第65話:ソフィアの事情3
ショーパブでの固定給でソフィアの病気の面倒を見ることはできなかった。定期的に医者に見てもらうには足りてなかった。
すぐに眩暈がするようになってしまっていたソフィアは、一日の大半をベッドで過ごすことになっていた。
フィンが昼夜必死で働いても間に合わない状況になっていた。家に帰れば欲しかった母親がいる。毎日知らなかった間の話を聞けるし、話をできる。
それで満足したかったが、その母が毎日辛そうにしている姿を見てしまう。ソフィアは視力も失い始めていた。しかし、それも背負っている罪だと思い我慢していた。
そんな中、フィンはオイレンブルクの王がベン=オイレンになったことを耳にした。
母の状況を伝えたら何とかしてもらえるのではないかという思いと、バレたら少なくとも自分は殺される。もしかしたら母も殺されてしまうのではということも考えられた。
ショーパブが終わるのはだいたい夜が遅い。それでも家に帰ると体を起こして迎えてくれる母親の姿。日を追うごとに辛そうに見えるが、そう見せないように無理をしているのもフィンはわかってしまっている。
ある日、ソフィアが大事にしていたマグカップを見誤って落とし、割ってしまった。それはオイレン家を出るときに持って出たものの一つで、当時の家族全員で買ったもので、唯一オイレン家だったことが証明できるものだった。
悲しい顔をする母親の姿を見て、フィンは覚悟を決めた。
ソフィアのことをギュンターたちバロンズのみんなに任せて、家を出た。オイレンブルクの首都まで徒歩で何日もかかる。ベン=オイレンに会える保証もない。
首都に到達して、時間がかかるが、謁見できることを知り、割れたマグカップのかけらを預けて会いたいことを伝えた。
そんなに簡単に謁見はできない。コネクションもなく、本来なら年単位で待つこともなくはない。しかし、フィンはすぐに会うことができた。
宿泊している宿まで、ベンが直接会いに来た。
殺されることも覚悟して、それまでのことをすべて話した。しかし、ベンは怒ることは全くなく、フィンに感謝した。自分の息子のように抱きしめ、感謝した。
フィンとベンはすぐにソフィアの元に向かった。マグカップのかけらを見て、もしかしたらと考えていたため、馬車も用意されていて、ほぼ休みなく3日かかった。
馬車の中では、それまでのいきさつを詳しく話をした。ベンはどれも興味を持って聞いていた。そしてソフィアの体の心配ばかりしていた。
貴族時代の装いだったため王だということは気付かれず、お忍びで無事に入国することができた。
後にも先にも恋愛で好きになった男性が、前に現れたことにソフィアは驚いた。見えづらくなっているとはいえ、影でも感じ取ることができる。留守を守ってくれていたバロンズのメンバーはみな膝をついた。
バロンズのメンバーは元々男爵家の子息が集まったことで、その名前になった。ただ、追い出された子息なので自虐も含んでいた。だから他国とはいえ、王への礼儀はわきまえている。
ベンはできる限りの支援を伝えた。しかし、ソフィアは全てを断った。これは自分が望んで招いたことだと頑なに断った。
住まいや、せめて医者の手配だけでも、というベンだったが、どれだけ言ってもソフィアは受け取らないと言った。
ソフィアは、時間が経っるのに、不義理を働いた自分や、それに巻き込んでしまったフィンに罪を問わず、さらに支援を言ってくれることは感謝してると伝えた。
「希望を言えるなら、このままにしてほしい」というのがソフィアの願いだとわかったので、ベンはその場は諦めた。
ベンはフィンに何かあれば連絡するように伝えて国に帰った。
*
それが今に至るということである。
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