第27話:栽培に適した土地

「それでその蕎麦の実だけど、どういうところで育つものなの?」


 俺は記事広告のため蕎麦打ち体験をしたことがあり、記事のために調べることをした程度である。が、たぶんエルフリーデよりは知っているはず。


「寒くても痩せた土地でも育つ穀物かな」


「え? それって産業にするには良いんじゃないの?」


「そうなんだけど、オイレンブルクは比較的気候が良いから、小麦も米も育ってるから、寒冷地で育てなくても良いサイクルでしょ。だから今まで作るという発想がなかったんじゃない?」


 グルメ的な文化がない国なので、人口に対して作っておけばよい農作物が割り出され、無駄を極力出さない生産率になっている。


 これはある意味理想ではある。でもそれでは新しいものは生まれず、つまらない。このつまらないというのも人は思考してこなかったのだが、俺がフリッチュの街で新しく美味しいものを作ってしまったことで変化を起こしているようだ。


 王も娘からの頼みで、蕎麦を特産品にならないかという相談をしにくるくらいなので、あと数年するとがらりと変化があると思われる。


「たしかに、そこまでしなくても良かったんだけど……」


 エルフリーデも同様に数年後を見越して考えているようだ。家が王籍に復帰したことで、この国を支えなければならないという考えに至っているのだろうか。俺とそんなに年齢も変わらないのに。


「どうしようか……」


 何とかしてやりたいのだが、隣の国と交易を王自らはしたくなさそうなので、この国で探さないといけない。痩せてる土地で、寒冷地で……。


「……あ!!」


 俺は家を出されて、あまり回ってきたわけじゃないのだが、前の世界の記事を作った時の記憶と合わせて辿ったところ、一つの場所を思い出した。


「何!?」


「あるよ! この国にも蕎麦が!」



 少し離れたところだが、土地が痩せてしまって、ボロボロになっている村があった。干ばつがあったにもかかわらず、領主に納める農作物が変わらず徴収されている。そのため茶屋では団子くらいしかなく、村人は今日食べるものにも困るようで疲れ果てていた。


 俺が家を出され、育ってきた町を後にして初めて訪れた村。


 その道端に絨毯のように咲いていた白い花。あれは蕎麦の花だったはず。


 それをエルフリーデに伝えると、すぐに準備を整えてフリッチュを出発した。



 エルフリーデの邸宅で借りた馬を駆って、半日ほど経ったところで野営をすることにした。今までやっていた徒歩の旅とは違い、やはり早い。


 お嬢様……ではなくお姫様にそういうことをさせても良いのかと伝えたが、通っている学校ではそういう訓練もあり「気にするな、むしろ好きなことだ」ということだった。


 エルフリーデは、積んでいた荷物からテントを取り出し設営し、火を起こし、塩漬けした肉を細かく切りスープを作り、体を温めた。


 俺は家を出て慣れているので、テントも張らず野宿。暖はエルフリーデの焚火を借りた。スープも頂戴した。


 しかしどうしてだろうか、火を囲んで無言の時間が過ぎていると、自分のことを語り始めてしまう。今までは一人旅ばかりだったので、こういう雰囲気にならなかったからか。


「俺はそんなに秘密があるわけじゃなく、何もなくて、だから語らないだけで、それが秘密があるように見えているだけかもしれない」


 エルフリーデは何か語り始めた俺を見るわけではないが、聞いてはいるようだ。


「生まれたのは、小さい町の貧乏貴族だった。お前のオヤジ……王様が就く時の貴族内の闘争ではずれを引いてしまって、じゃねぇな、自ら選んだからそれがはずれだったってことだな。だから小さい町の貧乏貴族として生き延びれたのは温情だったのかもしれないな。ある意味感謝か……。長男として生まれた俺は、父親が期待して、何とかまた中央に戻ってほしいってことで熱の入れようだったよ。でも弟のできが良すぎて、気付いたら俺はお払い箱――」


 追い出した王の娘だからという恨み節ではなく、なるべく感情の起伏を出さずに伝えた。街で美味い物を作ってただけの馬の骨を信頼してくれていることへのお礼で伝えただけだ。


 とはいえ、前の世界の話はできないので、この世界の話だけだった。


 エルフリーデは特に深く聞いてくることはなく、焚火の薪が燃え尽き、崩れたころ、立ち上がってテントに入っていった。


「ありがとうね」


 立ち上がる際に聞こえた言葉は、俺の自分の素性を伝えた事なのか、行動に付き合ってることなのかわからないが、俺にはわからなかった。



 翌日、俺が過去に訪れた1か所目の村へ1年ぶりに着いた。

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