第150話:因子
転生者の因子みたいなものがある。というのがクリスティアンの見解のようだ。
俺はクリスティアンの話を聞いてそういう結論に至ったのだが、とはいえ、今でも混乱している。
つまり……クリスティアンの説明はそういうことだった。
俺とエルフリーデの逢瀬……つまり生殖行為が昨晩行われているという時間軸があった。そこで生まれていたのは、クリスティアンだったというのが彼の話。
「え~っと、だから初めにエルフリーデのことを母親呼ばわりしたってこと?」
「まぁ、その、何だ……そういうことだ。ちょっとやらかしたと思ったので、何とか誤魔化そうと思っていただけど」
気まずそうに頭を掻く。そして正座は崩していない。まだそこまで気が回らないのだろうか。
「だけど、じゃあなんで俺はタナカと呼ばれるままなんだよ?」
いや、俺はこのオッサンを子供と認めたわけではないが、転生者の俺としては、信じなくもない。
待てよ、聞いてみたものの、昨日の逢瀬は本当は俺じゃなく、別のものが相手でエルフリーデが生まれてたとか言うことなのか? いやいや、転生者の因子みたいなものってことだったし……。
少し動転しそうになったが、答えはさらに上をいっていた。
「タナカ、あんたには非常に言いにくいんだけど、俺が生まれたときは、すでにこの世にはいなかったんだ」
「……?」
どういうことだ。
昨日の夜に体を重ねて、それが切っ掛けで子供が生まれて、それがクリスティアンが「それ俺」って言うのであれば、ここから1年以内に俺が死ぬってことを言いたいんだろうか。
頭を抱えていたところ、エルフリーデの剣先がクリスティアンの喉に向けられた。
「クリスティアン。冗談にしては面白さが無く、事実だとしても絵空事だし、まったく笑えないんだけど?」
「いや、それは事実だけど、たぶん、事実じゃなくなったとも言える」
大柄でオジサンのクリスティアンだが、エルフリーデからの叱りに体が強張っている。これも母ゆえの何かなのか。将来は肝っ玉母さんなのだろうか……いや、話はそこじゃない。
「エルフリーデ、俺はまだ死んで無いし、ここにいる。まずは落ち着いて彼の話を聞こうよ」
洗いざらい話してもらうのが今の最善だと思うし、とても興味がある。死ぬのなら、死なない方法も聞きたい。
エルフリーデも「そうね」と不服そうに言い、剣を収め、ベッドに腰を掛け直した。
クリスティアンは俺に礼を言い、さらに詳しく話してくれた。
*
クリスティアンがここに存在していない時間軸では、この後、俺たちはダニエマの行方を追ってオーズィアへ向かう。
そこで待ち構えられていた武装集団からの襲撃に合い、俺はあっけなく死ぬ。エルフリーデはリリアンヌと護衛の助けもあり、命からがら逃げることができた。
しかし、エルフリーデがオイレンブルクの姫とわかり、国家間の問題になる。それでもベン国王や兄姉たちはエルフリーデを守ろうとした。そもそも、前の戦争はオーズィアからの水源を止められたところが原因の1つでもあった。そんな嫌がらせをする国のいうことを聞く必要もないとのことだった。
だが、エルフリーデが妊娠しているとわかったこともあり、体や精神的な負担を減らそうということで、ベン国王が貴族に臣籍降下したときにいた田舎へ移り住まされた。
日常的な生活は乳母でもあるゲルダが付き添い、護衛はくのいちでもあるリナとその一派が。さらにその周囲にも護衛を配置。世間が落ち着くのを待つことになった。
生活費はベン国王が外周の護衛の負担を。それ以外はタナカが作っていた商業ギルドからの資金でまかなえた。
クリスティアンも無事に生まれた。が、そんな中、どこから嗅ぎつけたのか盗賊がやってきて、エルフリーデは殺されてしまった。
クリスティアンはリナとその忍び一派に抱えられ、再び逃げる旅に出ることになった。実家(オイレンブルク家)へは一報を入れたが、次に何があるかわからないので、忍に匿われる生活へ一変する。
クリスティアンは幼いころから忍びの技を叩きこまれ、どこから知ったのか、気遣って訪問に来たミニョーさんから剣を学び、気が付けば手練れとして育っていた。
成人を迎えるころ、リナやミニョーさんからエルフリーデやタナカの話を聞く。エルフリーデのことは母としての認識が芽生えている頃だったが、タナカについてはよくわからない、というのが感想だった。
戸籍も表向きには無いこともあり、どこかの国に所属することなく、目立たないように、傭兵として生きることを選んだ。
だが、そんなに世間は甘くなく、手柄を立ててたにもかかわらず、敗戦濃厚だったので逃げて、橋から川に飛び込んだところ、自ら命を絶つことになってしまった。
ただ、それはこの世界での話。つまり、転生者の因子の影響なのか、別の世界で生まれることになる。
それが日本だった。
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