第23話:実家に呼ばれて

 エルフリーデの話によると、何か名産を作ってほしいということらしい。父親の屋敷までの間、馬車の中で聞かされていた。


 そして、なかなかその屋敷に着かない。もうかれこれ2時間ほど乗っている。エルフリーデの屋敷から丘を越えて森を抜けて、さらに森を抜けて。


「なぁ、まだ着かないのか?」


 2時間もあると、さすがに後半は無言が続いていた。沈黙を破って我慢できず聞いた。エルフリーデはうたたねしていたようで、顔を支えていた肘がカクンと落ちた。


「ん、あぁ、そうね……もう着いてるよ」


 何を寝ぼけているのか、まだ森の中だ。


「うん、だからそう、もう敷地に入ってるよ」


「……マジで?」


「たぶん30分くらい前からかな」


 衝撃的なことを言って、何事もなくあくびをするが、俺は冷静になり考えて、この子はとてつもないお嬢様だと理解した。


「漫画の世界だな……」


「まんが?」


「あ、いや、独り言。俺の世界の言葉でファンタジーって言う意味みたいなもんだ」


「ふ~ん……あ、見えてきたよ」


 エルフリーデの視線の先に、かなりデカい城があった。おそらく、ただのとてつもない貴族ではない。


 城が見えてからも10分程度かかった。近づくと、壁があり鉄扉が見えてきた。特に身分照会もなくそのまま通過できた。そしてバラ園を抜け、やっと建物までたどり着き、馬車のドアが開けられた。


「エルフリーデ……君は何者だ?」


「私? この国の姫だけど?」


 馬車を降りる姿は、光が射して、さっきまでの眠り姫が本当の姫に見えてしまう……本当の姫なのだが。


「え? ちょっと、何だよそれ」


 俺は貴族って聞いていた。だけど、姫の父親ってことは国王。その悩みなんて俺が解決できるわけがない。


 戸惑っている俺をしり目に、先へ先へ進んでいる。


「俺、お前のオヤジの悩みを聞くだけじゃないのかよ!」


「そうよ、私の父親、国王だけど」


「だけどじゃねぇよ。貴族って言ってただろ!」


 俺とエルフリーデは先まで長い通路を歩いて言い合いしているが、お仕えしている者たちが端によけてお辞儀している間も続いている。振り返ると、こちらを不思議そうに見ている。そりゃ姫に言いがかりをつけている謎の男だから仕方がない。


「そうね、貴族だったこともあるということで間違いではないよ」


「と言っても、いまは国王だろ?」


「う~んそうだけど~、私にとっては父親には変わりないし~」


「そういうことじゃないよ。俺に取ったら国王だろうが」


 さらに言うと、この国王が即位する直前、自分の父親が属してた勢力が失脚したため、タダでさえ小さかった実家が地方に飛ばされることになった。実力がなかったのも問題なのだが。


「いやしかしだな……イテッ」


 エルフリーデに訴えていたら、気付かなかったドアにドンと体当たりしていた。


「さぁ、着いたわよ」


 見上げると、他の部屋と違う重厚な扉があり、扉番がいる。その者たちは何も言わず、ドアを開けた。


「この向こうに、国王が……」


 赤いじゅうたんの向こうが国王が座る玉座である。

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