。
「それで、いまどこに?」
「下で押さえてるよ」
窓の外を指すので見たところ、屈強な男二人が女一人を押さえつけている。まず逃げられそうになく、抵抗すらやめている。
「見に行くかい?」
「もちろん」
俺が返事をすると、エルフリーデも頷いている。すでにエルフリーデから離れていたクリスティアンも頷く。
部屋を出て、階段を降りているところでクリスティアンが耳元で言ってきたのは、「この状況は俺も知らない」いうことだった。
つまり、彼の知っている未来とは変わっているということだ。何かどこかのボタンの掛け違えが、ダニエマが捕まっているということだ。
「もしかしたら俺がヤられることも変わったのか?」
そう言い返してみたが、クリスティアンは「わからない」と首を振る。
どういうルートを通ってもバッドエンドになる、そういうフラグがこれ以前に立っていたのならば、俺はもうどうあがいても仕方がないかもしれない。
「大丈夫だ」
クリスティアンは俺の方を叩いて安心させる。自分は消えてしまうかもしれないというのに、俺の心配をまだしている。
「大丈夫、私もいるから」
同じく状況を知ってしまったエルフリーデも、俺に笑顔を見せる。頼りになるけど、彼女と息子らしい人物に守られるって……ありがたいけど、情けない気持ちもある。
宿のドアを開けると、押さえつけられているダニエマがこちらを睨んでみている。エルフリーデも頷いているので、間違いなくこの人物が今回の騒動の主だ。
聞きたいことはいくつかあるが、何から言ったら良いんだろうか。そう悩んでいると、リリアンヌが詰め寄って凄んだ。
「アンタ、自分が何をしたかわかってるんだよね?」
ダニエマを押さえている男たちは、リリアンヌの一言で軽く腕を引きちぎってしまえそうな雰囲気がある。だが、悪党ならそんなことに臆さない。そう思っていた。
詰め寄ったリリアンヌに睨み返すわけでもなく、うつむき、ため息を漏らすダニエマ。
「わかってるわよ」
観念したというよりも、最悪のことを覚悟していたのか、素直にあきらめたようにも見える。しかしその態度が気に入らなかったのか、リリアンヌは胸ぐらをつかんだ。
「余裕ぶってんじゃないわよ!」
人身売買をしていた、と思われるわけで、このダニエマ一人が裁かれて終わる問題ではない。かってに死を覚悟されてもなにも解決されない。それにリリアンヌは腹を立てたのだろう。
ただ表で騒ぎを起こしていることで人が集まってきている。その状況は俺たちにとっても好ましくない。あまり注目されるのも嬉しくない。
宿から出てきたミヒャエルが「中を使う了解を取ってきた」と言ったので、俺たちは食堂を使わせてもらうことにした。
*
ダニエマは椅子に縛られ、さらに後ろにはマッチョが二人立って肩を押さえつけている。ほぼ逃げられないだろう。逃げられたとしても、出口にもマッチョとミヒャエルが立っている。
これから詰問、なのだが、一つ違和感を感じている。さっきから思っていたのだが、顔は間違いなく、逃走時に見たダニエマである。ただ、体……恰幅は良くない。どっしりとした姿を見ていたのだが、今目の前にいるのはどちらかというと華奢である。だから自信がなく、さっきはエルフリーデの同意を求めた。
クリスティアンに「細くない?」と聞くと、「だよな」と不思議そうにしている。こんな数日で瞬間的にダイエットできると思えない。
「なぁリリアンヌ。あまり女性に言うべきか悩むところだが――」
それを察したのか、リリアンヌは「確認しよう」と手を上げて制止した。女性の名誉を保てたと思ってたのだが、リリアンヌはダニエマの襟を掴み、服の中を覗くという、言葉よりも恥辱を与えそうなことをした。
「思ったより鍛えてるのね」
ストイックに生きている人なら知らず、たぶんここでのそれは褒めているわけではない。ダニエマも触れてほしくないのか、何も言わず顔をそらす。
「太っているように見せてたのは何でなの?」
「……そのほうが女の子たちのウケが良いからよ」
迷いなく言うところから、嘘では無いようだ。頼りたくなる容姿というのも一理あるだろう。ただ、先日のように逃げなければならないことをしているのであれば、不利だろう。あの時は逃げ切られてしまったが。
このダニエマがもたれている疑惑は、人を運んでいくこと。薬の売買は、元々の商売だが、今は隠れ蓑だったのかもしれない。
物を売って帰る時も、船の沈み方が同じだったってロドリーゴが言ってた。それで俺はピンときた。
「積み荷に紛れ込ませられないときのためか?」
その言葉でダニエマが俺の方へ向く。ビンゴだったか。
商売もするだろうから、荷物に隠せないこともある。女子という良い“商品”が手に入った時、荷物か商品を体と服の間に隠していたのだろう。
ダニエマのその反応で、この場にいる者たちは、彼女がやっていると確信できた。
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