第22話:グイグイ押されて仕方なし
エルフリーデとゲルダ、そのあと匂いにつられてキッチンにやってきたお手伝いさんたちを、ガレットにより胃袋をつかんだ俺は、認められ質問攻めにあっていた。
ガレットの作り方と、合わせて粉の挽き方も伝えたりしていると、2時間くらいたっていた。
疲れていたところ、エルフリーデに連れ出され、自室に招き入れられた。
「おお、お嬢様」
天蓋付きのベッドを見て、おもわずアホな発言をしてしまった。それ以外も、ピンク系のフワフワした部屋のレイアウトだったので、まぁそう思っても仕方がない。
「……タナカって貴族じゃないの?」
「え? どうして……」
貴族とバレると面倒なこともあるので、旅人的な、吟遊詩人的な、フーテン的に見せていたのだが、どうしてバレたのだろうか。
「どうしても何も、ちょいちょい出てるわよ。料理だってそう、ある程度食べたことがないと出てこないアイデアだし、人に教えるのが上手ってことは、結構良い教育を受けてたってことだよね。ということは貴族かもって思うじゃない。それに、この家に来た時も驚いているわけでもなかったし」
「いや、驚いてたけど」
「それは、家じゃなく、ここが私個人の家だってところでしょ?」
「……まぁ、そうかも」
「でしょ? 普通は躊躇して入ってきたりするのよ」
「なるほどね……」
「ま、それよりも、やっぱり指導力ってところで、貴族にはバレる可能性が高いわね。学校で教えられることとか、嫌でも人の上に立ってやらなければならないことを学ばされるじゃない?」
そういうもんなのだろうか。俺は学生が2度目なので何も考えずにしてたのかもしれない。だけど、エルフリーデは自分が貴族であることを良く思っていないのだろうか。ふとそんなことを感じされられる言い方だった。
「それで、俺が貴族ってことがエルフリーデに何か関係あるの?」
「……タナカも貴族ってのがあまりお好みじゃなさそうね?」
「好きだったら、こんなに自由にブラブラしてないと思うよね」
「……まぁいいわ、人それぞれだと思うし」
深く事情を聴かれずに済んだ。
「少し相談があるから来てもらったのよ」
「蕎麦の実のことじゃなくて?」
「あれも知りたかったんだけど……それはそれ。もう一つあって、私の実家のことなんだけど……」
エルフリーデの実家ということは、そこそこ規模のデカい貴族の家の話になる。
「え゛?」
俺は如実に嫌な顔をした。別にバレてもかまわない。かなり面倒なことに成るかもしれないので嫌だ。
「そんな、わかりやすい顔を……」
「いや、俺もエルフリーデに比べ……ものにならないくらいの落ちぶれ小貴族だけど、その家の事情に巻き込まれるのって、本人だって嫌なんだけど……」
「だよね……でも、これはタナカにしか頼めないの! 偶然だろうけどこの街に来てくれたってのは何かの縁だと思って、ね! ね! ね!!」
事情をわかってくれていると思うんだけど、それでもグイグイゴリゴリ来るってことは、よほど困っているのだろうけど……やっぱり乗り気にならない。それがまた顔に出ていたようだ。
「なんとかして断ろうって思ってるでしょ?」
「ギクっ」
「セコい話をすると、この街・フリッチュは私の兄が治めている街なの。その街であなたは勝手に商売人を焚きつけてやる気にさせて、ミルクの組合とか作らせちゃったり、市民が頑張る気になったり、治める側としては良くない状況になっている、とか考えたりしない?」
これは脅しだ。エルフリーデの相談に乗らないと難癖付けられて、どうにでもできるぞ、ということだろう。
「エルフリーデのやり方が賢いやり方、ってことを言いたいの?」
「……ごめん。でもこうでも言わないとタナカは手伝ってくれないだろうと」
俺が追い込んだのだろうか……いや、断る権利だってあるはずなのだが、本意とは違う虚勢を張ってしまったことの反省だろうか、エルフリーデの落ち込んでいる姿を見ると、話を聞くくらいしたほうが良いのかも。
「じゃあ、話を聞くだけなら」
待ってましたとばかりに、エルフリーデは満面の笑みで俺の手を握り締めた。
「ありがとう! いやぁ、嘘でも言うもんだね。兄がそんなことするはずないし。ってか街を盛んにしてくれたことを喜んでたし! 今度連れて来いとか」
してやられてしまった。俺はまんまと乗せられてしまった。
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