第149話:バツが悪い?
翌日、クリスティアンは土下座をしてる。
「昨晩のことは本当にすまない!」
それを聞いている俺とエルフリーデは、照れている。しかし、この照れは何かあったからではない。何もなかったのだ。キスすら。
何かあったかもしれないが、クリスティアンが来たことで冷めてしまったということもあるが、何かあった場合を考えると照れ臭かったのだ。
「てっきり窓からの襲撃だと思ったんだ、まさかただの風だったなんて……」
おそらくクリスティアンも気が張っていたのだろう。すべてがすべて、怪しく疑っているということだろう。
「だ、大丈夫よクリスティアン……ね?」
エルフリーデはまだ動揺を隠せず、俺に同意を求めてくる。
「そ、そうだよ。まだ俺たちは何もしてなかったんだし」
俺も動揺して変なことを口走っているが、ここの三人はみんな何かに動揺しているようで、「そうだよね、ハハハ」とごまかすことで事なきを得た。
そして三人で朝食を食べようとなった。だが、それでもクリスティアンは落ち着きが無くなった。
「気にしなくて良いって言ったじゃない?」
すでに俺は冷静になっていた。昨日じゃなかった、ってことだろうと納得していたし、行為中を見られるより恥ずかしいことではなかったし。
「いや、まぁ、そうなんだけど……」
そう言いながら、手を眺めたり、足元を見たり、何か落ち着きがない。エルフリーデも首を傾げる。
食事は早々に切り上げて、部屋に戻ってクリスティアンを落ち着かせようとした。
「なにかマズいことでもあったの?」
40代、落ち着いている傭兵という面影はない。顎をさすったり、手を握ったり開いたり、5歳児のように何かきょろきょろと落ち着きなくしている。
「ダニエマの件とは関係ないよな?」
ここまできて俺たちを騙していたのなら、全てがひっくり返ってしまう。少し身構えて念のため聞いた。
「それは、関係ないよ……」
といっても、歯切れが悪い。それだけでは俺たちは不安になる。エルフリーデも俺の袖をつかんできている。
その怯える姿を見て、クリスティアンは腹をくくったのか、「ふぅ~~」と大きく息を吐いて、「よしっ」と気合を入れた。
「これから俺が言うことは、本当の話だ」
覚悟を決めたのか、表情はいつも通りしまって、体の揺すりも止まっていた。
「あ、あぁ」
彼が何を悩んでいるのかわからないので、こう生返事するしかない。
「……」
ただ、まだためらっているようだ。じゃあ言いだすなよ! とツッコミたかった。
「言わんのかい!」
エルフリーデが代わりにツッコミを入れている。
「あぁ、ごめん、どこから話せばいいか考えていて」
クリスティアンとして、何か思い悩んでいることがあったのか。それを気付いてやれなかったのは、ここ数日一緒に行動してて申し訳ない。
「実は――」
勿体ぶっているゆえ、俺とエルフリーデは固唾を飲んだ。
「本当は昨日の夜、アンタたちに子供ができる予定だったんだ」
ギョっとする。1つじゃたりなくて、ギョギョギョである。
「な! 何を言いだすんだよ突然」
俺はツッコめたが、エルフリーデは回路が停止したように硬直している。
できる予定だったって、何をするとか、クリスティアンにわかってるわけないし。ってか、できるわけ……無くはないか。可能性として。
付けずに行為をしたら可能性はある。いや、経済的な心配はしなくても良いだろう。家族3人養うくらい余裕で儲かっているはずだし。
「いや、そうじゃなくて!」
思わず口に出てしまったが、違う、そうじゃない。
「戸惑うのは仕方がない。ただ、その時に生まれるはずだった子供が、俺が部屋に入ったことにより消えてしまったってことだ」
「いや、だから、どういうことだよ?」
エルフリーデは固まりつつも顔が真っ赤に染まってきている。大丈夫、生きているし、話も耳に入っているようだ。
「本当は、俺はあそこで入っていなかったんだ」
「いや、私、キ……キスもしてなかったし」
エルフリーデはまだ混乱している。何を言い訳しているのか、本人もわかっていないようだ。ただ、声は出るようになったのは良かった。
クリスティアンは「そういうことじゃないんだよ」と首を横に振る。
「未来を変えてしまったんだよ」
「未来?」
俺はふと思った。昨晩入ってきたときに後悔したような顔をしたのは、何か知ってて、それを覆してしまったってことだったのか?
そして思い出した、今までの行為が少し違和感があったこと。エルフリーデを母さんと呼んだり、敵(ミヒャエル)の行動が読めているような動きだったり。
もしかしたら、この男は未来人なのか? いやそういうのはありえないと言いたいが、俺も転生者である。無くは無いのだろうか。
その未来という突飛も無い言葉でエルフリーデも我に返れたようだ。興味を持ったらしい。
「そう、未来が昨日の夜で違う軸に伸びてしまったんだ。だから俺には話す義務がある、そう考えている」
雰囲気的には面白そうというよりも、真剣に、やや後悔しているような表情である。俺たちもちゃんと聞かなければならない話なのだろう、というのはわかる。
「どういう事情か分からないが、これも縁だし、俺たちで良ければ話してすっきりしてもらえたら良いんじゃないかな」
「そうね、そう言われると続きが気になるじゃない」
俺もエルフリーデも寛容である。クリスティアンもウジウジしなくて良いと思う。
「じゃあ、話すけど……」
言いたくて話始めたのはそっちだろうに、渋々話始めた感じだった。
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