第64話:ソフィアの事情2
ソフィアは準男爵・フォーゲル家の出身だった。
戦争に明け暮れ、国費が貧窮していたこともあり、爵位も売りに出していた。準男爵家というのはお金で買うことができた位だ。
成金でもあったソフィアの実家は、準男爵の爵位を購入した。もちろん安いものではなかったが、箔をつけるには安いものだった。それでさらに大きな商売ができるようになったから。
ソフィアの父親からすると、娘は商売道具の一つだった。愛だの恋だの知ったことではないという。“初め”の結婚も、男爵家の相手・マイヤー家の商売を奪いたいという気持ちからだった。
そこで生まれたのがフィン。ソフィアは16歳だった。
長男が生まれソフィアの父もマイヤー家の商売を奪える、と思っていた矢先、夫が亡くなった。マイヤー家の家督は生まれたばかりのフィンでは継げず、他のものが継いだ。
ソフィアの父親は激怒した。だが、マイヤー家にするとしょせんは他人。覆ることは無かった。
その怒りに任せ、ソフィアは父によって連れ戻された。その時、息子のフィンとも引きはがされることになった。
フィンはマイヤー家で育てるということになった。しかしそれも、家長に長男が生まれたことで、その後追い出されることに。
ソフィアは再びソフィア=フォーゲルとして“市場”に出されることになった。傷が癒えない状態だったが、パーティーで出会ったのがベン=オイレンだった。
ベンが見初めたということもあり、フォーゲル家は断ることができなかった。「“傷もの”であることは隠し続けろ」ということが父親の言葉だった。
自分のことしか考えていない、どうしょうもない言葉だった。しかし、ソフィアにすると初めての恋愛。そして、その事実さえ知られることがなければ父親から離れることができ、幸せになれる。と思っていた。
それから4人と子だくさんに恵まれたが、幸せが続くことはなかった。体調が落ちていったのだ。
ソフィアは自らの“嘘”を神様が形を変えて背負わせていると思うようになっていた。たぶん先は長くないだろう。だけど、バレないように、幸せに、短く生き、このまま嘘も連れて行こう。そういう考えになっていた。
だが、18年経って再びフィンに出会ってしまった。
*
これは歴史書には載っていないし、今後も載ることはない話だとわかる。俺はこの知らない事実に固唾を飲む。
そして、フィンが置かれていた、家督を譲るものができて追い出された状況に共感した。選んだ職業が違ってたから俺が上手く行っただけではない。俺は転生したため前の世界の知識を活かすことができた。何もなく今の俺だったら、家を出された時点ですでに死んでいたことも考えられる。そう思うと、フィンの苦労は計り知れない。
フィンは表情を変えずに聞いているということは、このソフィアさんの思いが混じった話も知っていることなのだろう。
エルフリーデは母の手をしっかりと握りしてめ、語る顔をしっかりと見ている。
*
ただの興行の一座の一員だったフィンにとって、元王族で貴族の妻を連れて逃げる、ということは、ただの罪では済まないことは理解していた。
しかし、一族取り壊しと言われても、守るべき実家はない。あるけど、守る責任はない。
そして、母親というものが目の前に現れた。欲しかったものである。旅をする興行について行っているのは、いつか出会えるのではないかという思いがあったということ。
やっとこれで母親を得られる。そして奪えば独り占めできるという感情を持った。寂しさを持っていたフィンは、ソフィアが一緒に行きたいと提案したとき、迷うことはなかった。
興行を束ねる人物には、「自分のファンが付いて行きたいと言っている。責任は取る」と何とか言いくるめることができた。人気があった歌唱集団バロンズのメンバーの願いを断ることができなかったらしい。
しかし、ソフィアも興行に付き添うことになったが、病状は悪化する一方だった。それもあり、興行からは厄介者になっていた。
フィンはソフィアのためにできれば安定した場所で活動したいと、バロンズのメンバーに伝えて、了解してもらった。
そして見つけたのが、ビンデバルトのショーパブにて、固定で働ける口だった。
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