第31話:異世界蕎麦打ち教室開校

 蕎麦の食べ方と味を知った村民たちは、俺たちに協力を買って出てくれた。


 渋っていた村長も、雑草ということにして領主を欺いて自分たちの食糧を確保できるかも、と思い、栽培地について暗黙してくれた。


「なぁ旅の者よ、それでわし達は何をすればよいのだ?」


 普段、栽培も収穫するものもなく、仕事もなく、教育も行き届いておらず、日々過ごしていた村民たちだが、何かやれることがあるというのは生き甲斐なのかもしれない。村を訪れたときと変わって輝かせている。


 そういうときは、何か手に職を持っているのが生きていくうえで重要だろう……というのが前の世界の経験則である。バブルが弾けたあと、面接官から「何もできないの?」と言われたときに、「お前らが欲しがる術を持ってやるよ」と思ったことがあった。実際はダメだったけど……。


 それはさておき、この人たちに教えるのは、麺打ちの作業だ。


 蕎麦を育て収穫しただけでは、またどこかで買いたたかれてしまう可能性もある。薬局と話したときにわかったが、フェアトレードという言葉はまだなさそうだし。


 生産だけの一次産業だけではなく、製造する二次産業、そして販売する三次産業までトータルでできれば、この村の経済は豊かになる。いわゆる1+2+3を合わせた六次産業化というやつである。


 となると、二次産業の部分を育てるのが良いと考えた。あと、蕎麦を打てないと、村民が食べる物が完成しないので、空腹は満たされない。


 蕎麦がきでも良いのだけど、それは俺があまり好まない。麺が食べたい。教え込み、上達してもらいたいというのは、俺のせめてもの対価と思っている。


 緊急蕎麦教室が開校した。


 とはいえまだ生徒は村長推薦の器用な3人。少し多めに収穫していたとはいえ、失敗することも考えて、蕎麦の量がそれくらいしかなかった。あとは見学者が多数。


 家庭にあったボウルや細い丸い棒、包丁を持参してもらった。のし台はテーブルや何かで代用できる。小間板もひとまずなくても良い。


 蕎麦をボウルに入れて、水を足していく。一気に加水するのではなく、何回かに分けて。水が全体に浸透するように混ぜていく。間髪を入れずに仕上げていく。そうしないと割れてしまうことがある。


 2回目3回目と加水をしていくことでまとまりができていく……はずなのだが、当然上手くいかない。上手に思い通りにできないと、人は自信を持てなくなってしまう。とはいえ、失敗は想定内。


 あまり無い物から使いたくないのだが、小麦粉を足すことにした。こうすることでまとまりやすくなる。今回の小麦粉は、エルフリーデが持参していたものを使わせてもらうことにした。実際村で出すときは10割蕎麦にしてもらいたいと付け加えた。ここで小麦粉を使ってしまうと、納めなければならない年貢に誤差が出てしまう可能性がある。


 さらに少し禁じ手だが、もちもち感を出すためにタピオカ粉を混ぜることにした。これでエルフリーデが言っていたところは解消できると思われる。


 元々器用で、何か得よう、学ぼうとする姿勢が強いこともあり、3人とも物覚えが早そうだ。一度10割蕎麦で難しさを体感しているだけあって、仁八蕎麦はやりやすいのか、見る見るうちに塊になっている。


 そこからボウルに当てるように捏ねて捏ねまくる。これが足らないと切れてしまう原因になる。そこは村民、パワーもあるので安心だ。


 100回ほど捏ねて耳たぶくらいの硬さになったら打ち粉をふった台の上に置き、丸い棒で伸ばしていく。手本を示したら、みんなそのまま上手に作っていく。


 薄くなってきたら、包丁で切れる幅くらいに折り畳み、2ミリ程度の幅で丁寧に切っていく。太さにばらつきがあると、茹でるときや食べたときの食感が良くならないと伝えた。


 器用な3人だけあって、仕上がりは良い。茹でて食べても良いものが出来上がった。蕎麦の香りも十分立っている。


 それからすでに収穫できそうなものを収穫し、一旦食べる実と、種にするものを分けて行った。実は1週間ほど乾燥させて、石臼で引く方法も教えた。


 石臼はエルフリーデが村に提供することにした。


 とはいえ、少し問題がある。


 石臼も産業とするには1つでは足らないし、なにより畑を耕す道具が足りなかった。

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